日本サッカー界としてどこにプライオリティを置くのか

 これ、難しい問題ですよね。
 五輪は国内での注目という意味では非常に大きな存在で、成功すればサッカーの宣伝に繋がるでしょう。
 国内ではフル代表のW杯の次くらいに、宣伝効果を期待できる大会なのかもしれません。
 日本サッカーの裾野を広げるという意味では非常に重要な大会と言えるのでしょう。



 しかし、一方で日本のサッカー界は五輪も含め代表チームを軽視する方向に進んでいます。
 協会だけなら「もっとサポートしてやれよ!」と言えるのだけど、クラブも、マスコミも、サポーターやファンも、決して熱心に応援しているわけではなかった。
 なのに最後だけ文句を言われるんだからね…(笑)
 スタッフとしてはたまったもんじゃないでしょう。


 反町監督の初陣となった日中戦ではA3が優先され、06年年末のアジア競技大会では1クラブ1選手、去年の夏の中国遠征ではオールスターを優先され、08年年頭の米国遠征でもクラブキャンプ優先…。
 そして、合宿などのスケジューリングもまずフル代表、クラブと来て、最後に北京五輪代表の日程を入れるような状況でした。
 現在はフル代表の日程ですらジーコ監督の頃のように手厚くサポートしてもらえる状況ではなくなっているのに、Jリーグとフル代表のあとに五輪代表の日程が決まるくらいなのだから厳しい状況だったといえるでしょう。


 もっと下の世代の代表ならばまだ楽かもしれません。
 Jリーグでも試合に出ていない選手だったりユースや高校の子達だったりするから、ある程度強引に日程を組んでも選手を引っ張ってくることが可能になります。
 けれど五輪世代ともなると、そうもいきません。


 
 しかも、世界的な日程を見ても、五輪チームは厳しい状況にある。
 国際Aマッチデーなどはまず欧州の日程に合わせて、そこからアジアや日本の日程を決める状況にあるのだけれど、その欧州があまり五輪サッカーに熱心ではないのだから、日本でも五輪に優位な日程にしづらくなってしまいます。
 JリーグでもOAの選手のみならず、U-23の選手達も五輪とクラブなどの日程が被ることが多くなってしまいました。




 そんな状況で、手厚いサポートを受けられたのが黄金世代。
 ようするに近年で唯一五輪で結果を残せたシドニー世代ではないでしょうか。


 あの世代は日韓W杯に向けて、若い頃から手厚サポートを受けていたチームでした。
 トルシエ監督もそれを理解して五輪代表を熱心に育て、五輪代表の選手がそのままフル代表に移行するという強化方法を成功させました。


 また、サポーターやマスコミ、そしてクラブも黄金世代の成功非常に期待していたと思います。
 日韓W杯という日本サッカー界において歴史的なイベントに向かって、日本サッカー界が1つにまとまることが出来たんだと思います。
 日韓W杯で国内のサッカー熱が盛り上がれば、それは代表や協会のみならず、クラブやマスコミなど多くのサッカー関係者にとっても大きなメリットがあるはずだと考えるのは、当然のことでした。


 けれど、06年ドイツW杯でその黄金世代が惨敗し、少しずつ日本サッカー界のプライオリティが日本代表からJリーグに移っていったんだと思います。
 そして、五輪代表も当然その影響を受けて活動がしにくくなってしまいました。
 フル代表からJリーグにプライオリティが移れば、当然五輪代表も難しい状況に置かれますからね。




 さて、それではこれからどのようにしていくべきか。
 Jリーグにプライオリティが移ること自体は、決して悪いことではないとは思います。
 欧州のサッカーではクラブを中心に考えることが多くありますし、サッカー界ではそれが自然なことでしょう。


 しかし、欧州とは違い日本では、なかなかクラブだけだと世界のサッカーを体感できないという問題が生じてしまいます。
 今回の五輪代表世代も、五輪を通じて様々な経験を積むことができたのではないかと思います。
(もちろん逆にクラブの選手育成が、代表チームを支えているのも言うまでもありませんが。)


 また、冒頭でも言ったように新規サッカーファンの入り口として、五輪や日本代表は重要な存在であり、クラブにとっても現実問題として欠かせない存在なのではないでしょうか。



 最終的には「共存」というのが大きなテーマになってくるのは当然でしょう。
(そういう意味でもオシム監督の「Jリーグで活躍したらどんどん呼ぶ」という狙いは、非常に興味深い選考方法だったのではないかと思います。日本代表がJリーグと大きくリンクしているんだということによって、双方にとって大きなメリットがあったのではないでしょうか。)
 けれど、それにしてもどこにプライオリティを置くのか、どうやって日本サッカー界として共存、共栄していくのか。
 これは非常に大きく、難しい問題ではないかと思います。




 単純な1つの解決策としては、クラブ自体がもっと世界に出て行くことなのかもしれません。
 真剣勝負の場はなかなかできないでしょうけど、親善試合だとか遠征だとかはやっていけるかもしれない。


 ただし、それはJリーグを戦い抜くだけなら、あまり意味をなさないかもしれません。
 ジェフもトルコキャンプで東欧の強豪との試合を組んでいますけど、逆に自信を失い体調も落として帰ってきますからね(笑)


 けれど、日本サッカー界全体を考えればそういった国内だけでなく世界を経験すること、世界のクラブと交流を持つことが重要なのではないかと思います。
 初めの頃は目に見える効果はでないでしょう。
 それがクラブにとっては難しいのだと思うのですが、経験なんてそう簡単に身に付くものではないですからね。
 考え方を変えて世界を見据えた強化を少しずつやっていくことが、日本サッカー界に繋がり延いては自分達のところにも帰ってくるのではないでしょうか。




 でも、これを本格的にやるならJリーグJFAも一緒になってやらなければいけないでしょうね。
 過密日程の問題もあるわけだし。
(その過密日程を解決するにも、まずはプライオリティを決めなければいけないのではないかと思う。) 
 けれどJFAとしてはそれをやっちゃうと、JFA一番の収入源である代表離れを認め、加速させることにも繋がりかねないのかもしれませんが…(笑)
 オシム監督なら対世界でいろいろ考えてくれただろうからある程度は代表に任せておけばよかったのかもしれないけれど、岡田監督だと今のところアジア突破にプライオリティが傾いているし。
(まぁ、アジアさえ勝てば良いという考えなら、JFAとしてはそれでいいのかもしれない。W杯や五輪で負けても最低限はやりましたよって言えばいいのかもしれないし。)
 

 ただし、新規ファンの確保というのはこれだけでは解決できないかもしれません。
 こちらに関しては、もう既に深刻な問題として考えていかなければいけないのかもしれません。
 ただ、CWCで浦和が出場したことは思いのほか盛り上がったわけだし、Jリーグを盛り上げることで新規ファンを増やしていく可能性だってなくはないんじゃないかと思います。