「江尻監督続投」以前に何を期待した監督交代だったのか


千葉はJ2降格の危機にあるが、江尻監督の来季続投の方針を決めた。チーム側によると、28日に行われたスポンサーとの会合で三木社長が「来季も江尻監督で戦います」と明言したという。ただ、監督本人は、29日の練習試合後に、「辞めるのも責任の取り方だし、最後までかかわるのも責任の取り方。終わってから考えたい」と態度を保留。今季リーグ残り4試合を戦い抜き、進退に結論を出す考えを示した。(報知

千葉・江尻篤彦監督(42)の来季続投が29日、決定的となった。前日28日に行われたスポンサーパーティーで三木社長が「トップチームは来季も江尻体制でいきます」と報告。クラブトップの突然の“公表”から一夜明け、江尻監督は「びっくりした。正式な要請は受けていない」と振り返りながらも「今年初めて会った人じゃないし、話さなくても分かる部分もある。それが社長のメッセージだと思った。その(続投)ためにもこの1カ月間しっかりやりたいと思います」と受諾に前向きな姿勢を見せた。(スポニチ

J2降格の危機にある千葉が、江尻篤彦監督(42)に来季の続投を要請することが29日、分かった。28日に千葉県内で開かれたスポンサー向けのパーティーで、三木博計社長が「来季もトップチームは江尻監督に指揮を執ってもらいます」とスピーチ。今週初めにも選手、スタッフに「来季も江尻体制でいく」と伝えていた。仮にJ2に降格しても、方針は変わらないという。まだ同監督には正式要請していないが、近日中にも条件面などの話し合いを始める見込みだ。(日刊
 人事の評価で重要なのは、着任当時に任された第一タスク(要求・期待)がいったい何だったのかということ。
 例えば柏のネルシーニョ監督の場合は「残留」が一番のタスクだったと思っていたので、早期に続投が決まったことに対して驚きもしました(決してネルシーニョ監督の仕事がよろしくないとかではなく)。


 一方、大分のポポビッチ監督に関しては当時のチーム状況があまりにも良くなかったですから、まずチームの立て直し(正常化)が第一でその中でチームの方向性を築き上げることが一番に求められていたのではないでしょうか。
 そして、あわよくば「残留」…。
 もちろん「残留」したくないはずはないのですが、冷静に当時の状況を判断すると「残留」というタスクは2番手に来るものだったのかもしれません。
 そう考えると降格は決まってしまったものの方向性という意味では変化が出ている部分も感じますから、ポポビッチ監督が来季残留することになっても決して驚くべきことではないと思います。
 もちろん以上は第3者的な目線で見たものですから、実際に正しいかどうかはわかりませんけれども。



 では、ジェフは江尻監督就任時に、いったいどのようなタスクを求めていたのか。
 ジェフは監督を交代した段階(第19節)で16位。
 勝点19は残留圏内である15位神戸と同点で、得失点差もたったの1でした。


 この状況なら当然ポポビッチ監督のようなタスクにはならないでしょう。
 大分の監督が解任されたのは17節の後だったのですが、その時点でまだ勝点は4。
 それまで1勝1分15敗という厳しい成績でした。


 しかし、ジェフの場合は残留争いの最前線にいたわけで、状況から判断すればまず「残留」を第一目標に考えるのが妥当です。
 逆にそうではなく「残留」以外の目標で監督を交代したというのであれば、いったい「残留」と何を天秤にかけて監督を交代したのか、「残留」以上に重要なものとはなんなのか…ということになってしまいます。
 


 現在の勝点は24。
 江尻監督になってリーグ戦で0勝6敗5分。
 冷静に成績だけ見れば(「残留」を目指す=何よりも成績を評価するということになるはずです)、決して良いとは言えない状況です。


 もちろんだからといって江尻監督を批判したり。監督としての素質を否定することはしません。
 …というか、出来ないのです。
 

 監督経験のない江尻氏に対して、いきなりチーム状況が厳しい中で監督に就任させ「残留」を求め、監督就任の際の社長などの言葉からすると「若手育成」まで期待する。
 けれど、実際のチームはミラー監督の好む選手をメインに構成され、江尻監督の求める選手は1人も獲得せず(しかもミラー監督の下で獲得したバイアーノと太田入団直後に監督を交代)、若手も1つ前のオフで大量に放出した上、新卒の選手は1人もいない状況…。
 

 改めて江尻監督就任のタイミングがおかしかったと言えるのではないでしょうか。
 「残留」だけを考えるのなら経験豊富な監督を連れてくるべきだったと思うし、もしそいった監督が獲得できないとなればミラー監督で最後まで戦うべきだったのではないかと思います。

