「脱甘」を遂げることは出来たのか

 雨の国立。
 気温も低く、観戦日和とは言えない状況でしたが、多くの観客が集まりました。
 試合前は足立梨花が新聞社周りをするなどしてプレーオフをPRし、決勝にはJリーグ大東チェアマン、JFA大仁会長、そして、高円宮妃までもがご来場に。
 取材陣も多数訪れており、いつの間にやら試合の規模が一段階どころか二段階も三段階も膨れ上がっていた印象で、ちょっとさすがに違和感というか申し訳なさなんかも感じたりして…。


 やっぱりJリーグが主催となると、いろいろ変わってくるんだろうなぁと。
 初開催ということで、どうしても盛り上げたい気持ちが強かったのかもしれませんね。
 チームにとっては関係ないというか、むしろありがたくこの舞台でプレーさせてもらうべきなのかなとは思いましたが、この経験を本当に良かったものとして受け取れるかどうかは、今後の自分たち次第なのかもしれません。
■攻撃の形を作れないジェフ
 大分はプレーオフ準決勝の京都戦でスタメンだった永芳が、怪我のため出場できず。
 代わりに村井が中盤に入りました。


 運動量豊富な永芳に代わってテクニカルな村井が出場することになったということで、試合前は中盤での変化、戦い方の違いが気になっていました。
 しかし、前半はあまり村井の見せ場はなかったかなと思いいます。
 比較的ジェフがボールを支配する時間が長かった上に、大分の攻撃はサイドか前線に早くボールを供給する形で、中盤を使うことがあまり多くなかった印象です。


 前半の大分で印象的だったのが、京都戦で4ゴール上げている森島は簡単には使わず、スピードのある木島などに裏を走らせる攻撃パターン。
 森島へのマークが厳しくなることは試合前から読めていたでしょうし、ジェフのCB2人には高さがりますから、その分スピードで勝負しようという意図だったのかなと感じました。
 確かにスピードやドリブルには若干の弱さもあると思いますしね。
 セットプレーでも森島はゴール前からあえて離れていることが多く、クロスのシーンでもCB2人を外して大外の選手を狙うことが多かった大分の攻撃。
 大外を狙ってのクロスというのは、10月のジェフ対大分戦でも森島がゴールを決めたパターンでしたから、そこに弱さがあると分析していたのかもしれません。



 一方で守備に関しては、中盤の1ボランチと2シャドーがバランスを取りながらも低くポジショニングをして、ジェフFW藤田へ向けての後方からのパスコースを消してきます。
 FWにボールが入った場合に対しても人数をかけて潰し、落とした先のスペースもケアして、ポストプレーを絡めた展開を自由にさせません。
 DFラインも深く守っていて裏のスペースをけし、3バックでカバーもいることもあって、なかなか藤田が裏を取るシーンも作れなかったですね。


 そして、絶好調の米倉に対しては、しっかりと前を取られないように警戒していました。
 3バックなため、サイドの人数で応対の難しくなる大分。
 試合序盤はサイドのマークのずれが気になりましたが、その後はCB、ウイング、シャドーでうまくマークを受け渡しながら守っていましたね。


 これによって、ジェフはボールを持ってもなかなかチャンスを作れない。
 ボールは持てても相手を崩せず、相手DFラインの前でのミドルシュートや、サイドの大外にボールを回させられてのクロスといった展開が増えてしまいました。
 横浜FC戦でも米倉の縦への仕掛けが攻撃の"弾"となっていて、他はあまりターゲットになりえていませんでしたから、米倉を潰されただけで、かなり苦しくなっていましたね…。
 米倉を強引に仕掛けさせるジェフに対して、一方の大分は好調の森島をデコイにしていた印象もありましたので、対照的な戦い方だったと思います。
 ちょっと、ジェフの戦法は単純すぎたような気がしますね。
■試合終了間際に失点しJ1昇格ならず
 前半に比べて、後半は大分がボールをつなぐ時間帯が長くなっていきました。
 これも前回対戦した時と同様で、そういったゲームプランだったりするんでしょうか。
 3バックがワイドに開いてサイドに広くパスをつなぎながら、ボランチの宮沢や村井が縦パスを狙ったり、サイドでトライアングルを作ったり。
 後半になって徐々に運動量が落ちてきたジェフですが、大分のほうは前半と変わらずしっかりと走れており、最後まで体を張ったプレーができていた印象でした。


 しかし、後半に入って大分が積極的に前に出てきた分、ジェフにとってはスペースができチャンスも生まれてきていて、特にサイドの裏をカウンター気味に攻める攻撃が増えていきます。
 米倉、谷澤の突破力でサイドを突いていきますが、大分の守備陣も最後のところでは粘り強く対応。
 簡単にはラストパス、シュートを打たせない守備を見せていました。


