『問題解決』の手順がおかしい

 最近、ふざけすぎたのでちょっと真面目にナビスコU-23化をまとめます。
 U-23じゃ各クラブの人数が足りないという話しは色々なところで出ているので、今回はあえて触れません。


1、本当に若手強化につながるのか
 一概に選手育成といっても、試合をこなすだけで成長するわけではなく、試合のレベル、普段の練習、指導者など、様々なファクターが存在します。
 ですから、ナビスコ杯をU-23をしたからといって、そう単純にはU-23つながるとは思えないのです。
 

 ナビスコU-23でレベルの高い試合が組めればいいのだけれど、現状のサテライトリーグや練習試合のレベルを見るとそれも難しいように思います。
 じゃあオーバーエイジが試合のレベルを上げてくれるのかというと、それも期待しないほうがいいでしょう。


 少し考えてみればわかるけれど週末に大事なリーグ戦をこなしている状況で、週の間に突然ナビスコU-23が入ってきても、そっちにトップの選手が合わせるのは困難でしょう。
 いくら練習を一緒にやっていると言ったって、メンバーは全く違うわけですから、トップチームとは別物と考えた方がいい。
 ようするにたった中2,3日で、全く新しいチームにフィットしなければいけないのです。
 いくら優秀な選手であっても、それは不可能に近いでしょう。
 五輪代表のオーバーエイジでもよく言われているように、なるべく早くオーバーエイジの選手をチームに加入させて馴染ませなければ、いくら優秀な選手を呼んだところで意味はないのです。


 そうなってくると、当然あまり無理はさせずトップ選手は休ませようということになるのではないかと思います。
 ナビスコU-23になれば、ますますリーグ戦の方がナビスコ杯以上に重要だという認識が強まるでしょうしね。
 そして、これはオーバーエイジだけの問題ではないでしょう。
 トップチームに参加しているU-23の選手達にも、同じことがいえるのではないでしょうか。


 そうなってくれば、当然試合のレベルを保つことはできないでしょう。
 例えばジェフのサテライトなんて、オシム監督時代から大学チームにすらなかなか勝てなかったわけですし…。
2、大会の盛り上がりは?
 レギュラー選手もいない、オーバーエイジでも有力な選手は出てこない、U-23といってもトップの選手は参加しない。
 もしそうなれば、大会もそう簡単には盛り上がらないでしょうね。
 北京五輪代表も全く世間からは注目されませんでしたし、各チームのサテライトだって頑張っているチームはあるけれど、それでも興行的には難しいものがあるでしょう。


 大会が盛り上がらないし、試合のレベルも保てない。
 そうなれば、当然選手達のモチベーションにも影響を及ぼすでしょうね。
 マスコミも初めは『新ナビスコカップ』というような報じ方をするかもしれませんが、最終的には『サテライトリーグのカップ戦』のような扱いになるのではないかと思います。




 とはいえ、U-23などの選手達の底上げという意味で考えると、サテライトリーグの試合数が少ないことは大いに問題だと思います。
 しかし、現在のサテライトリーグというはなかなかうまくいかず、Jリーグ(とクラブ)側が自主的に減らしてきた…という実情があるはずです。
 ナビスコサテライトリーグのようにしたところで、その末路はサテライトリーグと同じなのではないでしょうか。
 それならば、サテライトリーグの試合数を増やしたり、新たなサテライトの大会を立ち上げるのであってもなんら変わりはないと思います。
 この点だけを考えれば、わざわざナビスコ杯を縮小する必要性は今のところあまり感じません。
 クラブかJリーグJFAが身を削ってでも、頑張って現在のサテライトリーグの試合数を増やすというだけでいいのではないでしょうか。
3、カップ戦の消滅は『最終手段』
 一方でナビスコ杯を含め、公式戦が多すぎる問題、選手の疲労に関する問題は非常に悩ましいところです。
 その点については、一考の余地があるのではないかと思います。
 ようするに、割り切ってナビスコ杯をサテライトカップとして実質的に消滅させ、トップチームの試合数を減らすという考え方です。
 

