フィジカル勝負の苦戦 収穫は山中

 夏休みに入って集客が期待できる時期とはいえ、この暑い時期に連戦というのは選手にとっては厳しいところがあると思います。
 その一方で秋春制の話が出ているというのは、やはり違和感があるというか。
 JFAの原技術委員長が専務理事に選任して日程問題をどうにかしたいと話していましたが、夏にどんどん試合をさせたいのか、休ませたいのか、チグハグな印象がありますね。


 それでも両チームの選手たち、体力的な面においては頑張っていた方ではないかと思います。
 連戦の中で、どれだけこのコンディションが保てるかが1つのポイントになりそうですね。
■長崎が攻勢も両者無得点で後半へ
 ケンペス、谷澤、キムが3人が出場停止となったジェフは、左SHに山中、トップ下気味に大塚、右SBに竹内をスタメンに。
 連敗中の長崎は3-4-3のフォーメーションは変わらないものの、メンバーを一部変更してきました。


 19時キックオフとはいえまだ気温が高く長崎からすればアウェイゲームなわけで、バランスを考えた戦い方をしてくるかと思ったのですが、前節に続き積極的に前からプレスをかけ、ラインも高く設定してきました。
 そのため、ジェフはその裏をどんどん狙っていく展開に。
 キックオフ直後にはジェフのDFラインから裏へのボールに対して、森本がうまくキープして、兵働に落としてシュートという形を作ります。



 しかし、それ以降は長崎が攻め込む時間帯が続きます。
 長崎の攻撃は、シンプルにイ・ヨンジュを中心としたロングボールを蹴りこんで、こぼれ球を2列目の選手が拾う。
 あるいはサイドで縦にボールを持ち込んで、積極的にセンタリングを上げる。


 これによって、ジェフのボックスが全体的に下がっていき、セカンドボールを拾われてしまう展開に。
 一方の長崎はラインを高く設定している分、一発で裏を取られる危険性はあるものの、ボールの拾い合いで主導権を握ることが出来る。
 長崎も昨年は全体的に引いて守って、そこから前に出てくるイメージだったのですが、今年はかなり積極的にやって行こうということなんでしょうか。
 それを連敗中も変えずにやってきたというのは、チームとしてより上を目指しているということなのか、それだけ手応えがあるということなのか。


 ただ、長崎は、セカンドボールを拾ってからの技術的なミスがあまりにも多い。
 また、ゴール前に関してのプレーも工夫が少なく、チャンスをモノに出来ない。
 このあたりがリーグ戦でのここまでの3試合で、無得点という結果に影響している大きな要因なのでしょう。



 一方のジェフはカウンターを狙いたい展開ではあったと思うのですが、全体が押し込まれている上に長崎の方が切り替えが早いため、カウンター攻撃が作れない。
 後方でボールをつないでも前線へのパスは長いものが多く、前方の選手が単独で仕掛ける淡白なものになりがちでした。


 また長崎がジェフのボランチにしっかりプレスをかけてくることによって、ゲームが作れなかった。
 特に関塚監督になって兵働が攻撃を作る形になっていますから、そこを止められると辛くなってしまうところがあります。
 それでも森本と山中の前へのスピードとパワーを活かすためアバウトに放り込む形で何とか攻撃を作ろうとしますが、チャンスにはいたりませんでした。
■点を取り合って痛み分け
 後半開始から、長崎の動きが失速。
 前半から飛ばしてきたせいか運動量が落ちて、守備ではプレスが効かなくなり、攻撃でもロングボールを蹴っても中盤のサポートが少なくなっていきました。
 それによって、ジェフは前半より前にボールを持ち運べるようになっていきました。



 流れがこのまま変わるかと思われたのですが、後半10分。
 ジェフの右サイドで縦に仕掛けられクロスを上げられると、奥埜がフリーでヘディングを決めて長崎が先制点。


 長崎によるロングボールからの展開で、イ・ヨンジェがジェフの右サイド裏に走りこんだところからの得点でした。
 大岩がイ・ヨンジェに対応し、竹内が中に絞りましたが、ボールを戻されて神崎と井出がマッチアップし、井出がクロスを上げられてしまいました。
 もう少し井出には粘り強く対応してほしかったところで、井出と神崎との距離があったために良いボールを上げられてしまった印象です。
 またゴール前に長崎の選手が3人も飛び込んできたのに対し、ジェフのゴール前は山口智と中村だったということで、ゴール前のポジショニングにも課題が感じられたシーンでした。
 大岩が外に釣り出されたことによって、混乱状態になっていたと言えるのかもしれません。


 先制点を取られたジェフですが、後半14分には同点に。
 距離がある位置からのFKで、兵働が近くにいた山中にパス。
 山中が放ったミドルシュートは、相手GKに触られるものの、そのままネットに吸い込まれます。
 相手が完全に裏を突かれた形で、ノーマークで放てたことも大きかったでしょうが、山中らしい鋭いシュートでした。
 距離のあったシュートだったのですが、やはりミドルシュート上手いですね。



