戦力で相手に競り勝つ

 週末のバイエルン・ミュンヘンシュツットガルト戦は、1-2でバイエルン・ミュンヘンの負け。
 この結果によりバイエルン・ミュンヘンは首位から陥落してしまいました。


 シュツットガルトがボックスをしっかり作って守り、それをバイエルン・ミュンヘンがこじ開けようという展開がこの試合のメインだったと思います。
 結果も表しているように、バイエルン・ミュンヘンはなかなか相手を崩しきれません。
 SHが中に入ってSBを押し上げてみたり、ボランチを使って素早くサイドを変えてみたりと、工夫は見られるものの、シュツットガルトの守備陣はなかなかブレを見せませんでした。
 加えてカウンターの切れ味も鋭く、バイエルン・ミュンヘンは思い切り良く攻撃には移れていない印象を受けました。



 バイエルン・ミュンヘンも悩む、ボックスの堅守に対する崩しの形。
 対戦相手や状況などは大きく異なりますが、ジェフも同じ悩みを抱えています。
 しかし、それにしても開幕から3戦のジェフは、工夫というか崩しの狙いが見られない展開が続いていました。
 そのあたりの改善が見られるかどうか。


 そして、そのあたりを見る前提として、草津がしっかりとした守備を形成できるかどうか。
 シュツットガルトや徳島のように90分間集中して守りきれるかどうかが、大きな分れ目になるだろう…と試合前から考えていました。
 

■攻めきれない前半
 草津の守備は基本的には4-4-2のボックスですが、ピッチを等間隔に守るというよりは、ボールに選手が集まるイメージ。
 選手同士がフォローしあう狙いがあるのでしょうけど、サイドへのケアが少なく、スライドも遅いため、特に逆サイドのSBが空く場面が多くなっていました。


 その中で頑張って中盤でバランスをとり、広い範囲を守っていたのが戸田でした。
 空いた選手をカバーする意識が強く、運動量豊富に走れる戸田のおかげで、なんとか守りきるイメージ。
 やはり戸田はボランチでプレーさせた方が本来の良さが出てきますね。


 しかし、草津は攻撃では非常にミスが目立ち、前線に向けたパスのほとんどがジェフへのプレゼントパスになっていました。
 攻撃にかける枚数も少なく、攻撃に怖さがないため防戦一方に。



 ジェフは低い位置に下がることの多かった工藤を中心に、圧倒的にボールを支配します。
 しかし、逆サイドのスペースなど相手の穴をうまく使えず、ボールはもててもチャンスを作れない展開に。
 倉田をスタメンで起用し、アレックスをSHに上げ、ネットを頭から使うことで、この日は前半から前にテクニカルな選手を並べることになりました。
 そういった選手達がミドルエリアで相手をいなし、前を向く機会はあったのですが、結局は個々の判断だけだからその後が続きません。
 ジェフとしては非常にもどかしい時間帯になりました。
草津の疲れが見えた後半
 後半開始から、草津は気持ち前に出てきてくるようになり、特にSBのプレーエリア位置が上がってました。
 しかし、その攻撃を防ぐと草津の徐々にDFラインは下がり気味になり、ますます中央に固まりがちになっていきました。


 そこで後半11分に太田を投入。
 積極的にサイドをアップダウンし、クロスを上げていきます。
 

 しかし、その直後の後半18分、ジェフが左サイドでファール。
 広山が蹴ったFKを戸田がヘッドで合わせ、先制されてしまいます。
 このシーン、なぜか中央で戸田と合わせて、2人もフリーになっていました。
 攻撃が続いていただけに、気が緩んだんでしょうか。


 この失点でジェフはもう一段、ギアが上がったように感じました。
 そして、後半23分に青木孝太投入、続く後半29分には巻を投入。
 右サイドからクロス、そこにネット、巻、孝太が飛び込むというシンプルな展開になりました。


 そして、後半37分に後方からのボールを巻、ネットと頭でつないで、その裏を飛び出した孝太がGKのニアを突く鋭いシュートで同点弾。
 角度のない中での落ち着いたシュートでした。
 孝太はサイドに開いての鋭いクロスもあり、CK時のシュートもあり、良かった時の思い切りの良さを感じました。
 それと共に、良い意味で実戦向きの選手なのかな…とも。


