いいチームを作るにはお金より重要な物がたくさんある


サッカーJ1・ジェフユナイテッド市原・千葉は、8日に等々力陸上競技場川崎フロンターレ戦で2―3と惜敗し、来季のJ2降格が確定した。古河電工サッカー部時代から44年間1部を維持してきた同チームに対し、サポーターらは「1年で戻って」と声援を送る。だが今後、千葉市が本拠地のフクダ電子アリーナ命名権契約が維持できるかどうかなどの不安も抱える。
(中略)
降格後は、観客数を維持できるかどうかに加え、フクダ電子アリーナ命名権契約がどうなるのかという懸念がある。「フクアリ」の愛称を持つ同競技場は、千葉市蘇我競技場として中央区に建設し、05年の施設供用時から医療機器大手のフクダ電子(本社・東京都文京区)と命名権契約を結んでいる。08年度からは、隣接するフクダ電子スクエアと合わせて年間1億円の契約料が市に入る。
同社との現在の契約は10年度まで。契約上、「メディア露出、試合数が減るなどチーム状況に変化があった場合は協議の上、減額または解除も可能」となっている。
市公園管理課ホームタウン推進室によると、アリーナとスクエアの運営のため、指定管理者に年間約1億3千万円の委託料を支払っている。同室は「命名権の契約料が委託料になっているわけではないが、契約料が減額されれば、委託料の補充に市からの持ち出し分が増えるのは確かだ。契約を維持できるよう協議していきたい」とする。(朝日
 このあたりの可能性があることはすべてわかっていたこと。
 J2に落ちてしまったのが全てであり、因果応報でしかないでしょう。
 どなたかもおっしゃっていたように、今のジェフに同情する目は必要ないんじゃないかと思います。
 逆に変な同情は今後のクラブへの足かせにすらなってしまうかもしれません。


 これらの記事だと降格して1年でJ2から戻ってこれない場合、クラブに問題が生じるかのように書かれているけど、降格した時点で多少なりともクラブへのダメージは出てくるはずです。
 現在の経済事情を見れば価値の下がってしまったクラブに見切りをつけるところはすぐに決断するのではないかと思いますし、逆に来年も応援してくれるという企業(親会社やサポーターなども含めて)はある程度状況に関係なく応援してくれるのかもしれません。
(この不景気が再来年以降も続くとなれば状況は変わるかもしれませんが。)
 それに甲府のようにJ2でもコツコツとスポンサーを集めて経営を安定化させたクラブもあるのですから、J2に落ちたからといってスポンサーが集められないという言い訳にはならないと思います。
 スポンサーが離れたなら新たなスポンサーを見つけて来るよう努力するだけですし、クラブの営業能力、経営能力が今年まで以上に問われるということになるでしょうね。
 

 

 「1年でJ1復帰」を支持する理由として、クラブの経営面を不安視する意見があるそうです。
 1年で復帰しなければスポンサーが減ってしまうし、収入も戻らないということですね。
 スポンサーだけでなく、J2に落ちたクラブは例外なく入場料収入も減り、総収入も億単位で減少しています。
 加えてジェフはユナイテッドパークへの移転によって、管理費も含め支出が増える状況にあります。


 しかし、「1年でJ1復帰」を目指すのであれば、戦力は現状維持か、現在の成績を見るとむしろプラスアルファで即戦力が必要になるでしょう。
 報知によれば江尻監督は続投の条件に軸となる新外国人を求めたとのことですが、それも納得の状況ではないでしょうか。
 その分、営業面や育成部門でコスト削減を目指すにしても、たぶん完全には賄えないはずです。


 本気で「1年でJ1復帰」を目指すのなら、中途半端にやって失敗するのが一番心配です。
 今年のジェフが苦しんだのも明確な目標や方向性が築けず、中途半端な運営をしてきたからこそだと思いますし、やるからには何かを犠牲にしてでもやりきらなければいけないでしょう。
 そう考えると「1年でJ1復帰」を目指すには、来季のトップチームにそれなりの予算をかけなければいけませんが、収入はJ2レベルに下がるため来季の経営状況が悪化するのは確実で(何せJ1にいた08年度のジェフですら赤字決算だったわけですし)、そうなればもし「1年でJ1復帰」が成功し再来年J1レベルに収入が増えたとしても、来年度の経営悪化の分再来年の強化予算にしわ寄せが来る可能性も出てくるはずです。
 実際、広島などは1年で復帰したけれど、次の年の選手の交渉で苦しんだという報道もありました。
 ただ、それでも広島の場合はユースがしっかりしていて、その中で育った若手選手達が多いですから、チーム全体としての伸び白があったと思うのですが、ジェフの場合はそうではないはずです。
 現在の主力選手は年齢が高めですし、J2はベンチ枠は5枠で、ますます若手選手の成長の場は少なくなるかもしれません。


