いろんなものを“繋ぎとめた”試合

 千葉ダービーらしい荒れた展開になってしまったかなと思います。
 柏は早い段階で1人が退場。
 ジェフとしては幸運とも言えるのでしょうが、個人的には11人の柏相手に今のジェフがどこまでやれるのか試す機会になれば…と思っていたんですけどね。
 それと単純にスポーツとしても11人対11人の試合が見たかったと思うのですが、「これもサッカー」ということでしょうか…。
■柏の迷いのないパスワーク
 キックオフから試合が落ち着く前に、ゲームは動きます。
 後方からのボールをネットが触り前方に送った後、ネットと相手GK菅野が接触。
 これが得点機会阻止と判定され、イングランドのアントニー・テイラーは一発レッドとPKの判定。
 微妙な判定にも見えたけど、このPKを倉田が決めてジェフが先制します。
 公式記録によると菅野の退場は前半2分。
 得点は前半6分のことでした。


 しかし、その直後の8分。
 相手のFKから茶野のオウンゴールで同点に。
 このタイミングでの失点は頂けなかったですね。
 しかも、茶野はフリーで触らなければ櫛野がパンチングできていたでしょうから、本当に勿体のないシーンだったと思います。



 その後、1人少ない柏がペースをつかみます。
 柏はDFラインから1人1人がしっかりとつなぐ意識を持っている上、次のプレーへの選択もパススピードも非常に速い。
 それが出来るのもどうやってパスを回していって攻撃を作るのか、チームとして明確に作れているからでしょうね。


 例えばトップ下のレアンドロを中心に左サイドでボールをつないで、一度CBやボランチに戻し、タッチライン際の右SBに展開するとか。
 本来ならここに右SHの澤も絡んでくるんでしょうけど(澤は退場となった菅野の代わりにGKと交代)、このあたりのボールの展開が非常にスムーズで早い。
 やっているサッカーはシンプルだけれど、パスワークの精度を見てもその質は非常に高い印象でした。


 また、1トップ工藤壮人の引き出しも凄くいいですね。
 ただ裏に抜けるだけでなく、パスを受ける直前に動き出し、走りだすコースもCBとSB間を狙うなど、高いセンスを感じます。
 工藤が走りだすことで、スペースもできるし、パスコースも増える。
 相手選手ではありますが、今後が楽しみな選手の1人ですね。 
■ジェフのポゼッション
 序盤は柏の攻める時間帯が続きましたが、前半20分あたりからはジェフのポゼッション率が上がっていきます。
 柏は退場者も出たために、途中からレアンドロを右に、守備時は1トップの工藤がトップ下の位置が下がる布陣にしてきました。
 しかし、攻撃では良さの感じた工藤ですけど、守備では淡白な箇所も見受けられました。


 そのため対面の中後、ミリガンあたりが比較的楽にボールを持てるようになっていきます。
 けれども、ジェフはそこからのパスワークがスムーズにいかない。
 それまでの時間帯に柏が迷いなく素早いパスを繋いでいただけに、差がはっきりと表れてしまったように思います。


 前半終盤から中後、ミリガンから精度の高いロングボールで深井につなぐシーンはあったけれど、それもどこかでタメを作ってから広く展開するというわけではなく、悩んだ末に出すロングボールで相手の守備陣形も整っており、相手を揺さぶるとまではいきませんでした。
 それでも初めは良かったのですが、時間が進むにつれ徐々に深井へのロングパスも警戒され機能しなくなっていきます。



 ジェフは工藤、勇人が動きまわりパスをつないで相手の中盤を押し込むことはできていたのですが、そこから先がやはり課題ですね。
 工藤、勇人の動きに対しても、そこに連動して周りが動いていく回数は少なく、組織的に崩すという形がなかなか作れなかった印象でした。
(工藤はやはりロングボールの質が課題ですね…。) 
■孝太投入で流れが改善されるも…
 後半もジェフがボールを支配する時間が長く、柏はカウンターを狙う展開。
 なかなか打開策が見いだせなかったジェフですが、後半13分いつもより少し早めにネットに代わって青木孝太を投入。
 孝太が前線で動き回ることによって、リズムが良くなって行きました。
 相手守備陣にスペースができ、そこに深井や勇人あたりが入ってくる形がうまく作れるようになっていきます。


 しかし、後半22分に深井に変えて坂本を投入。
 坂本が左SBに入り、アレックスが左ウイング、倉田が右ウイングに入るとまたバランスが変わってしまい、良くなっていた流れ一度落ち着いてしまったように見えました。
 するとその4分後、柏の前方へのロングフィードに対して田中順也青木良太が競って、田中が競り勝ちシュート。
 これが決まって2-1とします。


 良太の体の当て方が若干緩かったかなぁとも思うのですが、柏はカウンター時に田中のフィジカルを狙っていたように思います。
 工藤のスピードだけでなく、田中のフィジカルもある
 パスをつなぐ攻撃もありながら、カウンターのパターンも持っている。
 この試合では早い段階で退場者が出てしまったので繋ぐ方は難しかったかもしれませんけど、やはり攻撃の形がチームとしてしっかりと作れている印象でした。



