西部謙司氏「山岸が選ばれたのは不思議」

 別に西部さんが嫌いってわけではないんですよ。むしろこの方の洞察力は素晴らしいと思っています(まぁ、冒頭の連携ミスは「俊輔と加地」じゃなく「俊輔と巻」だったわけだけど)。
 だから、正直に言えば戦いたくない相手です。


 ついでに、ジェフの選手やジェフを批判するから駄目と言うつもりもないのです。
 けれども、批判するなら理論に沿って言ってもらわないと…。


 ある意味で尊敬しているからこそ、よくわからないところをはっきりさせたいんですよね。



西部「そこまでチャンスがたくさん来てるとは思わないけど、外してるのは確かだね。僕は山岸に関しては選ばれたのが不思議。キリンカップのときに良くないプレーをしてたんで、もう山岸はないだろうと思ってた。」
 まず、意外なのがここですね。
 モンテネグロ戦もカタール戦も、確かに山岸は効果的なプレーは出来ていなかったと思います。
 けれど、周りの選手と連携が取れていないというのが、効果的なプレーに至っていない大きなポイントでしょう。



 ジェフなら、山岸が飛び出せばそこにパスが来たり、逆にそれが囮になって他の選手がスペースを上手く使ったり出来ているのですが、代表ではまだそれが出来ていません。
 ジェフを見ている方ならわかるように、山岸はコンビネーションで崩す選手。
 だから、山岸のプレーが悪いというより、連携が取れていないからそのプレーが効果的にはなっていないというわけです。



 カタール戦で効果的なプレーにならなかった一番の原因が、駒野の不在でしょう。
 俊輔も「左は駒野と山岸が数的優位を作る」と言ってたのだから、少なくとも練習段階では2人の連携は上手くいっていたはずです。
 今野と駒野を比べるのはかわいそうですけど、今野も攻撃面ではかなりミスが多かったですし、上がるタイミングも一歩遅れていました。
 味方選手と近い距離でプレーしてこそ生きる山岸には、大きな逆風だったわけです。






 あのチャンスを外した場面については何度も言っているとおりです。
 チャンスすら作れなかった選手ばかりなのに、チャンス作ったけれど外した選手だけを批判する考え方が私にはわかりません。






 それに、「なぜキリンカップが駄目だったからアジアカップには呼ばれないだろうと思った」のかもよくわかりません。
 オシム監督は代表だけで選手を判断していないのは、皆が言っているところ。
 Jリーグの残り数戦で山岸はまずまずのプレーをしていたし、ゴールという結果も出しているのです。


 むしろ山岸はアンパイだと思っていたし、逆に驚きだったのはJリーグの最後の数試合で精細を欠いていた水野の選出でした。
 疲れからなのかよくわからないけど、残り2,3試合の水野は本当にひどかったですからね。
 運動量も前に行く力もなく、クロスの精度も…。全体的にキレがありませんでしたし。



西部「もうアジアカップと同じ。ミスばっかり。シュートを打つときに体が伸びきっちゃってる。いっぱいいっぱいの状態でシュートして、外すことが多い。」
 それでもオシム監督が使うのは「つないだり守ったりっていうところも考えて」と西部さんは分析しているようだけど、そうなんですかね。
 この後、テクニック議論に繋がるわけだけど、テクニックと、パスをつなぐことと、守ることだけがサッカーじゃないでしょ。
 オフザボールの動きやフィジカル能力、体力面や判断力の部分だって、重要な要素だと思います。
 特にオシム監督のサッカーではね。



 その中でもフィジカルに関しては、日本ではあまり議題に上がらないところです。
 議題に上がらないというか、正確には選手を評価する上であまり出てこないところですよね。
 あれだけ「日本人はフィジカルが足りない」とか言う話しは出るのですが、実際に選手個々を見て「フィジカルがどうの」とう話しにはあまりなりません。







 もし、カタールがもっと前目に出ていたら、寿人の方がよかったのかもしれません。
 スペースがある分、寿人のスピードが活きますからね。
 けれども、スペースがなければ肉弾戦になります。そうなれば寿人より山岸でしょう。


 もちろん、巻の方が高さでは上ですが、相手は4バック。しかもアジアカップ初戦で、カタールグループリーグで一番強いと思われていたチームです。
 日本の中盤はあれだけテクニカルな選手が並んでいるため、守備に不安があります。
 そこで山岸を選んだんでしょう。
 全然わからない選択ではないと思うんですけどね。実際には連携不足で山岸を活かしきれなかった部分はあると思いますけど。







