勝ちに行った試合の中で…
古河電工時代のOBであり、ジェフにも貢献していただいたという八重樫茂生氏が5月2日に亡くなられたそうです。
ご冥福をお祈りいたします。
個人的には八重樫氏の名前はもちろん存じ上げていますが、さすがにプレーなどは詳しく知りません。
しかし、そういった「プレーも知らない名選手がOBにいる」というだけでも、ジェフと古河電工の歴史の長さを感じます。
クラブの将来を考えるために前を向いて戦っていくことも重要ですが、その将来のためにも過去の伝統、歴史も大切にしながら現状とビジョンを考えることも必要なはずで。
せっかくの伝統あるクラブなわけですから、その強みを活かすためにも、過去か未来かではなく、両方を大事にしていきたいですね。
■久保と池田のマッチアップ
ジェフは前節スタメンだった青木孝太を右ウイングで起用し、久保を1トップに抜擢してきました。
その久保とマッチアップする形となったのは、元ジェフの池田。
試合序盤からこの2人の対決が、大きなポイントとなっていました。
試合序盤、ジェフはオーロイ起用時と同様に、久保にロングボールを蹴るサッカーをしていきます。
しかし、池田の久保への対応は高さや強さ以上に、”うまさ”を感じました。
基本、池田の方が競り勝つことが多かったわけですが、久保が先にボールを触る場面でもしっかりと体を当てて自由にさせないことで、近くにボールを落させない、良い形でジェフ中盤の選手にボールを渡らせない状況を作っていました。
ここ数年、怪我が多く万全なプレーが出来なかった池田ですけど、良い状態でプレーできているようですね。
結果的にロングボールに関しては、久保はターゲットになりきれていなかったと思います。
けれども、試合の流れ自体は、ジェフが中盤の運動量と技術で相手を上回り、ジェフペースになっていきます。
特に勇人の展開力は目立っていましたね。
昨年の勇人はサッカーの違いもあって、ショートパスと前線への飛び出しやプレスがメインのタスクでしたが、今年は縦へのショートパス(ただ、これへ江尻監督の狙いでもあったはずなのだけど…)もサイドへの大きな展開のパスも目立っています。
もちろん中盤のバランス調整への貢献も相変わらず高いですけど、この試合では右サイド少し手前に出て、米倉、孝太、山口などと数的優位を作りパスワークを形成することで、試合のリズムを作っていた印象でした。
そして、前半27分、伊藤がゴール前からのFKを直接右サイドにねじ込み先制します。
相手GKも触っていたのですが、勢いもあって、良くコントロールされたシュートでした。
オーロイが絡む展開以外での得点パターンに悩んでいたジェフですから、ここで1つ武器が披露できたのは非常に大きいですね。
なお、このFKも勇人がボールを中盤で拾い、ファールを受けた展開から。
20分あたりから相手のファールが増えていましたが、これもジェフの中盤を相手が捕まえきれていなかったところが大きかったと思います。
また、この試合ではオーロイではなく久保が1トップから走り回り、右サイドにも孝太が入ったことで、前線の運動量とスピードが増し、前方の守備も以前より向上していたと思います。
深井もオーロイが空けた守備を深追いして、左サイドを空けてしまうようなことはなかったですし、守備はこのメンバーでのプラス材料となりますね。
■オーロイを起用して、局面を打開
しかし、後半2分、相手右SBの関根が同点ゴール。
ミリガンがボールを奪われ、相手のハーフカウンターになりかけたところで、左SBの坂本が絞ります。
その分、空いてしまった右サイドの斜め45度付近、ペナルティエリアに入るか入らないかというところから、豪快にシュートを打たれてしまいました。
これが今期のジェフにとって流れから受けた初の失点ということになりますが、やはり大外からの失点でしたね。
SBが絞るのはいいのですが、その分サイドのケアには気をつけたいところ。
このシーンは相手のシュートを褒めるべきなのかもしれませんが、もう一歩坂本に出てほしかった気もします。
たぶんあの位置からシュートを打つとは、考えていなかったのかな?