 こういった流れで、もう1つ変化をつけて相手の粘りをいなす動きができれば…とも思ったのですけど、ジェフにはなかなかそういった選手がいませんね。
 谷澤、兵働なども出来なくはないけれども、大きな変化を作るまでにはいたらないというか…。
 谷澤のウリはやっぱりスルスルと抜けるドリブルだし、兵働は一発のスルーパスだと思いますしね。
 前線でタメを作ってリズムを変えるとか、スッと相手の裏を突いたプレーするようなタイプとは違うのかなと。



 しかし、得点が奪えなくても、この試合で引き分けならばジェフはJ1昇格に持ち込める。
 そんなちょっとした気持ちが見え隠れし、動きも積極性がなくなり始めたかな?と感じていた後半40分。
 森島が中盤から裏に飛び出した林に浮き球のスルーパス
 これを林が落ち着いて決めて、ジェフが失点してしまいました。

 
 ちょうど米倉が荒田と交代し、ゆっくりと時間をかけてピッチを去った直後…。
 選手の中にはどこかでこのまま終われば…と思った気持ちがあったでしょうし、それも当然のことだと思います。
 しかし、そういった時にうまく時間を潰せるか。
 チーム全体で意思を統一して戦えるか。
 今期はそういった油断が生まれる場面での失点が、珍しくなかったですね…。
 9月下旬、2試合連続で試合終了間際に失点し同点に追いついたこともありましたけど、そういった脆さを大事な試合でも露呈してしまったことになります。



 最後はパワープレーで挑みますが、今期のジェフはパワープレーでうまくいった試合がほとんどなく。
 対して、大分のマンマークは最後まで集中力を切らせませんでした。
 「戦力は上」とよく言われているジェフですが、ベテランや経験豊富な選手が多いせいか、運動量や体を張って"戦う"という部分では物足りなさがあったと思います。
 昔はそこがウリだったわけですけど、むしろ今はそこが弱点なのかなと。


 湘南も大分も一生懸命走れて、頑張れて、戦える選手を揃えて、J1へ昇格を決めたことになります。
 そして、ジェフは残念ながら今年も、J1昇格というミッションを成し遂げることができませんでした。
■引いた相手を崩せずに
 まだ大分戦から時間も経っていませんから、総括というのは難しいですけれど。
 村井、林、ミリガン(シーズン途中)などを放出し、兵働、田中、山口智などを獲得して始まった今期のチーム。
 しかし、最後は村井がスタメン出場し、林が得点を決めた大分に、敗れてしまったことになります。
 果たしてこの選手の入れ替えに、どれだけの効果があったのか。
 もちろんゼロではないのでしょうけど大きなプラスがあったのかは疑問で、強いて言うのなら木山監督の好みの選手をそろえたということになるのかもしれません。


 やはりジェフは横浜FC戦のようにコンディションが良い試合だと相手を圧倒的に上回れるわけですが、対等な状態だと厳しいですね。
 個人技で勝てるチームだからこそ、個人で突破できる状況だといいのだけれど…といった感じなのかなとも思います。
 それに加えて勝負弱さというか、接戦での試合における詰めの甘さ。
 そういったものを感じてしまいました。



 しかし、それよりも残念だったのは、最後の試合でも引いて守られると得点が奪えなかったこと。
 J1昇格のためにも木山監督のミッションの1つとして、「守られた相手に点が取れるチームが作れること」というのがあったと自分は思っているのですが、遅攻状態ではやはり苦しかった。
 監督自身は「ボールを持ちたい」という話をしていたのですから、なおさら遅攻状態で攻撃の形が作れないのはつらい。
 木山監督としては良くおっしゃっているように「ボールを持っていれば点は取られない」という考えの下でボールを持っていた部分もあったのかもしれませんけど、それだけでは点は取れないし試合にも勝てないわけで。


 そのあたりを強く感じてしまったのが、この試合でもポストプレーからの展開を狙って、FWに楔のパスを入れることは多かったのですが、そこに反応する3人目4人目がいないシーンが多かったこと。
 「楔を入れたところで終了」という流れが多かったですね。
 サイドでの攻撃も同様でしたけど、ボールの出し手と受け手だけのアクションだけになることが多いため、最終的に個人技での強引なドリブル突破に頼ることが多くなってしまう印象でした。
 これはこの試合に限らずの問題ですけど。


 また、ポストプレーで藤田に限らず前方の選手がゴールを背に向けて下がって受ける動きをしていましたけど、そこへの意識ばかりが強いため後ろを向く選手は多いけれど、前を向いて仕掛ける選手が少なくなってしまい、逆に後ろ向きに受ける選手の動きによって前のスペースがなくなってしまう印象で。
 以前、木山監督は「ボックスの中に入って…」という話をしていたと思うのですが、シーズン前半の後ろから前に入って行く形がうまくいかなかったこともあってか、前から後ろに入ってくるようになってきた。
 確かにその方が中で受けることは容易いのでしょうけど、問題はそこからどう前を向いた選手を作り、スペースを作って、相手を付いていくかですから…。


