マレーシアGP 2つのチームオーダー

 先週行われたF1マレーシアGP。
 似ているようでまったく違う出来事が発生し、レース後も大きな話題になっています。
 他にあまり見どころがなかったようにも思いますし、ここでもその出来事に関して取り上げていきたいと思います。


 レースは中盤。
 レッドブルマーク・ウェバーセバスチャン・ベッテルメルセデスルイス・ハミルトンニコ・ロズベルグの順で走行中。
 各チームの二台が続く展開となっていました。


 なかなかウェバーのタイムが伸びない中、ベッテルは強引にも見えるドライビングでチームメイトのウェバーに仕掛けていき、相手を抜き去ります。
 これだけなら多少のリスクがあったとはいえ、珍しいことではないとも感じたのですが、レース後ウェバーは激怒。
 表彰式の控室でドンッとドリンクを机に起き、「マルチ21」とつぶやきました。
 「マルチ21」とはチームオーダーでチームメイトを抜いてはならないという暗号だった模様で、それが出ていたはずだということをベッテルに伝えたということなんでしょう。


 一方、メルセデスの2台もハミルトンがタイムが上がらない中で、一気にロズベルグが接近。
 チームへの無線でロズベルグには、ハミルトンもタイムを上げようと思えば上げられるが安全を期してクールダウンしている…だから順位を守れ、ということを言われます。
 しかし、その後ハミルトンには、無線で燃料が残り少なくタイムを落とさざるを得ないことを伝えており、クールダウンではなかったことがわかってしまいます。
 ロズベルグは燃料などには問題なかったようで大きなタイム差があったのですが、チームオーダーに従い順位を守りそのまま4位でゴールとなりました。



 チームオーダーを守らなかったベッテルと、守ったロズベルグ
 ベッテルには大きな批判が出ているようですが、一方でメルセデスも順位を守る指令を出したことに関して疑問の声が出ています。


 立場の違いも大きいのでしょう。
 ベッテルは2010年史上最年少チャンピオンであり、そのまま3年連続で王座を維持しています。
 その間、ウェバーはなかなかポイントを稼げない時期もあり、両者の立場は明白。
 確かにチームの命令を無視したのは大きな問題ではありますが、そのやんちゃぶりが彼の魅力でもあるようにも思いますし、実際ベッテルがウェバーに仕掛けた場面は見ていて面白くもありました。
 その時の順位は確かにウェバーが前ではありましたが、年間の成績などを考えればやはりベッテルのほうが順位は上になることが予想できるわけで。
 ベッテルをかばうわけではないですけど、ここで1つでも前に行きたくなる気持ちはわかる部分もあると思います。


 一方のロズベルグは、2008年マクラーレンでチャンピオンとなり、現在のトップドライバーの1人であるハミルトンが今年メルセデスに加入。
 ハミルトンとロズベルグの立場はまだ明確にはなっておらず、チーム内の信頼などを考えてもチームの命令には従っておく方が利口な状況だったと思います。


 その2人をしっかりとまとめあげたのがロス・ブラウン。 
 ミハエル・シューマッハーとフェラーリ黄金時代を支えたテクニカル・ディレクターです。
 ハミルトンは明らかにガス欠で、ロズベルグを先に行かせても良いようなタイム差があり、チーム関係者からは批判の声も出てはいましたが、ここまでのところハミルトンがロズベルグよりも優勢であることを見ても、最終的なポイントラインキングではハミルトンが上に行くだろうと評価しているのでしょうか?
 その判断が正しかったかどうかは別として、ロス・ブラウンのモチベーション不足やチーム内での立場が苦しくなっているといわれている中で、しっかりと2人のドライバーの手綱を締めたところはさすが。
 逆に言えばレッドブルチームには、まだまだドライバーをコントロールする点での甘さもあるということなのでしょうか。



 トップチームはチームメイト同士でこういった接近戦になるのが怖いので、あまり評価の高くないフェリペ・マッサなどセカンドドライバーが長くチームにとどまれるというのもあるのでしょう。
 もっとも今年はそのマッサもかなり頑張っているので、後釜を狙っているであろう小林可夢偉にとってはかなり厳しい状況になりそうですが。
 マクラーレンに昇格したセルジオ・ペレスも、そういった評価でトップチームに移籍できたのかなぁと。
 もちろんスポンサーのバックアップはすごく大きく、ペレスをサポートしているテレメックスが将来的にチームのタイトルスポンサーになるという話もあり、そうなれば巨額の資金が動くことになるわけですが、それはまた別のお話ですね。



 それぞれに批判はありますけれども、チームも含めそれぞれに言い分はあるという意味で、面白い(レース内容というより)人間ドラマだったのではないかと思います。
 レーススタート直後にベッテルと接触しそのまま走行させた結果、マシンが壊れリタイアとなってしまったフェルナンド・アロンソのほうがチームの問題は大きいような気もしますが、それも霞んでしまうような出来事となりました。