縦への素早いパスワークへの可能性

 チャンスは確実に作れた試合で、あそこまで行ったらもう最後の精度の問題ですよね。
 あれだけのチャンスがあって、1点に終わってしまったのはすごく残念です。
 守備の方も一発でやられた形とはいえ、裏への対応に課題が見られました。


 とはいえ、逆に言えば攻撃に関してはチャンスを作るまでの動きはすごく良かったし、全体的な試合内容は悪くなかったと思います。
 選手のコンディションも良かったと思いますし、チーム状況は良いのではないかと感じました。
■パスをつないで先制点を演出
 前節同様、キックオフから積極的に前に出ていくジェフ。
 前へ素早くボールを送るけれども、選手もしっかりと人数をかけられていたからアバウトな展開ではない。
 ケンペスや田中といった前の選手がどんどん前へ走りこんでいくだけでなく、全体のラインも高く前線の選手へのサポートも早いので、選手の距離感が近く、縦への素早いパスワークというものが成立していたと思います。
 守備においても中盤で素早くチェックに行けていて、ボールを奪ってカウンターという形も作れていました。



 前半8分、キムのパスから米倉が抜け出し、センタリング。
 ニアに入ってきた田中が足で合わせて、ジェフが先制します。


 このシーン、GKからしっかりとパスをつないで生まれたゴールでした。
 GKからのボールを米倉が受けて、山口智に展開。
 そこから高橋、健太郎とつないで、健太郎が前の田中へ縦パス。
 田中が反転して前を向き、高橋が外をオーバーラップすることで、栃木の守備を左サイド後方へと押し込みます。
 そこから中央の兵働、山口慶、キムとつないで右サイドへサイドチェンジ。
 大きくサイドによった栃木の守備の逆を突く形で、米倉がボールを受けてボールをあげるところまで作れました。
 キムの斜めのボールも良く、細かくパスを回して中も覗きつつサイドチェンジというのは、チームの狙い通りだと思います。


 また、右サイドからのクロスに対して、ケンペスがファーに動いて田中がニアに飛び込んでくるという形は、シーズン終盤に確立されたパターンになっていますね。
 相手DFとしては第一にケンペスをケアしなければいけないわけで、ケンペスがボールに逃げながら動くことで中央にスペースができ、そこに田中が飛び込んでいくと。
 シーズン折り返し時点までは後方から前へのビルドアップを中心に作り上げていたジェフですけど、ゴール前の連携というのも出来つつあるように思います。



 その後もジェフペースで試合は続き、前半14分には左サイドのパスワークから健太郎がシュート、これが相手DFに当たったところをケンペスが拾ってシュートを放つも、惜しくもゴール右に。
 直後のCKでは、ファーに飛び出したキムにボールが入りますがコントロールできず。
 18分にも、兵働が落としてケンペスがシュートを狙いますが枠外。
 23分にはケンペスチェイスから相手がミスをして兵働がボールを奪い、山口慶がシュート…とジェフが次々にチャンスを作っています。
 30分頃から徐々に序盤の勢いは落ちてきましたが、それでも35分には左サイドでのスローインから兵働が一度受けてタメを作り、足の裏で走りこんできた町田にパス。
 町田が巻いたシュートを放つなど、惜しいシーンがありました。


 チャンスは何度も作れていたのですが、決めきれない。
 悪くない出来ながらも嫌な予感も感じながら、前半を折り返します。
■DFの裏を突かれて失点
 ハーフタイムを挟んでからもジェフの動きはなく、後半立ち上がりにはケンペスの抜け出しから田中がシュート。
 後半3分には兵働が直接FKで惜しいシュートを。
 その3分後には兵働がボールを拾って右サイドの山口慶にパス、中央の町田にパスをつないでいるうちに大外を米倉が走って行って、そこへ町田がワンタッチパス。
 完全に裏を取った米倉がダイレクトで田中に中に合わせて、田中がヘディングシュート…と決定的なチャンスを作っていきます。


 しかし、後半8分。
 中盤でヘディングによって繋がれ、ボランチの裏を取られると、そこから一気に裏へのボールを出されて、サビアが抜け出してそのまま同点ゴール。
 山口智の一歩目の反応が遅れて、やられてしまった印象でした。
 ボランチの裏を取られた時点で、前に行くか後ろをケアするか迷ったのでしょうけど、反転スピードの課題が明確に出てしまったかなぁと。
 それでもボールが出た瞬間は山口智が前にいたはずで、素早く反応していれば完全に抜け出されることはなかったと思うのですが。
 このシーンだけならば仕方ないとも思いますが、前半にも2、3度山口智の裏を取られてあわや…というシーンがありましたし、もう少し警戒しても良かったのではないかとも感じてしまいました。



