2010シーズン前半を振り返る その3 ビルドアップとベース編

 その1その2に続いて、今回がラスト。
 最後はシーズン前半の課題についてがメインのお話になります。
■ビルドアップの課題
 シーズン前半のジェフを振り返ると、サッカーのスタイルが何度も変わって、ポジションごとの役割もなかなか固定できなかった印象があります。
 その結果、1つ1つのスタイルには可能性を感じても、そこからの伸び、積み重ねがなかなか作れなかったのではないでしょうか。
 考えてみると江尻監督は昨年も、深井をサイドに張らせてみたり、巻とネットの2トップにしてみたり、また1トップに戻してしたり、最後は巻と新居の2トップにしたり…と、幾度となくやり方を変えていました。
 


 具体的なチームの課題を考えると、一番気になるのは後方ではショートパスをつなぐことはできていても、それを攻撃には活かせていないということ。
 ショートパスの展開からの工夫が足りず、サイドチェンジやポストプレーを使うパターンも作っていないから、高い位置で前を向いた選手がボールを持つ形を作れていない。
 江尻監督は開幕前のキャンプから「縦パス」を強く意識付けていたそうなのですが、それに縛られ過ぎて大きな展開が作れずにいる印象です。
 良く見られたのは工藤を中心にサイド後方でパスをつないで、下がってきたウイングの倉田に縦パスを出すものの、倉田へのマークはきつく後ろ向きでボールを受けることになり、後ろに返すだけになってしまう(あるいはそこで潰されてしまう)といった展開。
(縦パスだけでのビルドアップを目指すため、相手の守備も薄くFWもいないサイドでのショートパスばかりになってしまっています。サイドチェンジの形もないため、せっかく獲得したミリガンあたりも攻撃では全く目立っていないですね。)
 これではいくら後方でパスをつなげても、そこから縦パスを出しても、攻撃の形はなかなか作れません。


 唯一、工夫を感じるのが江尻監督のコメントや練習内容などからしても、1トップがサイドに流れて前線中央にスペースを作る形です。
 実際、巻や孝太は効果的にその動きをしていたと思うのですが、そこに連動して選手が入ってく形やパスを狙ってそこに出す形はまだまだ少ない。
 また、そういった動きが得意ではないネットを多く起用していることからも、どこまでそのパターンで攻撃を作るつもりがあるのかがはっきりしない印象です。
(そもそも開幕前に見た練習も疑問点があったんですよね。ウイングがボールを持ったところからスタートして、1トップがサイドに流れそこにスルーパスを出すか、1トップが流れて出来たスペースを使う攻撃パターンを入念にやっていたのですが、そもそもウイングがフリーで始まっていて。そう簡単にそこはフリーにならないんじゃないの?と感じていました。)



たぶん江尻監督としては、運動量や無駄走りをベースとし数的優位を作って相手を崩すオシム監督時代のジェフやW杯のチリ代表のようなサッカーよりも、個々のテクニックをベースにボールを奪われない攻撃を作り出すバルセロナやスペインを理想としているのではないでしょうか。
 だから前線のメンバーも、まずはテクニックが最優先。
 ピンポイントでパスをつなぎ、それを受けて、前へ前へとつないでいく…。
 それはそれで1つの理想形だとは思うのですが、実際にそれだけのメンバーが今のジェフにそろっているのかどうか。


 また、テクニックを重視する一方でビルドアップの展開の第一手は1トップが流れる形であり、そこが出来ていないから後方でパスをつなぐだけになってしまうという問題も起こっているはずです。
 その結果、パスをつないでも最終的にはロングボールを主体とした強引な攻撃や相手のスタミナ切れを待つ(あるいは相手のイージーミスに助けられる)攻撃の展開ばかりになっていたのだと思います。


 単純に前線において、誰がスペースを作って誰が周りを活かすのか。
 バルサやスペインは自分で突破もできて周りを活かすセンスもある選手達が揃っているからこそああいったサッカーが出来るのではないかと思うのだけれど、それをそのままジェフで実行するのはなかなか難しいのではないかと思います。
 そんな中で、どうやって工夫してジェフにあったサッカーを作っていくのかが、本当に重要なことなのではないでしょうか。
■ベースの部分で甲府に勝てず
 なかなか攻撃においての積み重ねは作れなかったけれど、チームの土台はしっかりしているから、後半戦に向けてそこをベースに攻撃のスタイルを作っていってくれれば…と思っていました。


 しかし、シーズン前半の最終戦となる甲府戦、その土台が早くも崩れ去ってしまいました。
 ジェフの土台、ベースとなる部分は中盤でのプレッシングや攻守の切り替え、工藤を中心としたショートパスだと思っていたのですが、同じ特徴を持つ甲府にその点で終始押される展開になってしまいました。
 自分達のベースは作れていてそこから上の積み重ねが作れていないことが問題だと思っていただけに、この試合の展開は点差以上にショックを感じてしまいました。


 確かにこのままでもJ2では戦っていける可能性は十分あると思います。
 しかし、甲府のように十分な実力ある相手だと、一気に苦しくなってしまう。
 J1も見据えなければいけない(J1に昇格してもすぐ落ちては意味がないですから)ジェフとしては、厳しい現実をつきつけられたような気がします。

 

 
 もしかしたら、J2では圧倒的な戦力が逆に足かせになっているのかな…とも思います。
 今のジェフはスタメン以外でも、他のJ2チームならレギュラー級とも思える実績・実力を持っている選手達が多く在籍していると思います。
 そういった選手達を途中出場で起用し、戦力で試合をものにした展開も多かったのではないでしょうか。
 しかし、それによって逆にチームの課題も見えなくなっていったし、監督もそういった多くの戦力があるからこそ確固たるスタイルを決めきれなかった部分があったのかな…と。
 


 それとオシム監督も言っているように、「壊すよりも作り上げることの方が難しい」のがサッカーです。
 攻撃で相手を崩す難しさ。
 周りから追われるものの難しさ。
 そういった部分も現在のジェフの苦戦に、大きく響いているのではないでしょうか。


 ただ、同じく警戒されているはずの柏は、現在16戦無敗でJ2首位を独走。
 資金的にジェフの三分の一しかない甲府も、ジェフの上にたっています。


 サッカーの内容に関しても2チームの方が安定していたようにも見えましたし、ジェフとしては自分達のサッカーをしっかりと確立することが何よりも重要ではないかと思います。
 チームのベースとなる部分も、そこから先のスタイルの部分に関しても、より一層の強化を期待したいと思います。
 サッカー内容の強化と安定が、勝点の確保にも直接繋がることはずだと思いますし。