 そう考えると、例え「1年でJ1復帰」が出来たところで予算は厳しく補強はできるのか、若手も育たないとなるとチーム全体としての伸び白はどうなのか。
 そういった疑問も出てくるように思います。



 一方、長期的な視点にたって育成面を重視していけば、現在の主力選手は減ってしまうかもしれないけれど、全体のコスト削減にはつながるはずです。
 スポーツチーム運営は製造業などのように原材料がないですから、コストカットをするには人件費から削らなければいけないのが実情です。
 

 もちろん収入も支出も減ることになれば、クラブの経営規模は小さくなるということになります。
 しかし、クラブの経営規模=クラブの価値・チームの価値と言うわけではありません。
 例えば現在の山形は、J2でも平均以下たった7億円ほどの予算でJ2から昇格してきました。
 これはJ1のどのクラブよりも圧倒的に少ない費用で、ジェフの予算の5分の1でしかありません。
 ジェフもオシム監督の頃は今よりも予算は少なかったですが、その中でも我慢してコツコツとチームを作って成功を収めました。


 オシム監督も同様のことを言っていましたが、成功を遂げたチームに共通して言えるのは、目先の結果などにとらわれず、地道に長期ビジョンを築き上げていると思います。
(そういえば、オシム監督はクラブが厳しい時こそ勢いのある若い選手を起用していくべきとも話していましたね。)
 逆にいえば予算が多少あったとしても、長期的なビジョンを持っていないクラブには、いいチームも作れないし選手も育っていきません。
 いいチームに必要なものはお金なんかではないのです。
 お金も重要ではありますが、明確な方向性や時間や忍耐の方が、よっぽど大切でしょう。
 幸いにもジェフの今の経済状況は決して「ともかくJ1に復帰しなければ経営がまわらなくなる」というほど酷い状況ではないはずですしね。


 親会社やホームタウンなど、簡単に縁を切れない関係者もいます。
 そういった関係者には「1年でJ1復帰」を実行しなければ苦労をかけてしまいますが、しかし、幸いにも千葉市市長は「長中期的な視点で地域に溶け込んでほしい」とご自身のブログで話してくれていますし、古河電工の社長もユナイテッドパークの竣工式で「もう一度育成を」と言ってくれています。
 JR東日本もここ数年の積極的なサポートを見れば、クラブに対して理解を示してくれているはずです。
 ですから私はしっかりと説明さえすれば、このあたりの密な関係を保っている方面には「1年でJ1復帰」を約束しなくとも、今後のサポートを続けてくれると思います。
 もちろん長期ビジョンを実施するにしても、明確な方向性やメリットを関係者に説明しなければいけないのは当然のことで、そこはフロントの手腕・交渉力が重要になってくるわけですが。


 確かに育成面に力を注いで、本当に育成のジェフが再建出来るのかという不安がないわけではありません。
 しかし、そもそも江尻監督は「長期的な視野」で選ばれた監督であること。
 私はこれを「育成面を期待している」に近い意味で捕えました。
 またユナイテッドパークフクダ電子スクエアも踏めてハード面で選手を育てる環境が整ってきたこと。
 ジェフには育成で成功した実績があること。
 神戸次期GMにも名古屋で育成面を再建してきた実績があること。
 これらを含めて考えると、しっかりとした長期ビジョンさえあれば、育成のジェフ再建は不可能ではないのではないでしょうか。
 もちろん確実だとは言えませんが、すくなくとも「1年でJ1復帰」よりは今のところ基盤は整っているのではないかと思います。



 ついでとして話すと、若手、中堅、ベテランとバランスの整った選手構成が必要で、だから簡単に選手を解雇すべきではないという意見もあるようです。
 確かにバランスの良い選手構成は必要だと私も思います。


 しかし、そもそも現在のバランスはどうなのか。
 今のジェフは若手選手の保有数に比べて、中堅からベテランに非常に選手が多い状況です。
 ジェフにはリザーブズもありますけど、市原はもう若手とは言えないでしょうし、派遣している選手も4人のみ。
 現状維持で来年を迎えれば、巻、深井、下村、ボスナーが30歳台に突入することになります。
 J2は現在の3回戦総当り制のままだと年間の試合数が非常に多く、ベテランには過酷なカテゴリだと言われていますから(もっともJFLからの昇格数次第で状況は変わるかもしれませんが)、そのあたりも考えた選手構成も必要なのかもしれません。



