軸が定まらないアムカル・ペルミ
前節5位のロストフ相手に前線からプレスをかけ、1-0で勝利したアムカル・ペルミ。
しかし、今節の相手は08年、09年王者のルビン・カザン。
しかも、アムカル苦手のアウェイということで、もしかしら保守的なサッカーをしてしまうのではないか…という思いもどこかにあったのですが、嫌な予感が当たってしまいました。
(とはいえ、前節は僅差でも勝ったのだから、そのスタイルをキープしてくれないかなぁ…という気持ちもあったのですが。)
もちろん保守的、守備的なサッカーがダメだというわけではないのですが、今回のアムカルは結果的に中途半端なサッカーになってしまった印象です。
■本当の意味で“0トップ”
アムカルのラキモフ監督はかなりスタメンをいじるタイプのようです。
この試合でも前節右SHで活躍したピエフを中盤に置き、左SBだったピリエフを右SHに戻し、スタメンから外したクシェフの1トップにしてきました。
この結果、巻はベンチスタートということに。
狙いとしては、中盤を3枚にして中盤中央を厚くして守備を固め、カウンターということだったんじゃないかと思います。
足元の技術があるクシェフを軸に、そこでタメを作って、攻撃を仕掛けていく…と。
けれど、実際にはその攻撃はうまく行きませんでした。
相手のボランチは戻りが速く、CBと4人でスッとクシェフを囲んで、攻撃の芽を潰していきます。
アムカルはボールを持つとクシェフに展開する形がほとんどですから、相手としても守りやすかったんじゃないでしょうか。
しかも、アムカル中盤選手のフォローが必ずと言っていいほど一歩遅れてしまうため、クシェフが孤立する展開になってしまいます。
なぜ前節は素早くフォローできていたのに、一歩遅れてしまったのか。
1つ考えられるのは、中盤が守備を意識しすぎた結果。
もう1つは、全体のラインが下げられてしまったこと。
それとクシェフが下がって受けようとしすぎて、中盤の前にスペースがなくなってしまうということ。
前節は巻が果敢に高い位置で圧力をかけ、そこでポイントを作ることによって、相手ラインを押し込み中盤の飛び出すスペースも作っていたのですが、今節はそのポイントが攻守において低すぎたように思います。
その結果カウンターも発動せず、遅攻の際もクシェフが下がってくるため本当の意味での“0トップ”になってしまっていた印象でした。
■中盤で譲り合うアムカルの守備
守備では後方からロングボールでアムカルDFラインの裏を突く攻撃を受け、徐々にラインを押し下げられてしまった印象です。
この狙いは他チームもやってきていましたし、「アムカルDFはスピードがない」という印象を多くのチームに持たれているのかもしれませんね。
クシェフがあまり守備をしないこともあって、相手DFラインはボールを出しやすい状況でしたし。
中盤を3枚にして、守備を固めてきたはずのアムカルでしたが、実際には全く固まっていませんでした(笑)
いつもより1人多いことによって、逆に守備で譲り合ってしまい、緩い中盤の守備が生まれてしまう状況に。
失点もその形から。
中盤でボールを持った相手選手エドゥアルドに対して、アムカルの中盤3人が囲んだのですが(「囲んだ」といってもしっかり寄せる選手は不在)、浮き球のくさびのパスをFWに出され、エドゥアルドはパス&ゴー。
その動きに対して誰も付いていかず、エドゥアルドはフリーで中盤のエリアを抜け出します。
そこにFWから1-2でボールを戻され、バイタルエリアでミドル。
これが決まったのが前半26分でした。
DFラインがズルズルと下がりすぎていたからこそ、バイタルエリアが空いてしまったというところもあるのでしょうが、中盤のラインも下がっていた状況ですし、あまりにも中盤3人の守備がお粗末でした。
このシーン以外でもボランチのエリアで簡単に前を向かれるシーンが多く、CBのスピードと含めアムカルのセンターラインの守備は課題が多い印象です。
