オシム監督の現場復帰で重要なのは『再発の危険性』

 さて、この前の話し続き。




―ちょっと聞きたいことがあるのだけれど…
オシム監督の話し?


―日刊の記事を読んだ?
うん。もし少しでも腕が動いたと言うのならすごいよね。とても頑張ったということ。


―頑張ったというと?
リハビリは患者の気持ちが非常に重要。
周りのスタッフはもちろんだが、オシム監督が頑張ったということなのだろう。
基本的に麻痺は発症してから1年間は少しなら回復する可能性があると言われているのだけど、その間にも時間が経過するとそれだけ治る可能性は少なくなるから。


―「良い反応があった」ということだが
例えばパワーアシストなどを使ってリハビリをする方法がある。
その場合重力によって患部にかかる負荷をなくし、微弱に残っている筋肉で麻痺している部分を動かす手法をとる。
そういった普段より負荷が少ない状況下において、腕の筋肉に「良い反応があった」ということかもしれない。


―“ほぼ完治”ということだけど?
「完治」というのが「完全に元に戻る」という意味なのであれば、それはないだろう。
ただ、「完治」をどこに置くのかということにもよる。
右手が効き手のオシム監督にとって、左手は補助手ということになる。
だから完全に治さなくてもいいと診るのかもしれない。
着衣、食事、階段の上り下り…など、複数の項目においてその補助手が邪魔にならない程度まで回復させることを、「完治」と判断している可能性もある。
例えば長嶋さんの場合などは逆で、右手に麻痺が出てしまった。
こういった場合は、完全に治らないと「完治」とは言えないでしょう。






 前と同じで「完治」が「完全に元に戻る」ということなら難しいという話しでした。
 でも、全体的に「腕が動いたのであれば、すごいなぁ」と驚いている様子でした。
 で、「麻痺が完治する可能性はどれだけあるのか?」という話しの流れになり…。






―向うのドクターは「完治する見込みがある」と言っているとのこと
どこのドクターなんだろう?


―確かリハビリ施設はグラーツ郊外にあるとか…
もしかしたらドイツから優秀なドクターを呼んだのかもしれない。
“どこか”がお金を出したりして。
オシム監督のようなVIPならありえるかもしれない。


―なるほど
ドイツなどは医学が進んでおり、特にリハビリでは先進国。
「医学で麻痺を治してやろう!」という考え方が非常に強い。


―日本ではある程度自然に任せるといった感じ?
…というか、最近は日本での講習会などでも「あきらめず根気強く付き合え」と、どこに行っても言われるようになった。
「麻痺」と言っても、筋肉がなくなるわけではない。
リハビリの原理は患部にある神経細胞に刺激を与えるために、脳から信号を送り続けてあげることが重要。
しかし、その考え方で本気で治していくためには、一日に5時間は刺激を与え続けなければいけない。
そのためにはトレーニング以外の普段の私生活も、きっちり管理してリハビリをしていかなければいけないのだが、それは簡単なことではない。
もちろんそのトレーニングにしても一日に1時間以上、みっちりと厳しいトレーニングをやらなければいけないのだし。
だから、患者の気持ちが重要ということになるのだけれど。
オシム監督はそれをこなしてきたということなのかもしれない。


―だから「頑張った」に繋がるのか…
特にドイツなどは多少強引なリハビリでも、「自分達の手で治すんだ!」という方針がはっきりしている。
しかし、日本の医療はそのあたりがはっきりしていない。
昔からの人たちはそういった最新の手法に反発する人もいるし(患者への負担もあるし)、なかなか方針が見えてこない。
こちらでは治らなかったのだろうし、もしもある程度完治したというのであれば日本の医療が向うに負けたということになるのかな…。



 一応、最後の部分は日本を侮辱しているというよりは、ドイツ医学の凄さだとか悔しさのほうが強い感じでした。
 言葉って難しい。









 以上が「麻痺」と「完治」についてのお話し。
 しかし、サッカーファンとして重要なのはむしろここからです。





―「疲労で脳梗塞再発の危険性」が出たようだが?
疲労によってストレスが溜まる。
ストレスが溜まると血液がドロドロ(脂質異常症)になり、また血栓が出来てしまい脳に飛んでしまう可能性が高くなる。


―そして脳梗塞を起こすということか…
脳梗塞を一度発症した人は発症していない人に比べて、再発の確率が9倍も高くなると言われている。
それに加えて、高血圧・高血糖・高コレステロールの三台要素が1つでもあれば、一気に再発の可能性が跳ね上がる。
オシム監督の体格を考えると、そのあたりも十分に気をつけなければならない。
しかもオシム監督の場合は、もともと心臓病をわずらっていたのも心配しなければいけない要素となる。


―再発の可能性が非常に高いということなのか?
現代の医学では、「脳梗塞で怖いのは失語症認知症などの重い後遺症と再発」とまで言われているほど。
脳梗塞を発症してから再び脳梗塞を起こす可能性は、3年間で20〜30%以上とまで言われている。
そして、再発となれば当然前回以上に症状が酷くなる可能性が高い。


―昨日は「ユース日本代表へ意欲」という記事もあったが
監督業への復帰となると疲労はもちろんプレッシャーからのストレスもある。
飛行機や新幹線などの長期移動で、エコノミークラス症候群となり血栓が出来る恐れもある。
再発を予防するにはストレスをためないことと、規則正しい生活が必要不可欠でそのあたりに大きな心配が残る。
深夜まで起きて、サッカーの試合を見るなんてことはもってのほか。
先ほどいった肥満体形の問題もあり、オシム監督の場合、今までのままの生活習慣ではアポるよ
(注:アポ=Apoplexie=脳卒中で倒れる…らしい。)


―ということは「現場復帰」は難しい?
職場復帰への判断は『再発の危険性』があるかどうか。
「麻痺」が回復するかどうかではない。
一度でも「再発の危険性が出てしまった」と言うのであれば、現段階での「現場復帰」は難しいと言わざるをえないだろう。







 「オシム監督なら無理言ってやっちゃいそうだよねー」という話しもしていたのですが、日刊の記事に「再発の危険性が浮上」と出てこうやって「脳梗塞再発の恐れ」を聞くと、簡単に「現場復帰」という言葉を使うことに非常に強い抵抗を感じてしまいました。


 多くのドクターは、オシム監督のような大きな脳梗塞を発症した患者さんに
『次やったら死ぬよ』
 と、注意を促すんだそうです。


 それらを踏まえて考えるとやはり無理はしてはいけないのだろうし、周りも無理をさせるような方向に話しを持っていくのは、極力避けるべきなんじゃないかと思います。
 体調管理も含め万全の体制が整ってから今後の人生を考えて欲しいですし、周りもあまり大きな期待をしないほうがいいのかもしれません。