力の差を感じた大分戦
ホーム最終節も今シーズンを象徴するような悔しい試合になってしまいました。
偶然負けたような試合ではなく、両チームにははっきりと力の差があり、大分が順当に勝った試合だったと思います。
かといってジェフの内容が前節から大きく変わったということでもなく、今ある力はしっかりと出せた試合だったんじゃないでしょうか。
「大分には初黒星」なんてこともすっかりと忘れていました。
■ビルドアップの大きな差
大分はDFラインに大きな特徴がありました。
ボランチもできてテクニカルな部分も期待できる菊地と藤田をセンターに、上本や坪内をSBに起用。
そういった選手起用からもわかるようにCBからしっかりとビルドアップをしようという狙いが、チーム内にはっきりと根づいていました。
特に菊地のビルドアップ能力が素晴らしく、ワンタッチで逆サイドの選手やボランチに速く質の高いパスをどんどん供給していました。
江尻監督が欲しがったという報道があったのも、納得の出来だったかなと思います(江尻監督ならボランチで起用していたかもしれませんけどね)。
ボールを受ける前からパスの出し所をしっかりと考え、ラインコントロール能力も素晴らしいものがあり、高さでもバイアーノに負けていませんでした。
選手の能力だけでなくチーム全体のビルドアップ時のポジション取りも非常に良く、SBなどがサイドに広く開くことで相手を広く揺さぶってきました。
パスサッカーをする上でまずベースとなるビルドアップをここ半年でしっかりと作り上げてきたポポヴィッチ監督に、指導者としての能力を高く感じました。
一方のジェフはそのビルドアップ能力がまだまだ拙い。
DFラインでボールを回していても必ずボールを持ってからパスの出し所を探してしまうから、相手を揺さぶるどころか相手に守備の準備時間を与えてしまいます。
この日は相手がコンパクトに守っていたこともあり、中盤以降のゲームメイクもうまくいきません。
特にサイド攻撃が封じられたのが痛かったですね。
谷澤、アレックスの左サイドも相手守備陣がしっかりと守ってスペースを消されたため、不発となってしまいました。
試合序盤はアレックスがボールを持っても谷澤が足下でボールをもらおうとしてばかりで前を向けなかったし、谷澤がサイドでボールを持ってもそれをサポートするようなアレックスのオーバーラップはほとんどありませんでした。
このあたり2人ともボールを持ってからは期待できるのだけれど、オフザボールの動きの質はあまり期待できない選手なので、自分達で工夫してスペースを作ることができないといった問題があるのでしょうね。
その後、谷澤はサイドではチャンスを作れないと判断したのか中央でのプレーがかなり増えていきました。
確かにセンターの方がプレーの選択肢は増え、その分谷澤の良さは活きるんでしょうし、前も向きやすくなるのでしょう。
しかし、その分、左サイドは広く使えない展開になってしまいます。
アレックスが谷澤のいないサイドのスペースに走り込むような形を作れればいいのでしょうが、アレックスはSBで起用してもどうしても内に内に入って来るところがありますし、チームとして素早くアレックスに展開してあげるという形も希でした。
逆に右サイドの米倉はたぶん監督からの指示なのかサイドライン際に張ることが多かったのですが、こちらはドリブルがある選手ではないのでサイドライン際だけではあまり活きてこない感じがします。
(まぁこの辺り難しいところで、純粋なサイドアタッカーだけではパスサッカーの実現は難しいのかもしれないし、パサーだけでは縦への突破が難しくなるのかもしれませんけどね。両方できる選手がいればベストなのでしょうが…。)
右はサイドを縦に突破できず、左サイドは大きく広がる選手が不在で、結局ジェフは窮屈なサッカーになってしまいました。
前節はSHもSBも比較的楽に前を向いてプレーできたからそこからチャンスを作れましたけど、相手がコンパクトなサッカーをしスペースがなくなった途端に自分達のサッカーが出来なくなってしまいました。
自分達でスペースを作る動きだとか、オトリになる動きだとか、そういった攻撃面でのオフザボールの動きの質の差がはっきりと出てしまったように思います。
■スペースがない状況での戦い方
細かなビルドアップが出来なければ、ロングボールを狙うのも1つの手だと思います。
実際、試合序盤はそれがうまくいってチャンスを作れていたシーンもありました。
相手CB2人は技術的には素晴らしいですけど、ロングボールへの対処はおぼつかないところがあったので、チャンスはあると思っていました。