 その後もDFラインの裏を狙う栃木、パスをつないで行って攻撃を仕掛けるジェフといった展開。
 後半13分には兵働のタメから米倉が抜け出して、町田へクロス。
 後半15分にはケンペスのポストから裏へ抜け出した町田がクロス、再びケンペスに戻してシュートもクロスバー
 その5分後には兵働が斜めのエリアから思い切ってシュート…と流れは悪くなく、チャンスはあったと思います。
 栃木も前半に比べるとカウンターで何度かチャンスは作っていたとは思いますが、確実にチャンスはジェフの方が多かったと思います。
 それでもなかなか決まらない。


 後半25分。
 足を痛めた田中に変えて深井を起用。
 田中はこの試合裏の飛び出しだけでなく、ロングボールを落とす役割もこなしていましたから、ちょっとこの交代は痛かった気がします。
 深井も悪くはない出来ではありましたが、ボールを受けてから走り出すことが多く、受け手としてはもう1つだったかなと。
 かといって、他に田中の代わりになりそうな選手もいなかったですし、仕方のない交代ではありましたが。


 その後もカウンターからチャンスを作ったり、深井のチャージで相手GKのミスを誘ってあわや…というシーン、兵働のミドル、米倉のクロスから深井が合わせるシーンなど惜しいシーンは何度もありましたが、ゴールが遠く1-1の引き分けとなってしまいました。
■縦への素早いパスワーク
 栃木は思ったよりも、あまり動きが良くなかったですね。
 守備においてパスの出所も消せず、後方のスペースも潰せず、フィジカルでも潰せなかった。
 スクリーンプレー等も出来ておらず、中途半端な守備になっていた印象だったかなと。
 そのためジェフは2列目の選手が自由に動けて、やりやすい状況だったと思います。



 ただ、相手の出来を差し引いてもジェフの動きは悪くなかったと思います。
 前節長崎戦でも試合序盤までは良かったように、この試合でのジェフも前半30分までは速く迫力のある攻撃が出来ていました。


 イメージ的には、今までやってきたサッカーのスピードを速めたような感じでしょうか。
 ケンペスや田中を中心に前に早く飛び出していって裏を狙う、あるいは前に飛び出していって、ターゲットになる。
 そこに素早くパスを出していって、相手のDFラインを下げてバイタルエリアを広げる。
 そこに町田や兵働が受けるだけでなく、全体のラインを上げることによって、ボランチなどのサポートもしっかりと前に付いていくと。
 それによってロングボールを蹴りこむというよりは、縦への素早いパスワークが出来ていたんじゃないかと思います。


 9月上旬に行われた京都戦で町田がスタメン起用されましたが、あの時は町田のハイスピードなスタイルに周りの選手がついていけていない印象もありました。
 しかし、そこに今は合わせ込むような形で、スピードと運動量を高めて攻撃を仕掛けるといった感じなのかなと。
 これによってパスは回せてチャンスは作れても、シュート回数などが少なかった問題が大きく改善される可能性があるのかなと、ここ2試合を見て感じました。
 実際この試合では22本ものシュートを放っていますしね。



 しかし、前節長崎戦でも、試合序盤は良かったものの失点以降は失速してしまいました。
 今節も同じように30分以降に足が止まっていったわけで、それでもその後の時間帯で速い攻撃を仕掛けるのか、じっくりと戦っていくのか…という部分で自発的な切り替えが出来るかどうかが重要になってくるように思います。


 足が止まるのはある程度織り込み済みで戦っているのでしょうから、賢いゲーム運びというのが大事になってくるでしょう。
 もちろん8月9月のようにガクッと足が止まるようではだめですけど、夏場を超えてそういった心配は少なくなったのかなと。
 ただ、やはり90分間ハイスピードなサッカーができるほどのスタミナもないのでしょうから、ゲームコントロールというのが大事になってきますね。



 まぁ、しかしこの試合では、前半30分以降も悪くないサッカーが出来ていましたし、それよりも点が取れなかったことに尽きると思います。
 珍しく細かくチャンスシーンを文章に上げてみましたけど、試合を見直して改めてもったいないシーンが多かったというか、これでも書き切れないほどでした(笑)
 それも大外からのミドルシュートなどではなく、確実に崩した上でのシュートが多かったですから、1点では物足りないですね。


 ここまで来たら、もう個々の選手の問題だと思います。
 冷静にかつ大胆に自信を持ってラストプレーを決められるかどうか。
 縦への素早いパスワークをやっていくことによって、確実なチャンスを数多く作れるという可能性は強く感じる部分がありますので、あとは選手たちが確実にそこを決められるかどうか。
 残念な気持ちも強い試合でしたけど、後の試合にゴールを残したと考えて、前向きに次に進みたいですね。