 しかし、消えてしまうのはナビスコ杯で本当にいいのか?という問題があるはずです。
 私は現状を考えどこかの大会を消滅させるしかないというのであれば、ナビスコ杯よりも天皇杯ではないかと思います。
 消滅させるというか、プロが天皇杯から手を引くということですね。


 今の日程を見るとアマチュアチームが参加することもあって、どうしてもリーグ戦の終盤にJリーグのチームが参加することになってしまいます。
 その結果、カップ戦がシーズンの終わりという歪んだ状態が続いています。


 ナビスコ杯にはホーム&アウェイやグループリーグという魅力があり、これによりカップ戦だけれど一発勝負ではないという魅力もあります。
 ようするにチームの本当の力が反映されやすいということです。
 これはアマチュアも参加する天皇杯ではなかなかできないフォーマットです。
 対する天皇杯もアマチュアがプロに戦いを挑むという見所はあるのですが、それをマスコミや多くのサッカーファンがそこまで強く期待しているかというと疑問もあるのではないかと思います。
 もちろん私自身もこのメリット自体は楽しんでいる部分もありますが、そこまでコンテンツとして強いものではないと思います。
 下克上というのは確かに見ていて面白い要素ではありますけれども、残念ながらなかなか日本サッカー界というのは上下の差がそこまではっきりして来ず、一時的な騒ぎにはなるでしょうがそれ自体が大会を盛り上げるほどには至っていないと思います。
 それでも「下克上が見たい」という要望が強いのであれば(私自身は対して魅力を感じませんが)、天皇杯の参加を取り止める分ナビスコ杯にJ2を参加させるというような案もありかもしれません。


 もっとも私はカップ戦を取り止める前に、やるべきことがたくさんあるんじゃないかとは思います。
 日本代表の無意味な試合を減らすこと、夏の連戦を止めること、オールスターやスーパーカップの処遇、W杯予選やアジア杯予選などに対するAFCの日程への抗議…。
 それでもダメならJ1のチームの削減というのも考えなければいけないかもしれません。
 それらがまず先に手をつけるべき問題であって、カップ戦の縮小や参加取り止めというのは本来『最終手段』としてとっておくべきものじゃないでしょうか。
4、今回の『U-23の育成』の狙いとは
 会長は何でもかんでも大きな案で、全てを解決しようとしすぎなんじゃないでしょうか。
 そもそも『U-23選手の育成』というのは、幅が広すぎるんじゃないかと思います。
 U-23の試合数を増やすことは、全体の底上げにはつながるかもしれない。
 けれども、例えば今回の『U-23選手の育成』が『五輪で勝こと』なのであれば(「U-23の出場機会が少ない」という協会の話しは北京五輪後から始まっている)、『U-23の試合数を増やすこと』と『五輪で勝つこと』に直接つながるとはなかなか思えません。
 U-23世代の底上げは重要だと思うけれども、それはリーグ全体の強化だとか長期的な話しではないかと思います。


 何せ北京五輪代表のほとんどが、すでにJリーグで試合に出場できていた選手達です。
 Jリーグでレギュラーを勝ち取った選手達を合計すれば、五輪代表チームを2,3個作れるくらいなんじゃないでしょうか。
 サテライトリーグはここ数年で試合数も減り、衰退しているわけだけれど、それに比例して五輪選手の質が下がってきているわけでもないと思います。
 飛びぬけた選手は出てきていないけれど、それもサテライトリーグとは関係ないでしょう。
 それでも五輪では勝てなかったわけで。
 もっと根は深いところにあるはずです。
 例えばどうしてもメンバーが集まらず合宿の日程が組めなかった問題だとか、前会長がオールスターやら何やらを優先してしまった問題だとか…。
 私は反町監督が特別に悪い指導者ではないと思っているけれど、本気で五輪で勝ちたいのであれば指導者の選択に関してももう一度考え直さなければいけないのかもしれません。