 それに「ミスが多い」というけれど、カタール戦で他の選手は横パスばかりだったじゃないですか。
 そりゃ、周りの選手は山岸にミスが少ないでしょう。
 山岸は勝負を仕掛けて言った分、ミスが多くなるのも当たり前。
 プレーエリアだって、他選手に比べて高い位置だったわけで。








 それと、なぜ代表を見る上では山岸をここまで批判しておいて、ジェフを分析する際には監督の能力についてばかりで、選手の質についてはあまり触れていないのかにもなんとなく違和感を感じてしまいます。
 もちろん代表とジェフとではレベルが違いますけど、とはいえ山岸もジェフでは確固たる主力選手なわけですし。



清水「まぁだからといって1戦目の山岸智が悪かったかといえば、僕はそうは思いませんけどね。シュートに関しては……反論できないところですが。」
宇都宮「山岸は山岸で、チャンス作ってたしねぇ。そこだけ取り上げられて叩かれるのはかわいそうだよね。これは色んな人が言ってることだけど、巻にしろ山岸にしろ羽生直剛にしろ、すごくスペシャルな選手じゃないわけでしょ。むしろ「なぜこの人が代表?しかもジェフばかり」と言われかねない選手なわけで。」
ストライカーDX UEA戦マッチレポート
 私は宇都宮さんのコメントの方が近い意見だと思うし、何より納得できます。




 極論を言えば、足元が上手くなくてもチャンスは作れるしサッカーも出来る、ということです。
 あるいは、巻を見ていればわかるように、足元がなくても得点も出来るということでしょう。
 カタール戦に限って言えば、チャンスを作っていた回数は山岸の方が足元の上手い選手達より上だったんですから。






 山岸が可哀想なのは、初戦しかチャンスをもらえていないということです。
 スペースがあればもっと山岸も活きるはずなのですが、カタールがベタ引きだった時間しか試合に出ていません。
 しかも、日本が尻上がりに調子を上げて他選手が活躍している分、山岸のプレーは色あせてしまう傾向にあります。
(これは橋本にも言えるかもしれませんね。)







 最終的にはバランスでしょう。
 足元の上手い選手、フィジカルの強い選手、運動量の多く守れる選手…。
 山岸や巻は足元が上手いとはいえません。


 それは確かですが、あえて「だから何?」と言わせてもらいたいと思います(笑)
 足元が上手くなくても、現代サッカーで生き残るだけの能力はある選手なのです。




 逆に言えば、ジェフには足元の上手い選手はいません。
 羽生も西部さんが言うほど足元が上手いとは思えないし、水野にはまだまだ大きな波がある。
 だから、バランスが不足しているんですよ。


 それは監督のせいじゃないでしょう。






 どうも西部さんは、アマル監督のトレーニング方法や山岸のミスの多い部分など、ミクロな一つの部分で全体を語ろうとする傾向にあるようです。
 しかもそのミクロな部分への考察は素晴らしいから、言っていること全ても納得できるように聞こえてしまいます。
 けれど、確かにある物事の全体を分析する上で1つ1つのミクロな部分を見ていくことは重要なことだけど、ミクロな部分のたった一部分だけを見て全体を語るのは非常に危険な分析方法であると言えるでしょう。
 他にもサッカー選手には、数多くの要素があるわけですからね。





 全てが完璧な人間などいないわけで。
 誰でも欠点はつき物です。


 今回、西部さんが褒めている俊輔や憲剛にしたって、守備面やフィジカルの部分では不安があります。
 また、西部さんがお気に入りの水野だって、好不調の波が激しいことやボールを持ちすぎる傾向にあることなど課題は山ほどあるのに、何故か西部さんはその点についてあまり触れられません。
 水野はまだダイヤの原石だけど、これからダイヤに磨かれていくか、途中で割れてしまうのかは解らないわけで。
 日本人選手でもダイヤの原石は数知れずいたけれど、見事にダイヤの原石になった選手はほんの一握りしかいないんですから。





 今回のテーマが「日本人選手のテクニカル・レポート」だというのなら、話しはわかります。
 けれど、それが議題ではないんですからね。