日本サッカーの方向性は数的優位を作ること


久々に代表でフル出場した小野は、かみ締めるように「走る」という言葉を繰り返していた。その卓越したテクニックから、何度かチャンスを演出していた小野。それでも、話に聞いていたときのイメージと、実際にプレーしてみた実感との間に明確なギャップがあったことは、当人も認めざるを得なかった。小野にとって、代表を離れていた2年と2カ月の空白は、そのまま「走んなきゃダメ」という実感と同義であった。もっとも、小野の分まで懸命に走り回っていたのは、間違いなく中村憲であったのだが。
いずれにせよ、日本が世界と伍するためには、個で勝負できない分、攻撃でも守備でも人数をかける必要がある。ゆえに、全員が走る必要があるのが、今の日本に課せられた最低限のタスクなのである。(宇都宮徹壱氏

「たぶんそれは、攻撃と守備にいかに人数を掛けていくべきなのかということに関する質問だと思う・・攻撃に人数を掛ければ、次の守備で問題が出てくるだろうし、逆のケースでは攻撃に問題が出てくるだろう・・攻守両面で、常にしっかりと人数を掛けられることが理想だが・・とにかく日本は(その意味でも!?)良いチームだよ・・」
(中略)
その質問を聞いたタバレス監督が、ちょっと肩をすぼめるような仕草をしながら、冒頭の(ちょっと質問の骨子をはぐらかした!?)コメントを出してくれたというわけです。まあ、もちろん(世界基準じゃ)そういうことになるわけだけれど、日本の場合は、人数を掛けた組織プレーじゃなきゃ効果的な攻撃を繰り出していけないんだからネ。だからこそ、常に相手よりも多く動き回らなければならない・・。 (湯浅健二氏
 こうしてはっきりと同じような方向性を多くのサッカー関係者が共感できるようになったきっかけを作っただけでも、日本代表でのオシム監督は十分評価できると私は思うのですよ。
(まぁジェフサポがそんなこと言うのも変な話しなんだけどね。その方向性で成功したを目の当たりにしてるから今さら言うのもおかしいし、何より就任経緯は未だに納得できないんだからオシム日本代表監督に関しては本来評価したくもないし。)


 確かにこれはオシム監督の考えや力だけではないでしょう。
 多くの日本人コーチがそのやり方を考え、その道に進もうとしていました(ちなみに大木監督や石崎監督、城副監督など多くの日本人コーチが、「オシム監督から影響を受けた」と言っているのだけど)。
 けれども、理想は同じでも結局「人数をかけるということは大きなリスクも伴うこと」になるから、実際には実施しづらいし、ある程度は実施できても小規模な成功に終わってしまうということがあったはずです。
 しかし、そんな中でオシム監督がジェフで明確な1つの成功例を打ち出し、日本代表でもそれを実行しようとしたことによって日本サッカーの1つのやり方がはっきりしたんだと思います。




 それまでの日本の目差す道というのは「パスサッカー」というイメージが多かったと思います。
 磐田にせよ、鹿島にせよ。G大阪なんかもそうでしょうか。
 それはそれで素晴らしい日本サッカーの戦い方の1つだと思うのだけれど、それだけでは方向性としては弱い。
 例えばアルゼンチンあたりとパスサッカーで真っ向勝負を挑んだとしても、現実問題としては上にはいけないでしょう。
 もちろん磐田と鹿島も同じように、アルゼンチンもパスサッカーだけが方向性というわけではないでしょうが。


 その中で、じゃあ他の部分で日本人の良さを活かすにはどうすべきなのか?と考えると、日本人の特性である運動量や俊敏性を活かした“走るサッカー”を目差すべきではないかということですね。
 個人勝負では勝てないのだから相手よりも走って数的優位を作るサッカーを目標とすべき、というのがオシム監督“ら”の考えだったはずです。
 そして以前からあったパスサッカー志向と、オシム監督が重要視していた走るサッカー。
 それが融合して、最近また良く聞くようになった「人もボールも動くサッカー」になったのではないかと思います。



 岡田監督も理想はそのあたりなんでしょう。
 しかし、実際にそれを実現できるのかどうか、レールに乗せられるのかどうかはまだわからない。
 理想はそうであっても現実を見てルートを変える可能性もあるし、実際今のサッカーを見ているとまだ迷走しそうなような気もします。


 オシム監督は良くも悪くも頑固者なので、少しぐらいの障害があっても日本サッカーの方向性を突き進んでくれるだろうと思っていました。
 しかし、岡田監督はまったく逆で現実主義者だと思っています。
 現実主義がいけないわけではないけど、日本サッカーを構築するためにはどうなんだろう?という不安があります。
(でも、岡田監督が就任当初に言っていた「チャレンジ」って言葉は、そのあたりだと思ってたんだけどなぁ。)


 ただしかし、岡田監督の場合は就任して間もなく、W杯予選という非常に重要な結果を求められる戦いが始まってしまいました。
 そのあたりは差し引いて考えてあげなければいけないと思います。



 やはり近年のサッカー界には時間がない。
 もともと代表チームには時間がなかったのに、ますますサッカー界全体の過密日程化は進んでいます。
 日本でもACLはあるし、W杯予選や五輪予選の日程も増えてしまいました。
 その中で代表チームがどれだけ理想を追い求めるのかってのは、正直難しいテーマでしょうね。
 Jリーグの存在価値も高まってしまったし、この前のウルグアイ戦だって代表で練習をしていない選手達がたくさん出場していました。
 このあたりは同情せざるを得ない状況だと思います。




 そんな中でもオシム監督の目差した方向性というのは少なからず日本サッカー界にインパクトを与えたはずで、それを忘れずに続けていけば形は多少違ってもその理想に近づくことは出来るんじゃないかなぁと私は思います。
 誰が忘れずにいるのか、どこが続けていくのかと言うのは、また別の話し
 別に日本代表に携わる者に限らないんじゃないでしょうか。