なかなかロングボールの起点になりきれない久保でしたが、前半途中から足元へのパスが増えて行くことで、持ち味を見せられるようになっていきました。
相手のプレッシャーが来ていてもぴたりと足元でくさびのパスを止められるのは、久保の大きな武器ではないでしょうか。
ただ、その久保の足元のポストから中盤の選手が受け、久保を追い越してゴール前に侵入する…という展開はほとんど作れず。
久保の足元へのパスや久保のスピードを活かす裏へのパスが増えていって、それは試合の流れの中でチームが成長していった部分だと思うのですが、久保の落としを受ける部分の連携に関してはまだもう少しだったのかなぁと思います。
後半13分、相手MF越智が負傷し1人少ない状況になったころから(その後越智は交代)、それまでしっかりとラインを上げていた愛媛がラインを下げてカウンターを狙う展開となっていきます。
すると、ジェフはなかなか後方からのビルドアップがうまくできず、久保への足元のボールも裏を狙う形も作れなくなり、不正確なロングボールが増えてしまいます。
悪い流れを変えるきざしが作れない状況で、後半24分、久保と負傷した孝太に変えてオーロイと太田を投入。
(孝太の怪我は心配ですね。後半失点後に右サイドを突破し、米倉に見事なお膳立ての形を作ったものの米倉のシュートは相手DFにはじかれるなど、素晴らしいプレーもあったのですが。)
これでジェフのやることは、よりはっきりとしましたね。
オーロイに放り込んで、周りが拾う…と。
オーロイも万全のコンディションではなかったと思うのですが、それでも高さで絶対に勝てるのですから、戦術として非常に大きいですね。
しかし、なかなかそれでも点が取れない…。
ミリガンのロングスローもFC東京戦ほどのキレがなかった気がします(笑)
あの試合で見た時は昨年より上手くなったのかな?なんて思ったのですが、やっぱり基本はあれくらいなのかなぁと。
もちろんそれでも十分武器の1つではあると思うのですけど。
後半33分、相手選手が2枚目の警告で退場。
それでも点が取れず焦りも感じる展開でしたが、後半ロスタイムに入る直前、後方からのロングボールをオーロイが深井の前に落して、深井がそのままシュートを決めて2-1に。
逆サイドではありますが、愛媛DF関根が決めたよりも少し前・内側の位置から、深井らしいパワーのあるシュートが決まり、劇的な勝利となりました。
■ターゲットとしての久保の使い方
後半24分にオーロイ、太田を投入したところで、ドワイト監督は勝ちに行ったんだろうなと感じました。
試合前にはシュート練習もしていなかったオーロイ。
まだ、足首の怪我は完治していないのでしょうし、スケジュール通りの交代というよりは、1-1から打開策がみつからずどうしても点を取りたい状況だったからこそ、使わざるを得なかったと判断したのではないでしょうか。
本来ならば力関係ははっきりしている愛媛との対戦ですから出来ることならオーロイは温存したかったのではないかと思うのですが、前節の敗戦もあってここは勝ちたい試合だったのではないでしょうか。
そして、途中投入されたオーロイが実際に前線のターゲットマンとして機能し(この仕事がオーロイの最重要タスクですから)、ゴール前でボールを落として深井がゴール。
見事に狙い通り勝ったのだから、それはそれで非常によかったと思います。
しかし、逆にそれがチーム内でのオーロイの立場を、よりはっきりとさせた印象もあります。
ドワイト監督は試合後に「全ての選手が勝利に対して活躍できた」と話していますが、私のイメージは逆の試合に見えました。
もちろんだからこそ、監督はこのタイミングでそういったことを話すことで、そのイメージを薄める狙いもあったのかもしれませんが。
ただ、前節の徳島戦よりはオーロイがいない状況でも、「やりたいことがはっきりと見えた」試合だったともいます。
徳島戦では基本的には前を向いてからのプレーに持ち味がある孝太を1トップにおいたものの、1トップ孝太をチームとして活かす術は持っておらず、周りとの連携もチグハグだったと思います。
しかし、愛媛戦では監督も言っているように、「戦術をそのまま使って、ターゲットとして久保を使った」とのこと。
それによって、少なくともチームとしての狙いは整理されたんじゃないかと思います。
けれども、ドワイト監督はオーロイの時と同様に、「ロングボール」を久保にあてる狙いだったようですが、それに関しては上手くいかず。
愛媛のCBはJ2の中でも決して高さのあるDFではないわけで、それでも苦労していたわけですから、今後久保を起用する場面でもロングボールを多用するようでは難しいんじゃないかと思います。
それよりもこの試合で見せた久保の良さは、足元へのボールの収まり、裏へのスピード、運動量をベースとしたボールの動き出しなどだと思うので、そのあたりをもっと上手く周りの選手が使ってあげられるようにしていかないといけませんね。
現段階ではいい素材であることは再確認できたけれど、そこから具体的にゴールに繋がる形というのは残念ながら見えてこなかったですし、「オーロイがいなくても大丈夫」とまでは言い難い状況だと思います。
もちろんオーロイが万全ならば、オーロイをどんどん使うべきだとも思います。
しかし、FC東京が平山の怪我で苦しんでいるのと同じように(もちろんチーム内での平山の立ち位置と、オーロイの立ち位置が同じとは言えないでしょうが)、もしオーロイに何かあった時にどうなるのか…という不安はあるわけで。
ジェフは今期でJ2も2年目。
経営面の問題やらサポからのフロントへの疑問やらもなくはないはずで、「怪我人が出ちゃったから仕方ないね」と言えるような状況ではないはずです(しかも、オーロイの年齢の問題もあり、あまり時間に余裕はないはずで)。
しっかりとオーロイ不在時に対するリスクマネジメントをしていってほしいところではないでしょうか。
まずはこの試合で大きな可能性を見せた久保と、久保を使う中盤の選手たちの飛躍に期待したいと思います。
久保が可能性を見せてくれたのは事実ですから、それを可能性止まりではなく、しっかりとモノにしたいですね。