 


 もっと言えば、今期初めの目標は何だったのか。
 そして、その目標設定は現在の戦力と見比べて、本当に正しかったのか。
 それによってミラー監督の評価も大きく違ってくるだろうし、あのタイミングでの監督解任という判断が本当に正しいものだったのか、という話しにもつながってくるはずです。


 もし上位順位を狙っていたのにそれが実現できていなかったのであれば、何かがどこかで大きな問題が生じているか、それとも自分達の見切りが甘かったのかのどちらかです。
 これらはフロントだけの問題でもないと思います。



 私は手塩にかけて育ててきた江尻監督だからこそ、このような状況でバトンを渡すべきではなかったように思います。
 これも「監督就任時にタスクを定める」のと同じくらい当たり前の話しですが、江尻監督を続投させるのであれば「なぜ続投なのか」を明白にすべきです。
 そして、「なぜ続投なのか」を考える上でも、就任時に「いったい何を期待して江尻監督を起用したのか」をもう一度振り返らなければいけないのではないでしょうか。



 そのあたりを含めてしっかりと反省することが必要なはずで、あれだけバタバタした夏を過ごした上に、「降格」という一番最悪な結果が目の前まで近づいているのにもかかわらず、早期に「江尻監督続投」という話しが出てくるのは非常に残念です。
 ドイツW杯直後に今でも思い出したくない発言をした川淵前会長にも近い判断ではないでしょうか。
 加えて今はまだ選手達が必死になって戦っている段階です。
 そのような状況で、スポンサーを相手にそのような大事な話しをすることが、チームのためになるのかどうか…。
 せめて内々だけの話しに留めておいてほしかったように思います。
(もちろん選手との交渉もあるので監督人事を先に決めたい意向もあるのでしょうが、選手だって残留争いの結果が出るまでは態度を保留する人がほとんどではないでしょうか。)


 しかも、報道によれば本人にはまだ話しをしていなかったようで、社長によるフライングでの公表だったようです。
 これは明らかにルール違反であり、監督によってはそれだけで断られる可能性だってあるんじゃないでしょうか。
 江尻監督だから今回の件で怒るようなことはないのかもしれませんが、「江尻監督だからいいだろう」というような考え方がまかり通ってしまうのであれば、このクラブの今後がとても心配です。



 現実的に考えれば、ジェフは江尻監督続投を要求するしかないでしょう。
 もし「残留」に失敗したとしても就任当初のチーム状況は厳しかったわけですから、クラブはそこを問えるような立場ではない。
 となると、江尻監督就任当初にフロントが発言した「育成」面で期待するしかない。
 しかし、「育成」なんてものは半年間ではっきりと成果が表れるものではなく(チームがゴタゴタしている状況ならばなおさらです)、もし「育成」メインで江尻監督を評価するにしても白黒付かない『白紙』のまま続投を要求するしかないはずです。
 マルも付けられないけれど、バツも付けられないわけですから、そのような状況でジェフ生え抜きの大切な人材を簡単に解雇するわけにはいかないでしょう。
 ようするに、江尻監督への評価は持ち越しということになるはずです。


 しかし、江尻監督への評価は持ち越すにしたとしても、監督交代のタイミングに関してはしっかりと反省し、なぜこのような状況になってしまったのかを考え、今後のクラブ運営にしっかりと活かしてほしいと思います。



 ただし、チーム続投を要求したところで、江尻監督がすんなり了承するかどうかはわからないですけどね。
 江尻監督からは長期的な視点に立っての指導を考えているような発言が聞かれますが、さすがに今期このままリーグ戦未勝利というような自体になれば最悪の場合辞任という選択肢もありえるでしょう。
 そうなれば、今まで大事に育ててきたスタッフの1人が、ジェフから去ってしまう可能性が出てきます。
 祖母井さんは欧州人監督を招集し続けた理由の1つのとして、コーチングスタッフの育成も掲げていて、江尻氏もその中で育った1人だったはずなのですが…。
 ともかく、江尻監督をひきとめるためにも、リーグ戦での勝利を期待したいと思います。




 なお、「監督続投=方向性(方針)がぶれない」とは言い切れません。
 そもそもフロントに明確な方向性があった上での監督人事であるかどうかが重要であり、それがなければただの監督への丸投げです。
 その方向性の上に立つのが、短期・中期・長期のビジョンであり、その中で決まるのが今期の目標や監督へのタスクであるはずです。
 そのあたりの順序が違えば、物事は大きく変わってしまいます。
 だからこそ、初めに明確な方向性、最終的なクラブのビジョンの設定が必要になってくるはずなのです…。