特に新居はポストプレーへの意識も高くなったため、一度下がってから裏へ走り込む動きが増え、相手CBも捕まえにくそうな動きをしていました。
新居は工藤が前を向いてボールを持つと必ずと言っていいほど、裏を狙っていましたね。
この2人のコンビには可能性を感じました。
しかし、徐々に大分はそれに対しても落ち着いて対処できるようになり、前線からのプレスもあってなかなか相手DFラインの裏にロングボールを出すのも難しい状況になっていきます。
かといって、DFラインの裏ではなくFWめがけてロングボールを蹴っても相手に勝てない。
身長の高いバイアーノも、やはり後ろからのボールを競り合うプレーは得意ではないようです。
今まではスペースがなく苦しいときにも、巻にボールを競らせて周りが拾うという形があったのですが、巻がいない状況でスペースがなくなると策がなくなってしまう…。
特に相手に攻め込まれた時間帯で、クリアしても蹴りどころがなくなってしまうのは、困ってしまう問題ですね。
やはり前節のようにスペースがあって自由にプレーできる状況ならバイアーノの良さは十分に出るのですが、こういった試合展開になると相手に消されてしまいます。
逆に巻はスペースがあっても自力でゴールを奪うというプレーはあまり期待できませんけど、スペースがない状況でも相手と競り勝ったりオトリになったりすることで、ちょっとしたスペースや時間を作ってくれることができるわけですね。
巻の不在は守備にも影響が出てきます。
守備時に前から運動量豊富に動き回る選手がいないため、相手は楽にボランチとDFラインでボールを回せていたと思います。
ボランチにボールが入った時に、FWがプレスに行けないことが多く、仕方なく下村がバランスを取って前に行くのですが、それに連動してラインが上がるわけでなく、結局下村は前も後ろも見なければいけない状況になっていました。
こういった試合状況だと、やはり巻きはほしいところだなぁ…と。
けれども下村が入ったことで、中盤の低い位置で相手をしっかり潰せるようになったのは大きかったと思います。
攻撃ではもう少し頑張ってほしかった米倉も、守備では活躍していました。
やはり中盤に守備で頑張れる選手がいるのは大きいですね。
ただ、今の大分の売りはサイド攻撃だと思います。
大分はSHがボールを持ったら、しっかりとSBが裏を走る。
あるいはスペースがなければ、相手SBの裏へ飛び出す。
当たり前のようにも思うのですが、それがしっかりと出来ているチームでした。
自分が犠牲になってでも、スペースを作る。
大分の選手からはそういった意識が強く感じられました。
前半16分の失点もサイドでやられてしまいます。
坂本がサイドに流れてきた金崎とのマッチアップでずるずると下がってしまいクロスを上げられると、最後はSBのアレックスが相手SHの清武に前を取られて失点という形でした。
改めてSBの守備能力の問題を感じる展開でした。
相手SBは守備力の高い2人だった分、改めてそのあたりの差を感じてしまったかなと。
ただ、これもSBだけの問題だけでなく、大分はジェフのSHが持ったら必ずSHとSBで挟んできましたし、チームとしての約束事もしっかりと大分は作れていたんだと思います。
■選手交代策は失敗
後半20分、バイアーノがボールを奪われ福元とフェルナンジーニョが一対一になって0-2。
福元は良く粘ったと思うのですが、さすがフェルナンジーニョ。
重心の低い細かなステップのドリブルは、相変わらず安定していますね。
このあと、江尻監督はバイアーノに変えて深井、下村に変えて和田(アレックスを前へ)、新居を下げて金沢とカードを切って行きます。
しかし、これらの選手交代は良策ではなかったと思います。
金沢は良く頑張ってくれて、惜しいシュートを2度も放ちました。
若い金沢にとってはすごくいい経験だと思うのですが、チーム全体として勝つための選手交代が出来たかというと疑問が残ります。
ビルドアップがうまくいかず、相手のスペースのない状況で深井や金沢など個人技のある選手を起用しても、なかなかいい状況でそこにボールが入りません。
和田の起用、アレックスのポジションチェンジの効果も感じられず、交代策は失敗だったと思います。
点を取りたい場面での選手交代の失敗はこれまで何度もあり、江尻監督の経験不足を強く感じる場面だと思います。
状況の変わらない練習時からのチーム作りに関しては経験不足はそこまで影響はないのかもしれませんが、刻一刻と状況が変化する試合時の対応に関しては経験が大きな差になって表れてくるのかなぁと感じました。
