首位ゼニト戦、スタメン巻は不運もあり途中交代

 首位ゼニト対アムカル・ペルミの対戦。
 前節試合に出場できなかった巻が、スタメン出場となりました。
 何度かアップで巻の表情が映し出されていましたが、精悍な顔付きをしていてロシアでの挑戦が充実しているのかなと感じました。
 チームも残留争いで厳しい立場にいますし、巻自身も決して楽な状況ではないと思うのですが、あの表情を見てなんとなく安心することができました。



 そして、毎週恒例の相手チームにいるのはだーれ?
 今回はゼニト監督のスパレッティ氏。
 イタリア人監督で99-00には名波のいたベネチアを01年や02〜05にはウディネーゼを指導し、05-09にローマ監督に就任。
 攻撃的な“0トップシステム”を成功させ、ローマの再建を成し遂げました。
 しかし、09-10シーズンのスタートダッシュに失敗して辞任。
 昨年の9月からゼニト監督に就任しているようです。


 なお、ゼニトは各国代表選手を多数揃えているのですが、巻と対峙することも多かったCBアルヴェスは現役ポルトガル代表。
 先週のEURO2012予選デンマーク戦アイルランド戦こそ出場できませんでしたが、先月のEURO予選初戦となったキプロス戦、続くノルウェイ戦ではスタメンフル出場を果たしています。
 巻にとってはいい経験になりますね。
■スタメン出場した巻のプレー
 試合序盤、アムカルは予想以上に積極的な出足を見せます。
 前線からのプレスをしっかりと行い、なるべくラインを高く維持しようという作戦に出ていました。
 やはり巻が入るとチーム全体のプレスが活性化します。
 ボールを奪えなくてもDFのビルドアップの動きを阻害することで、後方選手達の守備の準備時間を確保することができるわけですね。
 ラインが下がりがちなアムカルだからこそ、巻の効果がよりはっきりと出るのかもしれません。


 この試合ではリスティッチとの2トップの形でした。
 基本的にはリスティッチが下がって中盤にボールを落として、巻がどんどんと前に走り込む関係性になっていました。
 しかし、5分過ぎくらいからは巻も前線の高い位置で、くさびのパスのターゲットになることが増えていきます。
 大きなミスもなくシンプルにボールを落とすことができていましたし、パスの出し手や受け手との意思疎通の失敗もなく十分ロシアに馴染んだと言っていいのではないでしょうか。



 前半途中には後方からのボールに対し、ゴール後ろ向きの姿勢からダイレクトで前方にポンっとボールを浮かせて、反転し1人で前を向こうとするプレーも。
 その後しっかりとGKまでチェイシングに行って、GKがクリアしたボールを中盤の選手が奪い、チャンスを誘発するなんてシーンもありました。


 そんなトリッキーなプレーばかり狙っているとオシム監督にはまた怒られてしまうかもしれませんが(笑)、一人で行きたくなる気持ちもわかるような状況だったと思います。
 というのも、ゼニトの守備が堅い。
 アムカルが後方でボールを奪っても、スッと中盤の4人、5人が素早くきれいな網を張ってカウンターを作らせない。
 そして、CBとボランチ4人のボール奪取能力が高く、なかなか前にボールを送れない状況でした。


 一方のアムカルは相手の攻撃が怖いせいか、なかなか後方の選手達がサポートに行けませんでした。
 ビルドアップも相変わらず、強引に行き過ぎてミスが多い印象です。
 ゼニトは組織的に高い位置で網を張ることができていたので、相手の思うつぼだったのではないでしょうか。
(一時期の岡田監督や江尻ジェフのように前で積極的にボールを狩りに行くというよりも、まずは相手を囲んで攻撃を遅らせる。そしてミスを誘うといった感じでした。ザッケローニ監督もそんな印象がある気がしますが。)
 これにより、前線の2トップは孤立状態に。
 このあたりの組織的な守備はさすがイタリア人監督…といったところなのでしょうか?
■ゼニトによる『斜め』の攻撃
 それでも前半途中まで首位ゼニト相手に良く守っていたと思うのですが、徐々に相手の攻撃に押されラインが下がっていくと、前半44分にアムカルのCBベロルコフが一歩目のスピードで相手選手に遅れを取り、一発レッドを受けてしまいます。
 すると、後半開始と同時に、巻はその穴を埋めるために交代させられてしまいます。
 巻にとっては非常に残念な形となってしまいました。

 
 守備を固めたアムカルですが、後半4分には速くも失点。
 後半9分にもう1人退場者を出すと、後半19分にはPKを与えて2-0となってしまいます。
 その後は4-4-0で戦い、まさに防戦一方といった展開。
 まぁ、2人も退場者を出せば仕方ないですね。



 ゼニトの攻撃は非常に興味深いものがありました。
 4-5-1のシステムでウイングがサイドに広く開き、そこを中心にボランチやSBなどが連動して動いて、攻撃を仕掛けていく。


