ジェフ経営情報'10その3 「増資」と「債務超過」の可能性
その1、その2に続いて。
今回がラストということになります。
前回お話した設備投資の「減価償却」はあくまでも決算上の計算方法であり、実際のキャッシュフローは別で初期コストは支払われていることになります。
ということは、その初期コストを支払うだけの大きな元手が必要となる。
そこで、その初期コストを今回の「増資」で対応したということのようです。
09年のサポコミで三木社長が説明していた、「建設費」は「増資」で賄うという説明はそういった意味の内容ではないかと思われます。
こちらの表を見ると08年度の『資本金』と09年度の『資本金』を比べると、3億9000万円を「増資」し『資本金』が4億9000万円に増えていることがわかります。
当然JR東日本と古河が出資してくれたということなのでしょうから、改めて感謝しなければなりませんね。
そして、ここからは細かなバランスシートが開示されていないので、詳しくはわかりませんが。
『純資産』には『資本金』、『利益余剰金』など様々な会社の「資産」が反映されます。
上の表を見ても08年度までの内訳は、単純に『資本金』と『利益余剰金』を合計したものであったことがわかります。
しかし、09年度は『資本金』4億9000万円から『繰越利益余剰金』であるマイナス3億800万円を計算すると、『純資産』は1億8200万円にしかなりません。
実際の『純資産』は5億7200万円ですから、3億9000万円分の何らかの「資産」があるということになります。
その3億9000万円の「資産」は何か?ということになるのですが、ちょうど先ほど説明した「増資」分が3億9000万円。
これは建設費にかかった額ということになるはずですから、もしかしたらユナイテッドパークの価値分の「固定資産」が増えているのではないかと私は推測します。
「減価償却」となる場合、「固定資産」として一度その企業が価値を取得しておいて、そこから「減価償却費」として徐々に“償却”していくことになるのが通常だと思いますし。
(「資本準備金」ではないかというご指摘もいただきました。ありがとうございました。)
もう1つのポイントは、単純に『純資産』が増えたということではないでしょうか。
先ほど紹介した社長の発言などからしても、今回「増資」した主な理由はユナイテッドパークであることは確かなはずです。
しかし、09年度のジェフは通常の経営状況が悪化。
J2に降格してしまった10年度も厳しい経営が予想されますから、結果的に将来的な「債務超過」へのフォローにつながったとも言えるのかもしれません。
「債務超過」とは、一般的に『純資産』がマイナス状況にあることを意味します。
先ほども説明したように、『純資産』には『資本金』などが含まれるわけですが、そこに『繰越利益余剰金』も反映されます。
09年度の『繰越利益余剰金』は08年度までの『繰越利益余剰金』3億3000万円が残されていたため3億800万円のマイナスで済みましたが、『当期純利益』の段階では6億3800万円の赤字となっています。
あまり考えたくありませんが、万が一にも10年度も前年同様に6億円もの赤字を作ってしまった場合、現在の『純資産』は5憶7200万円しかありませんので、10年度の決算の段階で「債務超過」に陥るということになってしまいます。
今回の「増資」等々は結果的に『純資産』を増やし、その「債務超過」の最低ラインを引き上げてくれたことになります。
「債務超過」=「倒産」ではないにしても、ジェフとしてはなんとしても「債務超過」に陥らないようにしなければなりません。
さて、09年度決算の内容をまとめ。
・「移籍金収入」がなくなり『営業収入』が大幅に減少
・その結果『営業利益』、『経常利益』で約3億5000万円の赤字
・『当期純利益』で約6億4000万円の赤字
・しかし「特別損失」は選手や監督に対する違約金であり、監督交代などをしなければ大きな額は発生しない可能性も
(ただ、それにしても「特損」の金額が大きすぎるのではないかという見方も)
・J2降格の影響、ユナイテッドパークの「減価償却費」、「管理運営費」などで10年度はより厳しい経営状況になる可能性も
・「増資」分の余裕は出来たものの、09年度ペースで行くと10年度は「債務超過」に陥る可能性も
そんな厳しい状況で、今年のジェフの運営を見ていくと大丈夫なのかなぁ…と少し不安に思ってしまいます。
確かにJ2では収入の減少も考えられるし、1年でJ1に復帰したい。
そのために出来る限りの補強をする…。
その気持ちもわかりますが、そもそもJ1にいた09年度も「移籍金収入」なしでは大赤字という状況でした。
もちろん1年だけではすべてを読み解けない部分もあるわけですが、これだけ「移籍金収入」以外での数字が安定している状況ですし。
現状を考えるとコスト削減、規模の縮小など根本的な経営の見直しも考えなければいけないのではないかと思うのですが、今期のチームの補強状況を見ていると年俸は高めになるだろうベテラン選手を多数補強し、昨年末のサポカンでも予算は維持に向けて努力したいといった内容の話がされています。
『営業収入』全体を考えると、J2に降格し『分配金』はもちろん『広告料収入』、『入場料収入』も厳しい状況であると島田取締役も認めていましたし、『その他』の「移籍金収入」も期待しづらいでしょう(そもそも「移籍金収入」に頼りたくはないですし)。
そうなるとコスト削減を目指すしかないと思うのですが、『一般管理費』はユナイテッドパークもあってむしろ増える状況にあると思います。
残されるのは『人件費』か『事業費』かのコストカット…ということになるわけですが、現実問題として『事業費』は削れる部分も限られているのではないかと思いますし(無論企業努力は重要ですが)、やはり毎年『営業支出』全体の半数以上を占める『人件費』の削減が一番現実的ではないかと思うのです。
あるいは、また親会社に頼るのかですが、今回の「増資」などでもかなりお世話になったはずですし、自主自立の経営を掲げているわけで、出来る限りそれは避けたいはずです。
コスト削減というと後ろ向きに捉えられがちかもしれませんが、私はむしろ「予算が少なくとも賢いチームを作る」というのは、サッカーを追っていく上で醍醐味の1つではないかと思います。
オシム監督も少ない予算でも工夫次第で結果を出せるのがサッカーの良さの1つである…というような話をしていたと思いますし。
それに赤字体質で運営を続ければ、短期的に結果を出せたとしても将来的に苦しむことになるかもしれません。
例えばJ1に昇格しても選手が維持できないとか、補強をしたくてもその予算を組めないだとか。
今期に関しても、もし大きな「累積赤字」を抱えて「債務超過」ともなれば、J1昇格圏内でゴールしても「待った」がかかる可能性もあるかもしれません。
現実問題として今季に限ってはすでに予算も決まっているはずですし、今さらどうしようもないところもあると思いますからともかく前に進むしかないわけですが、その後に関しては経営方針も含めていろいろと考えていかないといけないのかもしれません。
「チームの結果が出れば自ずとお金も集まるだろう(だから積極的に補強をしよう)」という考えは、極めて危険だと思います。
近年それで派手に失敗したクラブもあるわけですし。
J2に昇格してしまったチーム状況も厳しい状況ですが、経営面に関してもかなり苦しい。
それを理解した上で、戦っていかなければいけないのではないかと思います。
順風満帆とは言えないでしょうけど、そんな中でいかに「賢いクラブ作りが出来るのか」を見つめていきたいですね。