幻となったコラム『オシム時代への原点回帰』

 10月7日に宇都宮徹壱氏による『悲願のJ1復帰とオシム時代への原点回帰』というコラムが、スポナビにアップされました。
 いきなり話は逸れますが、オシムさんといえば日本時間で昨日の早朝、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表がリトアニア代表に勝利しW杯出場が決まりました。
 長束恭行さんのtwitterでは、スタジアムにてハンカチで目頭を押さえるオシムさんの写真がアップされています。
 あのオシムさんが涙を…とも思ったのですが、FIFAが会長1人制導入でボスニアに資格停止処分を課したのが2011年の初旬。
 それからボスニア正常化委員長に就任して、W杯出場までこぎつけたのですから、ここまで長く大変な戦いだったのかもしれません。
 そういえばオシムさんはジェフのナビスコ優勝の時にも目が潤んでいたようにも見受けられましたから、意外と涙もろいところもあるかもしれませんが(笑)


 さて、コラムの話に戻りますが、このコラムはアップされて数時間で消されてしまったようです。
 一度アップされたコラムが消されるというのも珍しいですし、その後1週間以上たっても再びアップいまされていないことを考えればこのままこのコラムは2度と表には出てこないのかもしれません。
 前篇ということで後篇も楽しみにしていましたし、第3者目線でジェフを分析されるコラムも少ないですから非常に残念です。



 コラムの内容を確認していくと、まず現状のジェフについて書かれています。
 取材された試合が9月中旬に行われた京都戦で、その試合での敗戦と昨年のプレーオフ決勝の試合展開ついて。
 そして、鈴木監督の「メンタル的なところで後れを取った」というコメントを引用していますが、実績ある選手がいるにもかかわらずメンタル面で劣っているというのは納得できないという書き方がされています。
 まぁ、ただ実績があるからといってメンタルが強いかというと、そうとも言いきれないようにも思いますけどね。
 プライドが邪魔をするということは往々にしてありえることだと思いますし、結果的に自らにプレッシャーをかけすぎていることもあるかもしれないし。


 続いて『ジェフをめぐる2つの疑問』ということで、「なぜJ1に復帰できないのか」と「なぜ出戻りが多いのか」を上げています。
 しかし、これはそれぞれがそれぞれの答えになっている気もしなくもありません。
 「J1に復帰」できない1つの理由は、若手から中堅といったチームのベースとなる選手を育成できていない状況で、ベース作りは二の次にして「出戻り」を含んだベテラン選手を補強し続けているから。
 「出戻り」といっても現在噂されているマンUの香川のように若い選手が1年そこそこで戻るなんて話ではなく、旬の期間は他クラブで過ごした後の「出戻り」となっているわけですから、ジェフからして理想的な形とは言い難い。
 他の補強選手を見てもJ1で活躍しきれなかった後のジェフ加入なんてケースが多いですから、そういったベテラン選手を補強しては失敗して選手に衰えが見えたところでまたそれを繰り返して…とやっているのですから、昇格が難しいのも当然。
 逆に「出戻り」が多い理由は、1年での補強を狙って即戦力を考えてもそういったコネなどしかないし中途半端な補強しかできないので、そこに頼らざるを得ないとも言えるのかもしれません。
 「J1に復帰」出来ないから予算も限られてくるし、J1でプレーしたい選手の補強も出来ないというところですね。



 そして、次がこのコラムのテーマにもなっている、『クラブが密かに目指す「オシム時代への回帰」』について。
 島田社長と斉藤TDへのインタビューもされており、島田社長は「技術的なことはわからないが、レアンドロ・ドミンゲスダヴィやポポのような存在はいないのだからみんなで形を作ってみんなで点を取る」「ウチが一番、よりどころにしたいのは、オシムさんの時代から培われてきた運動量」とコメントしていたようです。
 また斉藤TDも「オシムさんが監督をしていた頃のサッカーが理想ですよね。みんなが感じていたワクワク感をもう一度、取り戻すことはできないか。そう、社長とも話をしました」と話していたそうです。


 このコラムにおいて、一番気になるのはここですね。
 『オシム時代への回帰』というタイトルを見て、すぐに思ったのは『オシム時代』とはなんだったのか。
 もちろん、オシム時代を成し遂げたのもそこまでの我慢と努力が合ったこそという話もあります。
 しかし、『オシム時代』といっても見方はいろいろあるでしょうし、そもそもオシム監督のサッカーとはなんだったのか。
 運動量なのか、攻撃サッカーなのか、戦うチームなのか、若手中心のチームか、欧州路線か。
 足元でパスをつなぐサッカーという見方もあるだろうし、ショートカウンターも非常に鋭いものがありました。
 個人的にはあの頃のサッカーから参考になることは今でも山ほどあるとは思っていますけど、どこを主眼に置いて見るによって参考にする部分も大きく異なってくるはずで。