 孝太はSHの位置からゴール前にも飛びこめるし、クロスも上げられるし、この試合では良い守備も見せてくれました。
 ポストプレーもできサイドでパスワークの起点にもなれる選手だと思いますし、孝太がもう一歩成長すれば理想的なSHになるのかなと思います。
 倉田なども良いですけど、やはり前を向いてなんぼの選手で、まだジェフはSHを前を向かせる術を作れていませんしね。
 


 試合は後半ロスタイム。
 「このまま引き分けか」と思われた時間帯に、ジェフがゴール前でFKを獲得。
 アレックスが蹴ったシュートが、相手選手にあたって軌道がかわり、勝ち越しゴールとなりました。
■パスワークでどう崩すのか
 モヤモヤする時間帯が続き、一度は相手にやられてしまうも、最後はハッピーエンド。
 ドラマチックな試合だったと思います。



 けれど、スッキリとした勝利とは言えませんでしたね。
 文頭に言ったボックスを崩す狙いは、この試合でも見えてきませんでした。
 試合序盤、右サイドでパスをつないでも相手に押し返されて、DFラインに戻した後に再び右サイドにパスを出した時には、「このチームは相手を崩すためにパスをつないでいるんだろうか。それともパスをつなぐことを目標にしているんだろうか…」と頭を抱えてしまいました。
 確かに同サイドにパスを出せば、味方選手も多いからショートパスはつなぎやすい。
 しかし、そこには相手選手も多いからスペースはなく、パスはつなげても相手を崩すのは難しい。
 個人的には、現在のジェフの課題を象徴的なシーンだったように感じました。


 監督は試合前などにシュートへの意識を課題として上げていたそうですが、現在はそれ以前の問題。
 ようするに、シュートに持っていくまでの形が作れていないと思います。
(もちろん相手が疲れてきてからは状況が別ですけど。)



 相手が疲れてきたところで、太田、孝太、巻を投入して勝利。
 戦術というよりは、戦力で相手に勝った試合だったと思います。
 ベンチにこれだけの選手がいるんですから、相手としてはかなりしんどいでしょう。
 もちろんそういった試合があってもいいとは思うのですが、しかし、前節の徳島戦のように相手が90分しっかりと守ってくる相手に対しては、これではなかなか厳しいと思います。
 

 ネットの前進力、巻のヘディング、アレックスの運動量、倉田のドリブル、米倉のフィジカル、孝太の思い切りの良さ…。
 それぞれ皆いい部分があって、それぞれJ2で十分に通用するレベルだと思います。
 けれど、それをチームとしてまとまりきれているのか、活かして切れているのかという部分で、うまくいっていない印象があります。
 そこを整理整頓するのが戦術の部分だと思います。


 例えば前節でもネットと巻の連携は可能性を感じます。
 ともに1トップだとマークが厳しくて機能しないことも多いけど、2人だと注意が分散されてノビノビとプレーできている印象を受けます。
 けれど、その分MFの数は減り、中盤のショートパスという形はどうしても減ってしまい、その結果パワープレーに近い形になる場合も多くなります。
 だから、そこで問題なのは、チームとして何がしたいのか。
 そのためには、誰かが犠牲にならなければいけない場合もあるのかもしれませんが…。




 勝利はもちろんうれしいですけれども、もしこの試合に関して結果を追求するというのであれば、「得失点差+1でいいのか?」という点を気にするべきなのかなと思います。
 それほどまでに残念ながら草津の内容は悪かったですし、正直このレベルに慣れてしまうのが怖いし、当然満足してもいけない。

 
 江尻監督の采配が(初めてでしょうか)ぴたりと成功したこと、工藤が低い位置に下がったことでパスを散らせるようになったこと(ただしその分前方での攻撃力は下がってしまったけれど)、日替りで若い選手達が結果を出していること、巻とネットのパワープレイに迫力を感じること。
 そういった良い部分も出てきているのは確かだと思いますが、このチームの一番肝心なところ。
 相手が守ってきたときにパスワークでどう崩すのかを、しっかりとチームとして作っていってほしいと思います。