北京五輪代表は“オシム流最後のチーム”

 さて、本日6時からいよいよ日本五輪代表の初戦となるアメリカ五輪代表戦が行われます。



 このチームはスタートして以来チーム作りに関して紆余曲折があり、それ故このチームに対して否定的な人もいるようですけど、私は純粋に応援しています。
 確かに五輪最終予選前後は若干チーム作りにブレがあったようにも感じましたし(予選突破のために結果を重視していた?)、私もその頃はこのチームの将来に不安を感じていました。
 しかし、この世代の選手達は成長や調子に波があるのは当然のこと。
 選手達が不安定な状況であれば、チーム作りに支障が出るのもごく普通のことだと思います。


 また、東アジア競技大会での『1クラブ1選手限定選出』(しかしなぜか広島だけは複数招集。このことからも元広島の小野さんが絡んでいたのではないかと)や、昨夏のプレ五輪だった中国遠征での『オールスター優先』、メンバーの集まらなかったアメリカ合宿など、多くの逆風がありました。
 このチームの逆風はそれだけではなく、日程的にも優遇してはもらえず、最近ではフル代表に選手を多数招集され(それ自体は悪いことではないけどこのチームにとっては厳しい状況だった)、マッチメイクにしても中韓とそれぞれ2試合ずつ組まされるなど、厳しい状況に置かされていました。
 しかも挙句の果てに、五輪の行われる今年になってレギュラー選手が大量に移籍を敢行、そしてオーバーエイジでも問題が…。
 このチームを評価するのであれば、そのあたりをしっかりと差し引いてあげなければいけないのではないでしょうか。
 ようやく腰を据えて強化が行えたツーロン国際で、やっとチームがまとまり強豪国相手にも結果が出せたのは偶然ではないと私は思います。



 「それにしたってチームをいじりすぎた」という声もあるかもしれません。
 けれど、アテネ五輪代表と大きく違うところはあのチームはテストをし続けて最後までチームの軸が出来なかった(あるいは出来かけていた軸を崩してしまった)けれど、北京五輪代表は最後にきちんとチームとして仕上げてきたことでしょう。
 アテネ以来「テストをする=ダメ監督」という構図が一般的になってしまったけれど、このチームに関してはしっかりとそのテストを実にすることができました。
 それだけでも、大きな違い、大きな進歩があったと言えるんじゃないでしょうか。






 多少大げさかもしれませんが、私は今のところこの北京五輪代表チームこそが“オシム流最後のチーム”ではないかと思っています。
 フル代表では岡田監督も技術委員会もオシム路線からの脱却を余儀なくされているようですし、ジェフもアマル監督を解任してオシムサッカーからの方向転換を行っている状況ですから、オシム監督が直接気にかけていた“オシム流チーム”というのはもうこのチームしか残っていないのではないかと思います。
(もちろん最後といっても再スタートという可能性だって十分ある。オシム監督の監督復帰も期待したいので、とりあえず現段階での話しですけどね。)


 オシム監督は毎週のように何時間もかけて、コーチングスタッフとミーティングを行っていたと報じられています。
 オシム監督の理想とするチームはファミリー的なチームであると発言しており、そのようなミーティングに反町監督以下五輪チームのスタッフを積極的に参加させたのも、五輪チームも含めてファミリー的な要素の強い『1つの代表チーム』を作り出そうとしていたのではないでしょうか。
 そういう意味で、このチームにも反町監督コーチングスタッフ(しかもジェフでオシム監督と一緒だった江尻コーチもいますし)を通して、オシム流の考え方が残っているのではないかと思います。
 何時間もミーティングをして、あのオシム監督が反町監督に何も言わなかったなんてことは考えられないですからね(笑)
 たぶん日本サッカーの将来のことや五輪代表の強化のことも含め、多くのことを叩き込んだのではないかと想像できます。



 細かい部分で見ていくと、例えばこのチームの選手選考に関しても、オシム流の考え方が継承されているのではないかと思います。
 反町監督はぎりぎりまで選手達を見極め、クラブでの活躍を見て選んでいたと思います。
 外れた選手のほとんどはクラブで試合に出れない選手(水野、伊野波、エスクデロなど)や、クラブ自体があまりうまくいかず本人の調子も落ちている(青山直など)場合でした。
 オシム監督もクラブでの活躍と、そのクラブ自体の調子を反映させた選考を行っていました。


 また、ピッチの上でのプレーを見ても、ポゼッションサッカー、サイドを広く使った攻撃、運動量豊富な選手達…と、やり方は多少違っても方向性は近いものがあり“日本人らしいサッカー”…ようするに「世界で日本人が戦うためのサッカー」を目差しているように感じます。
 はっきり言ってしまえば、今のところこの部分では現フル代表以上にしっかりとした考え方を持っているのではないかと思います。




 もちろんオシム監督の方向性、考え方は直接手がけたチーム以外にも大きく反映され、日本サッカー全体に多大なる影響を与えたわけですが、それでもやはり直接オシム監督と話し合いオシムサッカーを“共有”したのと、傍から見ているのでは大きな差があると思います。
 例えば選手にしても、ジェフの頃からオシム監督に直接育てられた選手達と、他クラブの選手達とではオシム監督の求める動きという点で大きな差が出ていました(代表で直接指導を受けて少しずつその差はなくなっていきましたが)。
 それと同じように、直接指導を受けたコーチとそうでないコーチとでは、いくらオシム監督を評価していようと違いが出てくる思います。
 それだけの指導力がオシム監督にはあるということですね。
 実際にオシム監督の指導を受けた多くの弟子達は、世界中で活躍しているわけですし。




 そして、そのオシム監督の指導を受けた(しかもリアルタイムで)コーチ陣を通じて作られていったこのチーム自体も、やはりオシム流の影響を非常に強く受けたチームだと思います。
 無論、オシム監督の影響を大きく受けつつも反町監督自身のチームであることも間違いありません。
 しかし、それも含めて面白いじゃありませんか。
 どのように反町監督という日本人コーチが、オシム流の考え方をアレンジするのかも含めて…。





 ですから、私はこのチームの成功を強く祈っています。
 では、この『成功』とは何か。
 安易に「グループリーグは相手が強いからダメだ。だから期待できない」と言うのは簡単ですが、オシム監督の考えはそうではなかったはずです。
 ようするに結果だけでなく、内容が重要。
 もちろん結果も伴えば言うことはないですけど、私は素晴らしい内容で世界を驚かせれば例え結果はあまり出なくともそれでいいんじゃないかと思っています。
 


 とはいえ、だからといって結果に関して淡白になるつもりもないですけどね(笑)
 それだけこのチームに期待している思いもありますし。
 強豪国と同グループに入ってしまった日本にとって、グループリーグ突破が最大の目標になるのではないでしょうか。
 そのためには当然この初戦が非常に重要。


 いきなり厳しい状況ですが、それは相手も同じでしょう。
 ぜひとも素晴らしい試合を期待したいと思います。
 




 たぶんオシム監督もどこかで、心配そうに見ているんじゃないかなぁ…。