 柏2得点目の直後、柏から見て右サイドの深い位置からFKのシーン。
 直接入ったかのように見えたのですが、副審がオフサイド判定。
 ジェフからすれば助かったシーンだったように見えました。


 試合終盤、後半44分。
 「もう厳しいのか」とも思われた時間帯でしたが、ジェフFKからの展開でファーの茶野が完全にフリーになって2-2の同点。
 あそこがフリーになったのも、ジェフにとっては幸運ではないでしょうか。
 そのまま試合は2-2で終了となりました。
■いろんなものを“つなぎとめた”試合
 柏は大人なサッカーをしていた印象があります。
 1人少なくなって同点になったところで、まずは守備から考えるサッカーになっていったように思います。
 それでもそこから攻撃の形も1人少ないにもかかわらず十分に作れていたし、押し込まれるだけのサッカーではありませんでした。
 ゲームプランも含めて、柏の強さを感じた試合でした。



 一方のジェフは柏のパスワークを比べてしまうと、やはり迷いが多かったように思います。
 それでも札幌戦に比べれば、修正てきたのではないでしょうか。
 まず、アレックスが左サイドに広く張り、深井も右サイドに張って、そこからクロスを狙う形。
 その分倉田は中に絞って、アレックスの前を空ける意識が強かったように思います。
 このあたりの狙いは見えていたのですが、そこへどうやってボールを持って行くかが、大きな課題ですね。
 それとクロスを上げる際の中の動き。
 例えば柏は左SBからの展開でゴール前から田中が引いてきて、裏のスペースを作ってそこに他選手が走り込んでいく…なんて形も有機的に作れていましたが、ジェフのクロスからの展開はどうか…。



 その他にも札幌線からの改善点は見え、例えば守備面でもウイングの2人の守備意識は高まっていたように思います。
 「柏が相手」ということで守備意識が強まっていたのかもしれませんが、それでもこれがキッカケとなり今後の試合に繋がれば、他選手への負担も軽くなっていくのではないでしょうか。


 また、以前からわかっていたことではありますが、孝太の動き回るプレーも重要な武器の1つだと思います。
 ただ、問題なのはスタメンで使うと仕事が増えるせいか、うまくその力を発揮できないことでしょうか…。
 当面はネットがスタメンで孝太でかき回すパターンになっていくのかなと。
(そこで巻だと思っていたのですけどね…。)


 ミリガンからボールを配給する展開が出作れたのも、1つの収穫ではないでしょうか。
 これも相手が1人減って守備時に4-2-3-0のような形になってしまったから…だったのですが、これが11人対11人で出来るようになればチームとしての選択肢も増えていくはずです。
 しかし、この試合ではDFから前線までの距離が長く、ミリガンからの展開も長いパスばかりになっていました。
 前節「ゴール前に人数が足りない」と監督が分析していたせいか、この試合では逆に早い段階で前に人数がかかり過ぎていて、バランスが悪くなってしまったようにも思います。
 このあたりは難しいのですけど、人数をかけるだけでなく前線に出ていくタイミングが重要ですよね。
 そのあたりの問題もあって、ミリガンから工藤への縦パスというパターンは多かったのですが、工藤が下がってきて後ろ向きでうける場面ばかりで、効果的なパス交換とはいかなかったように思います。




 改善点や収穫は、決して少なくない試合だったと思います。
 ただ、問題はそれらをうまく引き延ばせるかどうかということ。
 これに関しては今後の試合を見ていくしかないですね。


 今日良かった部分を引き延ばし、チームとしての積み重ねを作るためにも、やはり重要なのは攻撃の改善でしょう。
 特にシュートまでの持って行き方で、人とボールがどう動いていくのか…。
 そこの詳細部分をチームとして作りあげることが、何よりも肝心なのではないでしょうか。
 柏と比べてジェフは、中盤が動き回りはするけど、パスの受け手と出し手の意思疎通が出来ていないためボールが逆にいってしまう…なんてことが多かったと思います。
 選手同士の距離感の悪さも目立ち、選手達がボールを持ってから迷う時間も長く、パスワークの狙いが明白になっていないんだな…と感じることが多い試合となってしまいました(…というか、このところ毎試合かもしれませんが)。



 ラッキーな部分もあってなんとか引き分けに持ち込んだことで、いろんなものをなんとか“繋ぎとめた”試合だったかなと思います。
 この試合に負けていればJ1昇格争いも後がない状況になっていたはずですし、いろいろなことがあって内外の雰囲気も酷いものになっていたかもしれません。
 ジェフにとって大切なのは、この幸運を無駄にしないことではないでしょうか。
 この試合で学んだものをぜひとも次へ、その次へと繋いでいってほしいと思います。