1トップ・ケンペスの意図と課題

 北九州戦前に「これを書こう」というのは頭の中で決まっていて結果的に1トップ・ケンペスを擁護するような内容だったのですけど、北九州戦ではそんなことをしなくてもいいほどの大爆発でしたね(笑)


 それはともかく、西部謙司さんがフットボールチャンネルというサイトで『「日本人らしいサッカー」とは何か?』というコラムを書かれているのですが、その中でバルセロナのサッカーを紹介しておりこのような解説をされています。

「9番は引いてきてセンターバックを釣り出す」
9番はセンターフォワード。現役時代のクライフがそうだったように、バルセロナの9番は少し引いてきてプレーする。もし、センターバックがマークして前に出てくると、中央にはもう1人のセンターバックだけになって、その周囲にスペースができる。
スピードのあるウイングプレーヤーやMFがそのスペースに入ってきて、1人しかいないセンターバックを攻略する。もし、引いてきたセンターフォワードセンターバックがついてこなければ、「前を向いて好きにやればいい」  (フットボールチャンネル

 今年のケンペスに求められているプレーも、同じような感じではないかなと思います。
 FWの位置から下がってきて、フリーの状態なら前を向いて仕掛ける。
 相手CBがついてきて前を向けなければ味方に落とすか、2列目の選手がCBの裏を狙う。

 
 「DFラインとMFラインの間を取る」といっても、工夫もなく中盤から狙うだけではなかなか難しいでしょう。
 江尻現コーチの監督時代も「DFラインとMFラインの間を取る」という話はしていましたが、当時のサッカーはピッチ上で見る限りだと倉田などが個人の能力でそこを狙っているだけのような感じに見えて。
 その結果、偶発的にそれが出来たとしても確実性はなく、回数なども少なく、その攻撃パターンを確立するまでには至りませんでした。
 …というか、チームとしての工夫が感じられないために、本当に狙っていたのかサッカーを見ていてもわからないような状況でした。



 バルセロナですらFWのそういった工夫した動きが必要だということなのでしょうから、単純な中盤だけの動きでは攻略は難しいはずで。
 そこでジェフでも、誰かがそういった動きを狙っていこうということなんだと思います。
 しかし、米倉は起用されればサイドから裏を狙う動きを任されるし、ナムは北九州戦を見てもやはりポストプレーはそこまでうまくなく、潰されてしまうことも多い。
 そうなってくるとケンペス以外では谷澤がポストプレーをすることが多くなりますが、中盤の構成も出来て前の向いての仕掛けやシュートも魅力的な谷澤にそれを任せるのはもったいない。


 そこでやはり1トップ・ケンペスなんじゃないかなと。
 単純にヘディングや身体の強さだとかポストプレーのうまさというのも大きいとは思いますが、谷澤にその仕事をやらせたくないという部分もあったのではないかなと。
 加えて右ウイングの米倉は裏ばかりを狙いすぎて結果的に動きが少なく前線のスペースを消す試合も増えていましたし、ナムの激しいプレスを受け手も前を向いて正確にパスを出せる能力も試したい…。
 また、複数の相手選手に嫌がられていた谷澤の中盤に下がってくる動きも、中央という厳しいエリアだったためそこまで効果的に機能しているとは個人的には思えず…。
 それならば1トップ・ケンペスでナムをトップ下に起用して、谷澤を比較的マークの緩いサイドで起用し、代わりにナムをトップ下で試すというのは、すごく理にかなっていたように思います。
 中央のパスワークはボランチもいるわけですしね。



 ただ、ケンペスの1トップも課題はあって。
 ケンペスが高い位置で他の選手に落とせればボールを受けた選手が良い状況でプレーできるわけですが、実際には相手ボランチエリアまで下がって受けてしまうことが多くあまり効果的とは言えないポストプレーも多かったように思います。
 というのも、多くのチームはジェフ相手に引いて守ってくるわけで、相手ボランチエリアより前は比較的楽に前を向けるわけで。
 その状況でケンペスが相手ボランチエリアまで下がって落としても、あまり変化はないということになります。


 そんな中で北九州戦では、ケンペスが頑張って相手のDFラインとMFラインでくさびを受けて落とす回数が多かった。
 相手DFの当たりの弱さもあってそれが出来たんだとは思いますが、それがあの試合での1つのポイントだったように思います


 しかし、ポストプレーがうまくいかない場合でも問題はケンペスだけにあるわけではなく、後方の選手がくさびのパスを難しいエリアに入れてあげられるかどうかも大事だと思います。
 現在の主流となっている4×4のディフェンスは、スペースを消すという狙いだけではなく、相手チームの縦パスのパスコースを消すという意味合いもあるはずです。
 そのため良い状況でポストプレーをさせるには、単純なボランチの技術だけでなく、動き回ってくさびのパスの角度を付けたり、サイドを使って相手MFラインを潜り抜けるビルドアップが必要になってくるということになるのかなと思います。
 そのあたりを考えても、谷澤の右ウイングからのパスワークへの参加というのは効果的だったように思うわけですが。
 それとともにケンペスが下がった時に前に出ていく周りの動きと、そこへのタイミングを見計らってのパスなどももっとできてくるといいですね。



 ケンペスへのくさびからの展開はまだまだ課題がアルトが思いますが、北九州戦ではうまく1トップ・ケンペスとトップ・下ナムと右ウイング・谷澤が機能して、中央からの攻撃もそこ以外からのパターンも出来ていたと思いますし、これらが狙い通りなのであれば攻撃作りのほうはしっかりと前に進んでいるのではないかなと思います。
 それがより厳しい相手に出来るかどうかが大事ではありますけど、個人的にはロジックに沿ったチームの成長、変化が見られているように思いますし、そういう意味で前向きにチームを見ることが出来ています。
 もちろん壁はまだまだこれから出てくるのでしょうけどね。