■後半25分から巻が出場するも…
後半7分には相手右サイドからのクロスに対して、アムカルのCBがクリアミス。
エドゥアルドの目の前にボールが入ってルビン・カザンが追加点…と、これもまた残念な形での失点でした。
巻は後半25分にクシェフに変わって投入され、そのまま1トップという形になります。
後半28分には味方選手のパスカットに反応し、一気に前方へ走り込んで、パスを受けてシュート。
しかし、これは大きく枠をそれます。
このパスカットに素早く反応していたのも巻だけで、チーム全体の勢いのなさが窺えます。
後半33分にはペナルティエリア前の混戦から抜け出し、シュートを放つも相手DFがブロックしCKへ。
シュート以外でも積極的にチェイシングをしスローインを確保したり、それまでにはなかったFWが相手DFのパスコースを限定する動きで、中盤の守備を楽にする動きも見られたのですが、さすがに大勢を変えるまでには至らず…。
すると、後半41分。
アムカルのDFラインが凸凹な状況で裏をとられ、GKと一対一になりPK。
この失点後は、前線にボールを運ぶことすらできず…。
0-3でアムカルの完敗という結果に終わってしまいました。
■勇気を持って変われるかどうか
個人的にロシアリーグ上位チームの試合をしっかり見るのは初めて、ということで非常に気になる試合でした。
アムカルは0-3で負けてしまったわけですが、ルビン・カザンは守備に特徴のあるチームではないかと思います。
守備時の選手の距離感が非常に良く、等間隔で守れており、その状況で相手選手が入ってきたらスッと1人がマークについていって、もう1人が穴を埋める。
ボールの追い方も非常にスムーズで、例えばアムカルがCBにバックパスをしたら、一気にFW2人がチェイスに行くなど、非常に組織的な守備が構成されているイメージでした。
攻撃に関してはシンプルに中盤でつなぐ印象で、カウンターでは前線の選手のキレのあるドリブルが効果的でした。
しかし、遅攻ではサイドで綺麗にトライアングルを作ることが出来ており、SBの攻撃参加の一歩目が素早く、そこからクロスといった展開が多かった印象があります。
ただ、攻撃に関しては、そこまで「すごい」とは思わなかったかなぁと。
実際、アムカル戦を除いたここまでの成績だと、19試合を経過して総得点21、総失点8という状況だったようですし。
攻撃でもう一アクセントを付けることが課題なのかなと感じたのですが、このチームにはインテルに所属したあのマルティンスも所属しているんですね(笑)
この試合で2得点を挙げたエドゥアルドもドイツのホッフェンハイムで活躍し、チームの1部昇格に貢献した選手なのだそうで、昨年はブラジル代表としても試合に出場しているそうです。
前線の突破力のある選手達を活かそうとしているんだなという意識はなんとなく感じたのですが、そこからの厚みのある攻撃はまだ出来ていないのかなと。
それよりも問題なのは、アムカルですね。
スコア以上に実力差を感じた試合だったような気がします。
チームとしての軸をどこに置くのか。
どんなスタイルにしていくのか。
守備的なサッカーをするにしては守備陣の粘りが無さすぎますし、攻撃にしてもカウンターではクシェフ頼みで、細い線をつないでいかなければいけないようなイメージ…。
前節いい試合をしましたから、1つ『戻れる場所』はできたんじゃないかなぁと外野としては思うのですが、それを貫く勇気があるかどうか。
確かに前節のように前に圧力をかけていく分のリスクは考えられるでしょうし、もしかしたらキャプテンでクラブでの実績もあるクシェフを外すことに対しての内外への影響なんてものも考えているのかなぁとも思います。
けれど、ここは1つ勇気を持って前に進む必要性があるのではないでしょうか。
リスクをおってチーム全体が変わっていけるかどうか。
もしかしたらアムカルにとって、重要な時期なのかもしれませんね。