 そういえば、五輪後の具体的な反省も聞こえてこないですね。
 『ナビスコU-23にすればU-23が育つ』というのは、まるで前会長がドイツW杯の反省もせずにオシム監督の名前を出した例の失言と似たようなケースですね(笑)

 
 
 全体の底上げではなく本当に五輪代表を強くしたいのであれば、現在の大分や一時期のジェフがどのようにして選手を育てたのか。
 そちらの方に目を向けるべきではないでしょうか。
 サテライトが機能せずともしっかりとした指導者の下で練習を行い、経験を積めば選手というのは育ってくるわけです。


 もしも本気でU-23選手を育成したいのであれば、もっと細部にこだわった改革を行わなければ、本当の意味での改革なんてものはなしえないんじゃないでしょうか。
5、『問題解決』の順番
 めちゃくちゃなことばかり言っているように感じる犬飼会長だけれど、『過密日程の問題』、『中途半端な天皇杯の問題』、『サテライトの問題』などは、私も数年前から心配していた題材です。
 それを取り上げて大きな話題にしたという点では、若干の意味もあるように思います
 しかし、その取り上げ方がめちゃくちゃなのですが。


 『秋春開催』、『ベストメンバー制』、『ナビスコU-23』というのは、確かにこの3つの問題に当てはまる解決案です。
 けれど、なぜマスコミや世間は問題の方を取り上げず、その案ばかりを話題にしてしまうのか。


 それも当然。
 会長が、問題の設定をはっきりとしていないからでしょう。
 いわゆる『問題解決』とよばれる手法では、まずはその問題をしっかり分析し、把握することが一番の基本となってきます。


実際に問題解決はどう進めればよいだろうか。問題解決には,(1)問題の認識,(2)重要問題の特定,(3)問題の構造分析,(4)改善目標の設定,(5)解決策の立案,(6)実行,(7)効果の評価と軌道修正という,7つのステップがある(日経
 そうでなく、会長のようにアイデア先行ばかりの話しの持って行き方では、いったいそのアイデアは何のためにあるのかがはっきりしません。
 利害関係者(サポーターやマスコミも含め)に最大の目的が認識されないわけですから、当然混乱も出てきます。
 そして、アイデアの後に細かな部分をつめていっては、本来の目的が失われるという最悪の可能性も考えられます。
 それにこういった場合、本来は集団での『問題解決』を考えなければいけないはずなのに、それも怠っているように見えます。
 だから例えば『問題解決』には複数の代替案が出て然るべきなのに、先にアイデアが出てきてそこからどうするかという話しの進めかただから代替案も出てこない。


 これでは有意義な話し合いなど不可能です。
 内部だけで細かな話しがされているかも…とも思ったけれど、今回の鬼武さんのコメントでそれもないように思います。
 ようするに、まず話し合いのベースがなっちゃいないんですよね。
(これらは問題の解決方法だけでなく、例えば方向性やヴィジョン、目標の設定法としても話しは同じことだと思います。)



 こういった『問題解決』の考え方というのは、経営者ならば基本的な話しだと思うのですが、なぜそれが出来ていないんでしょうね。
 犬飼会長もまたワンマンなところがあるようですね。
 前にも言いましたけど、犬飼会長はアイデアマンではあるかもしれません。
 けれど、優れたバランサーではないように思います。


 現在の日本サッカー界は、Jリーグ人気の向上と代表の人気の衰退、クラブと協会の関係、マスコミとサポの乖離…など、様々な部分でバランスが崩れているように思います。
 そんな中でトップに求められるのは、“アイデアマン(改革者)”ではなく“優れたバランサー”なのではないかと私は思うのです。
 利害関係者がさまざまいて、それぞれが違う思いを持っている中で、それを取りまとめられるような人こそが、適任だと思うのですが…。



 そう考えていくと、残念ながらもう少し日本サッカー界の混乱というのは続くのかなぁと思ってしまいます。