イビチャ・オシム監督「ベンチの指示を待っていては後手に回る」

 日経によるオシム監督のインタビューが掲載されいます。
 「試合序盤の適応力磨け(上)」では主にスイス戦に関して。


「体調よりも心理的な問題だ。打ち合わせたことが頭に入っていない、入っていても強い相手に敬意を払い過ぎたり恐怖心を持ったりとか、色々な要素が複雑に絡み合ってのことだろう」
 相手を恐れすぎたことが、前半の主な失敗原因だと分析されているようです。



「失点の仕方もいただけない。またもセットプレーからだ。元をたどればインテリジェンスに欠けたファウルが原因。運動能力のある相手に備えができていないとファウルで止めるしかなくなる。序盤は特にそういう状況に追い込まれた。大きくて速い相手を反則抜きでどう止めるかを今後は突き詰めなくては。簡単なことではないが」
 危険なエリアでのファールとセットプレーでの失点…これは、今の日本代表において大きな課題になってしまっていますね。
 アジアレベルだと日本代表DFのフィジカルが強すぎるのと審判との相性にも問題があるのではないかと思っていたのですが、欧州遠征でも同じことが起こってしまいました。


 オシム監督は「守備ではとにかくタイトにつけ」が基本事項であるため、ジェフもファールは結構多かったですよね(というか現在進行形だけど)。
 これはサッカーの方向性を考えると仕方のないことなのですが、「タイトに…だけどクレバーに」がこれからは求められてくるということなんでしょうね。
 簡単ではないですけど。



「アグレッシブなプレーに転じた結果だろう。2点差がついてスイスは緩み、逆に日本は吹っ切れた。相手ゴールに肉薄するために何が必要か、選手が頭を使い始め、具体的な仕事ができるようになった」
 ポイントは最後の「選手が頭を使い始めた」というところじゃないでしょうか。
 選手達が吹っ切れたのも、試合を分析する上では重要ですけど。
 前半は相手を恐れていた上、序盤で2失点もしてしまったため、頭が真っ白になり考えることすらできていなかったと言うことなんでしょうね。







 で、ここから「試合序盤の適応力磨け(中)」に進むのですが、なんだか論調がおかしくなってしまいます。
 筆者が勝手に「欧州組は世界を体感しているから落ち着いてやっていたけど、国内組は“未知との遭遇”にパニックになっていた」ということを前提にしているんですけど、果たしてそうだったでしょうか?
 今回のテーマは「試合序盤の適応力磨け」なんだそうです。
 このテーマは筆者が勝手に付けたものでしょう。


 で、「試合序盤の適応力」を海外組が身に付けていて、国内組が出来ていなかった?
 嘘を言っちゃいけません。


中村俊輔セルティック)の洞察力、高原直泰(フランクフルト)の仕事の速さ、稲本潤一(フランクフルト)の奪取力、松井のドリブル――。彼らが自分の持ち味をうまく表現できるのは、欧州で場数を踏んだ自信が根底にあるからだろう。
 俊輔の洞察力や稲本の奪取力、松井のドリブルなどが、試合序盤のどこで見られたって言うんですか(笑)
 稲本が落ち着いていて啓太が焦っていたようには、まったく見えなかったのですが。


 オシム監督は試合後に、「俊輔は前半悪すぎたから変えようと思った」とも言っています。
 完全に矛盾してるじゃないですか。



 オシム監督は 「試合序盤の適応力磨け(下)」で、このように言っています。


「要はどういうチームをつくるかということ。一つのまとまった、お互いの特徴をよく知り合っているグループをつくること。同じアイデアを共有し、何人か入れ替わっても同じ意図を持ってプレーできるグループをつくること」
 結局、対応能力やゲームメイキングが求められる単位は、選手ではなく主にチームとしてでしょう。
 あるいは、選手として“落ち着き”を評価するのなら、経験がある選手が経験のない選手に声をかけてやるなどしてチームを落ち着かせてこそ初めて評価されるのであって、ピッチ上で1人で落ち着いていたからといって何の意味があるんですか。
 もちろん、1人1人が対応能力を学んでいくことは重要ですが、ゲームメイキングなんて1人や2人じゃ出来ませんし、その点で海外組が優れていたとも全く思えません。


 少なくともこの欧州遠征では、国内組と海外組の経験の差なんてさほど見受けられなかったと私は思います。
 選手としての実力がどうかとかいう話しとは、別にしたってね。  


 また、オシム監督は以下のようにも言っています。
 ここで言うそれとはコンディションのことで、対応能力などは関係ないものです。


「そればかりを恐れてのことではないが、まあ外国でプレーしているからといって単純に国内組より質が高い保証もないからね。旧ユーゴ代表を率いたとき、私はレアルマドリードのレギュラー選手を呼ばなかったことがある。私にとって大事なことは有名かどうかではなく、どんな選手かということだ」





 結局、まとめは(中)に書かれていた、これなんじゃないでしょうか。


「試合の序盤、特に選手に求められるのは相手の出方に対して瞬時に必要なレスポンスをすることだ。情報とのずれをどれだけ短時間で理解し消化し、自分たちで微調整しながら対応策を実行に移せるか。ベンチの指示を待っていては後手に回るからね。その対応力こそが強いチームの指標であり、強いチームと当たったときほど必要になる能力だ。こればかりは選手が自分で獲得していくしかないのだが」
 ようするに、“選手間の情報の微調整”をあの時ピッチにいた選手達は出来ていなかったということでしょう。
 もちろんそれは、海外組も国内組も含めてです。



 スイス戦の後にも言ったと思いますが、私はオシム監督がハーフタイムで一喝して指示を与えれば、後半はよくなると思っていました。
 そして実際にそうなったのですが、けれど私はその前に自分達で立ち直って欲しかった。


 誰がきっかけでも構いません。国内組でも海外組でも構わない。
 あえてきっかけ作りに成功した選手を上げるとすれば、この試合ではトゥーリオだったんじゃないかと思うんですけどね。海外組の選手ではなく。





 けれど、それも後半に入ってから。
 本当に悪い時間帯にそういった対応力が発揮できないのは日本代表の大きな課題だと思うし、下手をすれば最終予選でもその課題が出てしまうのではないかと思います。


 それにしてもマスコミの「海外組万歳運動」はホントに怖いですね。







 明日は更新お休み。