 その中で島田社長が「よりどころにしたいのは、オシムさんの時代から培われてきた運動量」といっているのは、ちょっと驚きでしかないかなと(笑)
 まず培われてきたというけれども、今はもうあの頃の選手がいないことはもちろん、監督もコロコロ変わってきた中で、仮にその方向でやりたいという意欲は残っていたとしても実際に今現在走れる選手なんてほとんどいない。
 加えて島田社長が就任したのが11年11月でしたが、その直後の補強を見ても山口智や兵働などを中心にベテランで技術はあっても運動量は期待しにくい選手を中心に補強しているわけで…。
 斉藤TDはスカウト時代からオシムサッカーへの志向をインタビューなどで話していましたし、実際その流れの中で町田という名前もあがっていたと記憶します。
 オシム監督が好きだった走れてビルドアップも出来てという意味では町田や高橋などは見事に当てはまると思うし、フィジカルが強くて速くて戦えるという意味ではキムやナムなども適しているのかもしれなません。
 まぁ、斉藤さんはTDとしては1年目なので、まだ見えてこない部分もあるのかもしれませんが、そのあたりの選手はオシムさんも好みそうだなとは思います。


 けれども、島田社長は就任直後の2011シーズン報告会において「オシム監督時代の「人もボールも動くサッカー」を目指す」という話をしていたにも関わらず、翌月のサポコミでは一切そういった話がなくなりトーンダウンしたようにも見えました。
 ポイントなのは、このコラムにもある『"密かに"目指す』という部分なのか。
 もちろん"オシム"という言葉に対する影響力の大きさというのは言うまでもなく、逆に反発の声も内外から出るかもしれない。
 あるいは、オシム監督の運動量豊富なサッカーをするためには若手を育てるのがポイントとなるはずで、それが現状だと待てない・我慢できないというところが、フロントやスポンサー、サポーターにもあるのかもしれない。
 だから、やりたい気持ちは2人の中であるけれども、実際にはやれないという部分もあるのでしょうか。
 また、そのあたりが今回の件での大きな疑問でもある「このコラムがなぜ削除されてしまったのか」というところにも、もしかしたら関わってくるのかもしれません。



 残念ながら後篇のアップは期待薄ですから、ここから先に話が膨らんでいったのかもしれませんけれども、これ以上は何とも言えないところがあります。
 しかし、何らかの理由で『"密かに"目指す』理由があるはずで、そこも非常に気になる部分ということになります。
 まぁ、単純に今はまだ『オシム時代』と明言するほどの大口は叩けないクラブ状況にあるからなのかもしれませんし、"オシム"という言葉を使って誤解を生みたくないというつもりなのかもしれませんが。


 個人的はあの頃のサッカーのそのままのコピーは無理にせよ近いもの目指すというのであれば個人的には歓迎したい一方で、それならばこれまでのやり方や現状には疑問を感じる部分も多いような気がします。
 昨年までの神戸TDは方向性が違ったのかもしれないですし、今期は契約や予算の問題で動きにくかったのだろうなと思う部分はあります。
 しかし、それにしても実際にチームは走れていないですし、現在やっているサッカー自体は代表の頃も思い返せばそこまで外れてはいないのかもしれませんけど、ベテラン選手の多い現状を見ると今はまだ正直ピンとこないですね。
 若手を大量に入団させてベテランは少なくピラミッド構成にして育成のジェフを築き上げ、走れる若い選手を積極的に起用するという考えは、当時の強化部だけでなくオシム監督も支持していた部分があったのではないかと思いますし…。



 まぁ、やるのなら中途半端なことをせず妥協せずにやってほしいなと思いますし、全力でやるというのならそ少しくらいは我慢したいと思う部分もあります。
 島田社長はまだ2年目で斉藤TDも1年目ですから、今後より具体的なプランが見えてくるかのかもしれませんが。
 もちろん当時と現在では状況が違いますから、やれることとやれないことがあると思いますし、そこははっきりすべきなのでしょう。
 だからこそ、オシム監督のサッカーとはなんなのか?というのが重要になってくるわけですが。


 「ジェフのサッカーとはなんなのか?」「目指すべきチームとはどんなチームなのか?」といった方針の部分が、ここ数年曖昧だった印象があります。
 だから、悪くはないけれど明確な強みも作れず中途半端なチームのまま終わってしまう部分もありましたし、具体的な方向性は監督が決めるものだとしても、クラブのカラーだとか文化というかそれこそ社長のいう「よりどころ」のような部分は、クラブ全体で決めていく必要があるのではないかと思います。
 そういった意味では、あくまでも1つの指標としてですが、『オシム時代のサッカー』を参考として捉えるというのであれば、今次個人的には賛成したいところでもあります。
 実際その頃のジェフが、一番成功していたという意味でも理にかなっていますしね。
 しかし、それが「走るサッカー」だというのであれば、目標はかなり遠いものだと思いますし、"オシム"の名を使うのであればそれなりの覚悟も必要だと思いますが…(笑)
 ハードルは非常に高いし、成功例があるからこそ評価が厳しくなるという可能性もあるかもしれませんからね。