 これで勢いに乗りたかったジェフですが、同点となった直後はまた長崎の方が攻め込む時間が長くなっていった印象で。
 長崎は前半ほどシンプルにロングボールを蹴りこまなくなっていきましたが、休みながらも要所要所で長いボールを蹴ってフィジカルで攻めようといった狙いだったのではないでしょうか。
 逆にジェフの方も長崎の守備が緩くなって、中盤でスペースが出来てきたために、ボールを持てる時間は長くなっていきました。
 しかし、ボールは持ててもサイドに回して大外からのクロスという展開ばかりで、中央が崩せません。


 ジェフは後半20分、大塚に変えて田中を投入。
 井出を左に、右を田中にして、中央に山中を起用していきました。
 田中の運動量や裏へのスピードと、山中を前において山中の得点力をよりシンプルにいかそうという意図ではないかと思います。



 後半35分には中盤で回されたところから、途中交代で出場した深井がジェフの右サイド裏にスルーパス
 神崎が完全に裏を取ってGKと一対一になりますが、岡本がセーブ。
 攻撃面におけるゴール前でミスの多かった長崎ですが、この場面ははさすがにやられたかと思いました。


 この頃から両チームともに足が止まってきて、完全に中盤省略の展開に。
 最後は中村のクロスを森本が低い位置からヘディングで狙いますが、ゴールならず。
 1-1で試合終了となしました。
■フィジカル勝負では長崎に分が
 栃木戦の前半中盤までもそうでしたが、この試合の前半のようにロングボールを相手に蹴られると難しくなるところがありますね。
 シンプルに蹴られてしまうと、前でボールを奪えないからハーフカウンターにならないし、後方からパスをつないで行って崩すという形も少なくなった。
 そうなると、自ずとボールの蹴り合いになってしまう。


 ボールの蹴り合いになると、どうしても選手のフィジカルが要求されることに。
 FWが体を張って戦えるか、DFラインが相手のロングボールを跳ね返せるか、中盤の選手はセカンドボールの競り合いで相手に勝てるか…。
 そして、全体のスタミナ、切り替えのスピードなども含めて、身体的にタフな試合展開となります。



 もちろんジェフにも森本やキムなどフィジカルの強い選手がいるとは思いますが、基本的にやはり主軸にベテラン選手が多く、テクニカルな選手の多いチーム。
 サイズの大きな選手も少なく、どうしても劣勢になってしまうことが多い。
 先日も谷口役が必要になるのではないかと言いましたが、この試合を見てよりそういった印象は強くなりました。


 一方で長崎はライン設定の違いはあったものの、基本的には昨年から同じサッカーをしているだけあって、やりたいサッカーにメンバーはあっている印象です。
 若くて運動量が豊富でアグレッシブな選手が多く継続性の強みを感じましたし、逆にジェフは選手とスタイルに違和感を感じる部分も多い試合だったのではないでしょうか。
 ただ、あまりにも長崎はフィニッシュが雑でしたね…(笑)



 フィジカル勝負になった分、この試合では大塚や井出はあまり目立ちませんでした。
 しかし、一方でフィジカルが強く、単独でゴール前まで持ち込んでいってシュートを狙える山中に可能性が見いだせたのは、今後のチームを考えると明るい材料なのではないでしょうか。
 森本、ケンペスに続く、前線の武器が見つかったと言えるのかもしれません。
 もう少し先のことを考えると、9月のアジア競技大会で引き抜かれるであろうことが、悩ましい問題になってくるかもしれません。
 日本代表はU-21で望むはずですが、本来U-23の大会なのでキムやナムも出場権利はあると思うのですが、そちらはどうなってくるのか…。


 山中と言う収穫はありましたが、全体的に見ると後半相手のプレスが緩くなりラインが下がってから、ミドルサードでボールを回すことが出来たものの、そこからアタッキングサードに関しては形が作れなかった。
 そうなった時に表でボールを持って仕掛けられる選手というのが関塚監督のサッカーにおいては必要なのではないのかと思うのですが、そういった選手が出てくるかどうか。
 また、チームのスタイルを考えると、よりカウンターも鋭くしていかなければいけないでしょう。
 押し込まれた状況でも、そこからボールを奪ってゴール前に持ち込む回数を増やしていく術…要するにロングカウンターの形を見出していかなければいけない必要性があると思います。
 どちらにおいても現状を考えると個人のドリブル突破で打開できる選手が欲しいところで、ジャイールへの期待は大きくなるのではないかと思うのですが、どこまで本人が課題を修正できるかが気になるところです。



 ここ数試合は相手の出来が非常に悪かったこともありますし、課題も収穫も細かな部分が見えてくるのはこれからだろうということはわかっていたこと。
 ここからが本当の勝負ということになってきますね。
 今後もフィジカル勝負となる展開は増える可能性があるでしょうし、選手選考に関しても少しずつ変化が見られてくるのかもしれません。