 特に『斜め』の使い方が面白かったです。
 まず、サイドでボールをつないでいる隙に、同サイドの相手CBのところにFWがスッと入ってきて、くさびのパスを受ける。
 相手CBに前を意識させておいて、今度はFWやウイングなどが相手CBあたりから『斜め』にゴールに向かって走り込んでいき、サイドから裏を狙ったパスを出す。
 あるいは1トップが落としてトップ下が受けているうちに、サイドから『斜め』に飛び出していく。
 相手が『斜め』ばかりを意識してSBが絞り出すと、今度はサイドの外が開くので、そこにSBを走り込ませボランチから『斜め』のパスが出が出てくる。
 そこを封じようと相手SBが開いて対応すれば、FWがあえてSBの後ろに向かって『斜め』に走って行き、相手SBを後ろに釣ったところで、今度はウイングがSBとCBの間を狙って『斜め』に飛び出していく。



 「おお、これこれ!こういう攻撃を見たかったんだ」と、つい思ってしまいました(笑)
 『縦パス』や『相手の間』というのもいいけれど、基本的にどちらも警戒されているものだから、単純に狙っただけでは当然うまくいきません。
 特に『相手の間』に関しては相手だって出来る限りDFラインとMFラインをコンパクトに守りたいはずで、『間』といっても実際の隙はあまり大きくないはずです。 


 「隙がないのなら作ってしまえ」というのが、このゼニトの『斜め』の動きではないでしょうか。
 縦だけならば当然警戒されるし、横に対してもスライドやマーク交換などで守備の準備を考えているはず。
 ならば『斜め』はどうか…という発想は決して凄く新しいものではないはずですが、それをしっかりとピッチ上で表すことが出来ているチームでした。
 さすが0トップを成功させたスパレッティ監督…といったところなのかもしれませんね。
 0トップを成立させるためにはトップ下の得点能力だけでなく、ウイングのゴール前への飛び出しが重要なのだと思いますし。


 オシム監督もジェフ時代にはこの『斜め』の動きをうまく使っていた印象が強く、例えば右で水野あたりがボールを持つと、羽生が『斜め』に走っていって前のマーカーを外す動きをしたり、水野のクロスに対して逆サイドの山岸あたりが飛び込む…なんてことをやっていました。
 ゼニトも同様に流動的にサイド攻撃ができていて、なんとなくその頃のジェフを思い出してしまいました。


 同じイタリア人でウディネ指導者…というだけでは一緒にはならないでしょうが、もしもザッケローニ監督もこういったサッカーを作ろうとしているというのであれば、個人的にはすごく楽しみです。
■ゴールパターンを作っていきたい
 巻に関しては45分しか出場しませんでしたし、その間チャンスもなかったですから評価は難しいですね。
 巻に限らずリスティッチも他選手も90分通じてゴールチャンスというのはほとんどなかったですし、仕方がないところかなと思います。
 ただ、巻はプレスには大きな貢献をしていたのは事実だと思います。
 交代に関しては不運な部分もあったと思います。
 もちろん監督からの信頼があればあそこで変えられなかったでしょうし、そういった意味ではまだまだなのでしょうが。


 巻としてはより“効果的に”攻撃に絡めるようになれば、もっと活躍できるのではないかと思います。
 運動量はあって、前に走り出すことで他選手のスペースも作れる。
 足元のポストプレーもシンプルに叩く分には通用することがわかってきて、この試合でもミスらしいミスはなかった。
 けれど、そこらの先の攻撃でどういったプレーが出来るのか。
 どのようなゴールパターンを作っていけるかどうか。
 日本時代はセンタリングに合わせるヘディングという大きな武器がありましたけど、なかなかロシアではそれは厳しいかもしれません。
 もちろんこの試合に関してはチーム全体がまともな攻撃を出来ていませんでしたから、それを作るのはこれ以降の試合か練習からやっていくしかないと思うのですが、1つでも何かロシアで通用するパターンを作っていきたいところではないでしょうか。



 この試合に関して強いて言えばリスティッチとの関係がうまく作れれば、もっと効果的な動きが出来たかもしれないですし、レギュラー獲得にも大きく近づくのかなと思います。
 若干低い位置から巻がミドルシュートを狙ったシーンもあったのですが、あの場面でも目の前にいたリスティッチはボールを受ける体制を取り続けていました。
 あの時、前にいた選手がハースだとか巻だったりすれば、サイドに流れてスペースを作ってくれたのでしょうけど、そこは典型的なセンターのポストプレーヤーなんでしょうか(笑)
 「スペースを作る動きをしてよ!」なんて、つい思ってしまいました。
 前方でどちらかがボールを持った時にどう動き、どうボールを動かすのか。
 そのあたりがもう少しはっきりしてくれば、もっと良くなる可能性があるんじゃないかと思うのですが。


 2人の連携を高めていくためにもぜひこの2トップで固定して欲しいところなのですが、ここの監督さんもスタメンをいじるのが好きなタイプですからね…。
 この試合の中盤もメンバーが変わっていましたし、今後もどうなるか分からないと思います。
 前節出場できなかった巻としては、ひとまずこの試合でスタメン出場できたことはプラスだと思いますし、今後もチャンスがあると信じて頑張ってほしいですね。