■「1年で復帰するよう努力する」
最近改めて思うのが、オシム監督は格上に勝つためのサッカーをしようとしていたんだなぁということです。
巻や山岸のような高さのある選手を起用したのもスペースを消された時にどうするかを事前に考えていたのでしょうし、中央ではなくサイドを攻略しようとしていたのも中はどうしても守備が厳しくなるからなのでしょうし、啓太のような守備的なボランチを愛用していたのも出来ることならボールを動かせるボランチを2人置きたいのだろうけどバイタルエリアを固めるのは強豪チームに勝つために必須だと考えていたんでしょう。
理想と現実をしっかりと考えながら、なおかつ自分の芯は絶対に曲げない。
江尻監督が同じようなサッカーを目指し始めたからこそ、改めてその凄さを感じるようになってきました。
小さなクラブを率いてきた監督だからこそ、強豪クラブ相手に勝てるサッカーを作り出す術をもっていたのでしょうね。
そして、真の強豪クラブ相手に勝つためには、机の上の理想論だけでは難しい…現実も理解しなければいけないということなのかもしれません。
現在のジェフは個人技に期待できる選手が多く、一対一が作りやすい(スペースのある)状況ならいい試合が出来ますが、そうではない状況だと自分達で数的優位を作ってスペースを編み出すようなサッカーはできない。
それは選手のタイプもそうなのでしょうし、個人技で勝とうとしていたミラー監督の影響も大きいのでしょうし(選手構成も含めて)、江尻監督にも問題があるように思います。
江尻監督のやろうとしている志の高いサッカーは十分に理解できるのですが、それを成し遂げるためには選手構成の大幅な変更も含めて大きな改革が必要なのかもしれません。
それが出来るだけの勇気と決断力が、今のクラブと江尻監督にあるのかどうか…。
やはり「1年でJ1復帰」を確実に目指すのなら、江尻監督交代も考えないといけないのかもしれません。
確かに志の高いサッカーはしていますけど、この試合での選手交代を見てもやはり経験不足は否めない。
J2で昇格争いともなれば、必ず「ここで1点ほしい」というような状況が何度も出てくるはずですが、そういった時に監督の経験不足が出てしまっては勝点を稼いでいくのは難しいでしょう。
就任からこの半年間でその経験不足を補えていれば…とも思ったのですが、少なくとも現段階で判断すると不安の方が多いように思います。
もちろん来年のどこかで江尻監督がもう一皮むける可能性は否定しませんけど、現段階でそれを頼るにはリスクが高すぎるのでしょうし。
…あるいは、現在江尻監督が主力選手だと思う選手達をほぼ全員慰留した上で、J1でも戦えるような選手3,4人と江尻監督が好むバックアップの選手3,4人を補強するか。
ようするに、戦力格差がはっきりしつつある近年のJ2で、オーバースペックの選手達を率いて、戦力でJ2を戦い抜く。
その分、再来年の予算が厳しくなろうとも、他にしわ寄せがこようとも気にしない。
長期ビジョンなんか二の次にして、お金でともかく短期的な結果J1復帰を目指す…。
個人的には、坂本の言っていた「1年で復帰するよう努力する」という言葉が好きです(笑)
「絶対に」とか「必ず」とか「約束する」とかではない。
三木社長の言葉には悲壮感すら感じたのですが、私はそういった特攻隊のような考え方を持ったクラブ運営は好きではないです。
それで失敗したら、何もチームに残らなくなってしまう。
私は三木社長にもまた経験不足の部分があるようにずっと感じていたのだけれど、けれども三木社長の人柄の良さというのは今のジェフにとって魅力だと思います。
だからこそ、背水の陣のような形は避けてほしいと思うのです。
長期的なビジョンを描きながら、あわよくば「1年でJ1復帰」といった感じが今のジェフには一番ではないでしょうか。
個人的には負けてはしまったものの、ジェフにとってこのホーム最終節はいい試合だったんじゃないでしょうか。
「良薬口に苦し」ではないけれど、現実に引き戻してもらうには十分すぎる内容だったと思います。
しかも、大分もまた志の高いパスサッカーをしていた分、明確にこちらの課題が浮き彫りになりました。
そういう意味で、大分が素晴らしいサッカーをしてくれたことは、ジェフにとってもとてもありがたいことだったお思います。
できることならば、来期以降もそういった素晴らしいサッカーを残してほしいですね…。
そして、ジェフはその大分などを相手に一歩一歩、差を縮める努力をしていかなければなりません。
来年以降は今期以上に大変なシーズンが待っているかもしれないわけですからね。