 来期のことまで考えるとすると、今のように個人技で打開するサッカーというのも決して完全に否定できるものではないと思うのですが、それならば外国人選手も組み込める形にしなければいけないんじゃないかなと思います。
 甲府ダヴィで得点を量産していることを皮肉るような意見も聞きますけど、ダヴィを活かす形というのもサッカーにおいては1つの答えであって。
 特に組織的に崩す形を作りきれないというチームなのであれば、より個人の能力も重要になってくると思います。
 その個人の部分をある種割り切って使えるかどうか、使うつもりがあるのかどうか。
 少なくとも今期はレジナルドやロボなどを補強しても使わなかったように、そういった選手たちはいかせなかったわけですが…。


 もっと言ってしまえば、勝負にこだわるチームを作れるかどうかということになるのかもしれません。
 そこが木山監督にはまだ足りない部分なのかなとも思います。


 シーズン終盤の巻き返しで木山監督続投を望む声も増えていますが、続投にしろ交代にしろ「このままでいい」ということは絶対ないわけで。
 いい状態までは来ていたとしても、負けで終わったことに間違いはないわけですから、それは真摯に受け止めなければいけません。
 この試合もなかなか選手を交代できなかったのは、現状が今期チームの完成形で、動きにくかったというのもあると思います。
 それはようするに、現状のままではこれ以上の伸び代は難しいかもしれないということ。
 これ以上のチームを作るためには補強が必要なのか、あるいはもっと大きな変化が求められるのか…。


 今期のチームに関しては、一番のテーマとして考えていた「引いた相手にどう点を取るのか」の部分に対しては合格点は出せないと思っています。
 ただし、パスを絡めたカウンターの形は作れたし、守備もゴール前で跳ね返すところまでは作れた。
 ですから、できることなら「引いた相手に対しての対策」と「外国人選手の起用」に関してを改めて監督に聞いてみたいと思うのですが、それは望みにくいところで…。
 まぁ、ともかく少なくとも今年はそこが見えてこなかった。
 加えてこの試合の最後でも出てしまいましたが、勝負に徹せられない弱さというか、勝者のメンタリティを植えつけることができなかったというのも大きな部分だと思います。


 けれども、大枠は出来てはいましたし木山監督は若い指導者でもあり、監督交代によるチーム・選手構想の再構築や予算の問題などを総合的に考えれば、もう1年我慢してみるべきなのかなと私は思います。
 なかなか「他に良い監督がいない」という問題も正直ありますし、ジェフでは受け手がいないのではないかという不安もあります。
 ついすぐれた指導者を求めてしまいますが、そう簡単に招聘できるものでもないのでしょうしね。
 そして、何よりも昨日の試合終了のホイッスルを聞いた瞬間に映された木山監督の悔しそうな表情は、まだ指導者としての伸び代があるのではないかと感じさせるものだったように思いました。
 現状では満足できるものではないですし、決して手放しで続投を希望するわけではないですけども、今後に期待したい監督でもあると思います。




 この試合に関しては自分も試合終了直後にうなだれてしまうほど、本当に悔しいものでした。
 しかし、この悔しさを胸に秘めて、来期に向けて力強く再スタートができるのであれば、この悔しさも無駄ではなかったと言えるのかもしれません。
 逆に言えば、しっかりと反省して更なる一歩を踏もうと思えなければ、このプレーオフ進出も意味のないものになってしまうかもしれません。


 大分戦に関しても、「いい試合だった」と言うだけではだめなはずで。
 むしろ「勝たなければいけない試合に負けた」のだから、「いい試合」でも「いいチーム」なはずもなく。
 最後まで解決しなかった「ボールを持てても相手が引いたら点が取れない」という状況が来年も続いてはならないでしょうし、シーズン終盤だけが良かったからといって、それで全てが良しとはならないでしょう。
 プレーオフがあったおかげで盛り上がりましたけれども、本来ならばシーズン5位は決して誇れる順位ではありません。
 プレーオフ準決勝も含めた最後の4連勝も、例年であれば『時すでに遅し』で終わっていただけのものですから…。


 果たしてジェフは"脱甘"できたのかどうか。
 トカゲのしっぽを切っただけでは、何も変わらないと思います。
 プレーオフを戦って最後にいい試合ができたから良かったと思うのか、それとも一発勝負になったことで、最後に本当に悔しいが思いができたからこそ次につながると思うのか。
 そこで将来に向けて、大きな違いが出るように思います。