鈴木亜久里氏、ばんぜい証券に全面敗訴

 こちらもスポーツとお金の話。
 というか、経営難のチームとスポンサーとの話というこで、いろいろと考えさせられる部分があります。


 鈴木亜久里氏がスーパーアグリ時代にばんせい山丸証券から(ばんせい証券でググってみるといろいろと出てくるところです)借り入れていた借金の返済を求められた裁判で、東京地裁は16億2000万円の全額返済を命じたとのことです。
 ニュースはこちらなどで。



 これだけならば仕方がないとも思うのですが、以前東京Vのエントリーでも書きましたが、スーパーアグリはSSユナイテッドという架空の会社からのスポンサー料が振り込まれず、チームの経営難に止めを刺された経緯があります。
 そのSSユナイテッドを紹介したのがばんせい証券の元幹部だったということで、ファンからするとどうしても腑に落ちない部分が残ってしまいます。


 スーパーアグリのマシンにもSSユナイテッドの複数のロゴが大きく描かれていましたし、マシンの広告スペースというのは限りがありますから、1つの契約がまとまれば次のロゴは張ることは難しくなります。
 ロゴの大きさだけなく目立つ個所にはそれに応じた値段が付くことになっているわけですが、SSユナイテッドのマークはエンジンカウル上部、サイドポンツーン脇、リアウイング、フロントウイングと「これ以上はない」と言えるほど良いスペースばかり(当然それなりの大きな額が動いていたはずです)。
 あれが次の交渉に支障がなかったと本当に言えるのかどうか…。
 亜久里氏も当時から「SSユナイテッドとの話がまとまったから次の交渉にはいかなかった」というような話をしていたはずなのですが、そのあたりの事情を今回の裁判長がどれだけ理解しているのでしょう…。
 交渉事と言っても時間もお金も限りのあるものなわけで、1つの交渉に集中してしまえば次は難しくなるわけですから。



 確かに当時から怪しい会社だなとは外から見ても感じていたし、リスクマネジメントが出来ていないと言われれば確かにそうなのかもしれません。
 大分の件で有名になってしまったフォーリーフをスポンサーに付けていたように、危ない橋でも渡るしかない(お金が入ればそれでOK)状況だったのでしょう。
 しかし、あとから「あんなスポンサーとの契約はすべきではなかった」とはいくらでも言えると思いますが、その段階では判断の難しい状況だったはずです。


 問題なのは、ばんぜい証券側に全くの過失がなかったのか。
 記事によると財務アドバイザリー契約を結んでいたようで、チームの財務状況とまったく無関係とは言えないと思うのですが。
(ただ、記事にはその契約料は亜久里氏に返済を命じたと書かれていますので、個人との契約でチームとは関係ないという判断なのでしょうか?)
 もちろんお金の問題に関してスーパーアグリ側にも問題がなかったとは言えないのでしょうし、完全な潔白との評価を受けるのは難しいのかもしれませんが…。




 本当に残念なニュースですね…。
 多くの国内モータースポーツ関係者(お偉いさん方も含む)は亜久里氏のF1参戦に反対の意を表明していましたが、そちらの方が正しかったということなのでしょうか。
 F1は莫大なお金がかかり、今回のように危ない人達もすり寄ってくる…。
 ホンダもある程度はサポートしてくれるだろうけれども、最後まで面倒は見てくれないということを予想した上で反対していたのかもしれません…(笑)
(なお、そもそもの原案はBARホンダ時代、なかなかBARを買収しない中途半端なホンダ本社に対して、亜久里氏がチーム獲得の話を持ち込んだところからだったそうなのですが。)


 亜久里氏の挑戦は、結果的に多大な物を失ってしまったということなのでしょうか。
 しかし、07年前半のスーパーアグリはホンダF1チームを上回るほどの大活躍を見せていたし、その中で佐藤琢磨も素晴らしい走りを見せていた。
 ブラウンGPの1年目の成功もスーパーアグリのデータが多く流用されていたということで、決して全てが無駄だったとも思いません。


 それを周りが活かしきれなかったこと、次に持ち込めなかったことは非常に残念ではありますが、それでも多くのファンに夢を見せてくれたし、純粋なレース屋としての努力に胸を撃たれ、日本だけでなく欧州にも多くのファンを作っていたことも事実。
 どうもモータースポーツ関係者はドライに物事を見るところが多いのですが(1つ間違えば死の危険性もあるスポーツですから、そういった考えを産むのも仕方のないことなのかもしれませんが…)、本来スポーツというのは夢や希望を生むものであって、そういった意味でのスーパーアグリは、大金をかけて大きな結果の出せなかったチームなんかよりもポイント数は少なくとも貴重な成功を遂げたチーム…と言っても過言ではないのかもしれません。



 その後処理として、こういったことが起こってしまうのは、なんともやりきれない思いです。
(しかも、海外の会社にだまされたとかならともかく、国内でやり合っているというのがまた…。)
 もちろんこういったことは賢くやらなければいけないのは言うまでもないけれど、これではF1で日本の夢すらも見られなくなってしまうのではないかと…。
 小林可夢偉が孤軍奮闘してくれているのは本当に嬉しいことだけど、現実問題として次につながるのかどうかはわからない。
 これまでの日本人ドライバーのF1挑戦は、ホンダやトヨタJTなど大企業のバックアップが大きかったけれど、今はそういった存在もいなくなってしまいました。
 その上にスーパーアグリでの亜久里氏の挑戦も失敗だったという結論がなされてしまっては、ますます次に手をあげる人がいなくなってしまうかもしれません。


 もともとお金がかかりすぎる現在のF1に夢や希望を持つのは難しいともいえるのでしょうけど、これまでF1が日本のモータースポーツ界に与えてきた影響も大きかったはずですし、多くのファンも抱えているはずで。
 そんな中で1人のファンとして言えるのは、「スーパーアグリの挑戦は決して無駄ではなかったはずだ」ということ。
 もちろん失う物も多かったとは思うけれども、多くの夢や希望を与えてくれたのもまた事実だと思います。
 そういう意味で、亜久里氏には「ありがとうございました」と改めて言いたいと思うのです。