ヒントは乾にあると言うが…


昨年度高校選手権得点王に輝いた流通経大柏FW大前元紀は清水入りした1年目、リーグ戦2試合など出場した公式戦は6試合だけ。過去3年間でJクラブ入りした大会優秀選手は17人いるが、活躍しているのはわずかだ。羽生事務局長は「ヒントは乾にある」と言う。07年に野洲高から横浜入りしたが出場試合数は限られていた。しかし、昨年6月にC大阪に移籍してからは試合数が増え、一気に日本代表入り。レンタル移籍活性化は、若年層の強化にも直結する。(日刊
 乾のケースって、確かに乾本人からすれば成功で、それで代表にも呼ばれたくらいなんだから日本サッカー的にも成功と言えるでしょうし、もちろんC大阪からすればいい移籍だったのだろうとは思います。
 けど、横浜FM目線で言うと、「どうなのよ?」とならなくはないでしょうか。


 ようするに「乾の成功例もありますし、おたくの若手選手、J2に移籍させましょうや」と周りに言われても、「えー?それってウチのクラブに大きなメリットありましたっけ?」となってしまうんじゃないかと。
 もちろん移籍金がちょこっと入るかもしれないとか、日本サッカー全体のレベルが上がればクラブの価値もうんぬんかんぬん…とかはあるかもしれないけど、少なくとも乾のケースにそのまま当てはめたとしても「自チームの選手育成のためにレンタル移籍させる」とはなかなかいかないのではないかと思います。
(だからレンタル先で活躍し、レンタル元に復帰したケースの方が個人的には気になるのです。)


 前にも言いましたが、30ヶ月ルールの撤廃の影響もあります。
 例えば、若手選手と単年契約をしてその選手を1年間レンタル移籍をさせ、向うで出場機会を得てその選手と移籍先クラブは相思相愛になってしまった。
 そうなると、いくら移籍元クラブがその選手を戻したくても、選手側が駄々をこねて移籍元クラブとの交渉期間を過ぎれば、0円で移籍できることになってしまう。
 実際にそういったケースが起こらなくても、交渉のカードとして使うことは出来る…というか、このルールが廃止された分、選手側の立場は優位に立ったと言い換えてもいいのかもしれません。


 じゃあ、海外にように若手選手に複数年契約を結んでその期間の間にレンタルすればいいとなるかもしれないけれど、そこまでのお金がJのクラブにあるかどうか。
 そして、本当にその若手選手が伸びる見込みがあるのかどうか、見極められることが出来るのか。
 また、選手側にとっても移籍しづらくなる複数年契約を結ぶことに対して、さほどメリットを感じる選手はまだ少ないんじゃないかと思います。
 特に将来が不安定な若手選手にとっては。



 結局は交渉ごとなのだからレンタル元にもレンタル先にも選手にもメリットがあることでないと、ただ単純に「レンタル移籍、いいですよー」と言ったって説得力は全くないんですよね。
 乾のケースはレンタルで放出するクラブからすれば、むしろ出し渋りを起こしちゃう可能性だってあるかもしれない。
 もちろんクラブのことだけじゃなく選手のことも考えて、といった考え方も出来るでしょうが、「いや、カテゴリが上でレベルの高い横浜FM出もまれた方が、最終的には成長した可能性があるんだ」と言われたら、完全にその意見を否定することはできないんじゃないかと(とはいえ決してこの移籍に否定的なわけではないですよ)。



 ついでに、同じような話しで「移籍係数をなくし移籍が活性化すれば若手は育つんだ」と言う話しも聞くけど、これも本当なのかなぁと思う。
 なんだか「秋春開催にすれば今以上に移籍市場が活性化したところで、2年目3年目の選手がそこまで簡単に移籍するんでしょうか?(そういう点で見れば、乾の移籍はプロ入り2年目なので貴重なのかもしれないけど。)
 それに正直2年目くらいの選手がポンポンと移籍し始めたら、それはそれで不安かなぁと。
 じっくり育てたいタイプの選手だってたくさんいるはずですし。
 ユース代表などでの経験が豊富な選手ならば他で出場機会を求めるというのもありかもしれませんけれど、それってかなり条件が限られてくるんじゃないかと。


 まぁ、移籍市場の活性化は重要な案件だとは思いますが、その影響を大きく受けるのは中途半端に試合に出たり出なかったりを繰り返して、ベンチに座っていたりする中堅どころとかではないか?と思うのですが。

 


 どちらにせよ、若手育成というのはそう簡単ではないと思うんですよね。
 何かのちょこちょこルールを変更したところで、突然よくなったりするもんなんでしょうか。
 だって、結局は人を育てるのなんて、現場の問題じゃないのか?とも思いますし…。


 まぁ、個人的には若手育成は日本サッカーにとって重要な問題だとは思いますが、そこまで言うほど深刻な状態になったわけでもない(昔と比べて)とも思っているんですけどね。
 じゃあ、首を突っ込むなって話しですが(笑)