2013シーズンを振り返る 山口慶編

 昨年の山口慶は夏に怪我をするなど戦列を離れていた時期もありましたが、10月に戦線復帰すると天皇杯FC東京戦でいきなりスタメンに選ばれ、延長戦を含む120分間フル出場を果たします。
 その活躍が評価される形で、そのままシーズン終盤にレギュラーの座を獲得。
 豊富な運動量とカバーリング能力。
 そして、アプローチの速さで、中盤の守備改善に大きく貢献しました。



 山口慶と比べてしまうと、それまで起用されていた他のボランチは守備面での課題が大きかった。
 特に相手選手がボランチ付近でボールを持った際に、一歩、二歩と詰めるのが遅れて後手に回ることが多かった。
 そこからドリブルを仕掛けられズルズルと下がってしまったり、パスを展開されてしまったり…と守備に締りがなかった印象でした。


 当初はDFラインの深さと前線からのプレスに課題もあって、ボランチの対応が遅れがちになるのかなと思っていましたし、実際そういった影響もあったとは思います。
 しかし、山口慶が入って自力でそのスペースを埋めていく姿を見ると、周りの問題だけでなくそれまで起用されていたボランチにも大きな課題があったことがハッキリとしていきました。
 天皇杯で対戦したFC東京は選手1人1人のアプローチが非常に速かった分、なおさらそこが目立って見えて、アプローチ面において唯一対抗できたのが山口慶だった印象すらありました。


 山口慶のアプローチの速さとカバーリング能力によって、ルーズになりがちだった中盤の守備が改善され、セカンドボールも拾いやすくなったと思います。
 加えて右SB米倉が上がった後の守備の穴もスッと埋め、そのまま右サイド寄りでプレーして攻撃時も米倉を押し上げるなど、自主的にチームの課題を解消していった印象です。
 前年も途中出場の8試合のみで、このままいけば来期の立場は難しくなるだろう…と思われていたシーズン終盤にレギュラーを勝ち取ったことになります。
 練習から真面目に取り組み、腐らずにやり続けた姿勢が、実になった形ではないかと思います。



 しかし、天皇杯後のリーグ戦では課題も見られました。
 ジェフからして格上、同格のチームのチームであれば相手が地上戦を挑んでくることが多いので山口慶の良さも出てくるのですが、J2の下位チームとなるとロングボールやサイドからシンプルにクロスを蹴りこんでくることが多い。
 そうなってくると、身長も172cmと小柄な部類に入る山口慶では跳ね返せず、DFラインに吸収されてしまうシーンも少なくありませんでした


 守備面で良さが出せないと、課題であるビルドアップの面が目立ってきてしまう。
 決して技術がない選手ではなく、FC東京戦などでもフリーでボールを持てればうまく前へパスを出せていました。
 しかし、相手選手が前にいる状況での判断に課題があって、囲まれてボールを奪われる…あるいは、そこでの判断スピードが遅いために、パスワークのリズムが止まってしまう…といった場面が多い。
 相手チームも「山口慶にボールが入った瞬間に人数をかけて囲い込む」という狙いをもって、やってくるところが多かったと思います。


 加えて昨年は右CBから2列目への楔のパスというパターンがビルドアップでの明確なルートの1つだったわけですが、そのために右ボランチは前のスペースを空ける動きをしていました。
 そういったオフザボールの動きも山口慶はもう1つといった印象で、ボランチが下がって簡単にさばくというプレーもあまりうまくできていない印象でした。
 連携面においてはそれまでトップチームでの出場が少なかったという問題もあるとは思うのですけど、ビルドアップにうまく絡めないという課題は昨年だけではなかったわけで…。
 それはなぜかと考えると、技術面だけではなく判断面やオフザボールの部分などにも、改善すべき点があるのではないかと思います。



 山口慶は守備では大きく貢献してくれたものの、高さの部分やビルドアップの部分の課題もあっただけに、身長があり足元の技術もあるという田代への期待は大きくなります。
 田代がボランチに定着してロングボールを跳ね返せるようになればCBの負担が軽くなるだけでなく、ボランチがDFラインに吸収されるという課題も減るのではないかと思います。


 とはいえ、アプローチの速さやカバーリングまでは田代に望めないかもしれないですから、そこが今年の山口慶にとってはチャンスと言えるのかもしれません。
 空中戦は田代に任せて、山口慶は地上戦で貢献する。
 昨年は高橋がいましたが今年は両SBが攻撃的選手になるかもしれませんから、両ボランチに守備を期待するという展開もありえるかもしれませんしね。


 田代と組むようになれば空中戦の課題は解決できるかもしれないし、残る課題はビルドアップのみ。
 現チームは個人での展開力よりも組織的なパスワークを構築しているわけですから、判断力の部分を高めれば山口慶にも上手く絡めるチャンスはあるのではないでしょうか。


 今オフは選手の入れ替えもありましたし、今後の補強次第ではライバルも増えるかもしれませんが、昨年終盤の流れを止めずに開幕を迎えられるか。
 山口慶も30歳を超えベテランの域に入ってきていますから、1シーズンを通して貢献できるかどうかが求められることになってくると思います。
 チームとしては世代交代も考えていかなければなりませんから、今年は山口慶に限らずベテラン選手にとって勝負の年になるかもしれませんね。