 選手構成が一目でわかる、選手の各クラブの年齢構想をグラフ化した物をさっかりんさんが作成していますので、ぜひご覧ください。
 J1だけでなくJ2のグラフも見ることができる上、07年〜09年までのグラフをチェックすることができます。
 07年のジェフは、見事に若手(青+緑)>中堅>ベテランという構図でした。
 それこそ、バランスの取れた選手構成と言えたのかもしれません。
 現在のジェフは非常に中堅が多い割合になってしまっています。
 リザに若い選手がいるといっても、現在のリザは選手をトップに上げるという点では機能しているとは言い難い状況ですし…。


 そもそも正しいバランスなんて、見方次第によって変わってしまうものです。
 だからこそまずは明確なクラブの方向性を決めないといけません。
 それによって、クラブのビジョンも変わり、選手構成のバランスも大きく異なるわけですから。


 私は昼田さんが強化部長の頃に話していた、選手のピラミッド構成というを強く支持していました。
 若手が多く、中堅が中頃で、ベテランが少ないという構図です。
 これは育成面でも、チーム運営の意味でも非常に理にかなった発想だったと思います。
 若手の中には育ちきれない選手もいるし、その中で育った中堅どころがチームに残って、ベテランが最後に締める役割を担う。
 選手が育つ環境を作るだけでなく、チームの新陳代謝も促しつつ、重要なところではベテランがチームを支える。
 しかし、GM(SM)になってからの昼田さんは、その話を一切しなくなってしまったことを残念に思っていたのですが…。




 総合的に考えれば、主力選手の放出もある程度は必要になってくるのかもしれません(ベテラン選手が全く必要ないと言うつもりは一切ありませんよ)。
 もちろん私だってみんなで仲良くJ1に復帰したいという思いがないわけではありません。
 しかし、予算が減ればどこかでコストカットをしなければいけません。
 主力選手1人残せば、その分コーチやスタッフを数人解雇しなければいけないと言う現実があります。
 どちらにしたって非情な決断はどこかで必要なはずです。
 そのあたりも考えた上で、今後の未来を考えていかなければいけません。




 ちょっと話しが大きくなりすぎましたけど、今回の件で一番言いたいのは経営的な理由で「1年でJ1復帰」とは言い切れないのではないかと言うこと。
 確かにJ2にいれば収入は減りますが、収入を早く取り戻したいためだけに(とはいえ一度離れたスポンサーが返ってくるかどうかはわかりませんけど)、来年度は収入に対して無理な投資(支出)をするというのなら、経営的な視点で見ればむしろ心配です。
 ハイリスクハイリターンでそれで失敗すれば目も当てられません。


 経営面を考えるのであれば、むしろ来年の収入に沿った予算を考え、費用は少なくてすむであろう育成路線の方が健全ではないでしょうか。
 その分「1年でJ1復帰」は難しくなるかもしれませんし、経営規模は下がりますけど、私は経営規模の大小よりも重要な物がサッカーにはあると思いますし。



 そんなに経営面が心配だというのなら、まずは先に『特別損失』に目を向けるでしょう。
 大口スポンサーの1社や2社、小口にすればたぶん数十社クラスの用途不明の資金がほぼ毎年出ていってるわけですから、これが無くなればジェフの経営状況はかなり楽になります。
 4億円と言ったら、J2平均収入の半分弱の額で、J1に昇格した時の山形の全人件費に相当する大金です。
 それに関しては指摘しないのに、J2に落ちたからといって急に「収入が心配」というのは、ちょっと私には理解できない発想です。
 順番が逆であり、まずは今ある問題点を解消することが先だと思います。



 経営的な目線で厳しく言うとすれば、予算があっても有効に使えておらず用途不明の多額の資金まで出てるのだから、J1に復帰してスポンサーが戻ってきてくれたとしても(あるいは維持できたとしても)まったく意味はないわけです。
 ジェフは収入があっても、その予算を有効に活用できていなかった。
 だから、J2に落ちた。
 それが現実であり、賢く長期的なビジョンを持ってチームの運営をしていかなければ、予算も無駄にしてしまう。
 もし今後も賢いクラブ運営ができるようにならなければ、例え「1年でJ1復帰」して収入を戻せても、またJ2に落としてしまう可能性も十分に考えられる。


 そういう意味で収入を早期に取り戻すこと以上に、明確なビジョンを築きあげることのできる“賢いクラブ”への成長を期待したいところではないかと私は思います。