エキストラキッカー3人に対する考察

 今大会を戦う日本代表に関しての一番の驚きは、スタメンでエキストラキッカー3人を並べたことです。
 オシム・サッカーの攻撃の基本は、2人のエキストラキッカーがパスを出し、他の選手がどんどん追い越していく攻撃サッカーです。


 なのに、このスタメンを選んだのは「気温と湿度の高い気候にうまく対応した」ともいえるかもしれないけど、私には「ある種の妥協」とも感じます。
 なにせ、ジェフでのオシム監督は真夏だろうとなんだろうと、ほとんど妥協せずに戦っていたわけですからね(笑)
 もちろん、オシム監督に面と向かってそんなこといったら怒られるでしょうけど、もう少しニュアンスを変えて誰かが聞いてはくれないだろうかと思ったりします。
 いや、あえて怒らせるという手もありでしょうが。








 ただ、オシム・サッカーの攻撃面を語る上で、もう1つの大きなポイントとして「サイドアタック」も忘れてはいけないと思います。
 そのサイドアタックを有効に起用するために重要なのが、広いサイドチェンジです。




 そのために、憲剛のような選手をボランチに置くことが重要だったのかもしれません。
 オシム監督もキリンカップの際に、「運動量が豊富でパスの出せるボランチが必要だ」と言っています。


 今大会での啓太は、守備だけでなく非常にゲームメイクの部分で頑張っていますけど、やはり憲剛と比べてしまうとゲームメイクの面では劣ってしまいます。
 そして、今後より強い相手と戦っていくことを考えると、啓太1人でゲームメイクをするのは厳しくなるでしょう。
 今までの相手は全体が退いている分ボランチにもスペースがあるし、憲剛が隣にいるためマークが緩くなり、啓太が攻撃面で貢献しやすいという部分もあると思います。
 これからは、そうはいかなくなる可能性も出てくるわけです。


 オシム監督が必要だと言っていた「運動量が豊富でパスの出せるボランチ」を啓太と憲剛の2人で、補っているということなんでしょう。








 じゃあ、縦にエキストラキッカー2人を使えばいいじゃないかという考えもあるかもしれません。
 私ももしかしたらその方がいいのではないかと思うのだけれど、俊輔を低い位置で使ってもペルー戦のようにマークをひきつけてきて渋滞を起こしてしまうだけだし(しかもそこを狙われると危ない)、遠藤はオシム監督の使い方を見る限りよりFWに近い位置で決定的なプレーが出来る選手だと見ているようです。
 逆に、俊輔は完全に右サイドでのプレーを任せられており、ボールを獲られる可能性が高く中央では使いづらいと判断したんでしょう。
 中央でボールを獲られたら危険ですが、サイドならなんとなる…このあたりは以前インタビューでオシム監督が、バルサでのロナウジーニョの使い方とリンクしながら答えていました。




 こうなってくると、遠藤と俊輔のボランチはなくなりますから、憲剛のボランチは決定(もちろん無理矢理、遠藤をボランチにしてもいいのだけれど…)。憲剛自身もトップ下よりボランチの方がプレーしやすいようですしね。
 次は遠藤と俊輔を並べて使うのか、どちらか1人をベンチに置いてDFか守備の出来る中盤の選手を起用するのか、という判断になります。







 まぁ、ここからは総合的に見ての判断でしょう。
 省エネサッカーをするにしても、パサーを並べただけでは意味がありません。
 省エネで戦いながらも決定的なプレーが出来る選手を起用しなければ、勝点には繋がりませんからね。
 遠藤や俊輔ならそれだけのプレーが出来ると、オシム監督は判断したのでしょう。



 それとエキストラキッカーは、前目で使わなければあまり意味がないと考えているところもあるのかもしれません
 オシム監督のインタビューなどを聞いていると、単純なパサー(ゲームメイカー)とエキストラキッカー(チェンスメイカー)は別物と考えているような感じもしますし。








 ただし、何度も言っていますが、その分守備には不安が生じます。
 今までの3-5-2から4-4-2にして、DF1人を外しエキストラキッカー1人をいれたのだから、単純に考えて守備が疎かになるのは当たり前でしょう。
 もちろん中盤の選手を増やしただけならば、前からのディフェンスや運動量で逆に守備が堅くなる場合だってありますが、俊輔や遠藤はそういった選手とは言えません。




 特に4バックにして啓太が自陣のDFラインに近いところに位置取るため、その分中盤のプレスが上手く言っていないことが、これから強豪と戦っていく上で致命的な問題になりかねないのではないかと思うのです。
 しかも、中盤の守備が手薄な分、FWも相手のボランチの位置まで下がって守備を開始しています。
 こうなると相手のDFがフリーになってしまい、ファーストディフェンスが低い位置から始まることになります。
 また、当然チーム全体のラインも下がることにもなるのです。






 例えば、次に対戦するオーストラリアのような背の高い選手達が相手となる場合、相手DFをフリーにしてしまうとなると、そこからFWにロングボールを放り込まれる可能性が出てきます。
 しかも日本のDFラインは中盤のプレスが出来ていないために、低め…。これだけで、心配になってしまいます。





 中盤の守備の問題を1人に任せるのはよくないのですが、個人的にはもう少し憲剛が守備で頑張ってくれれば、他の選手も楽になるのではないかと思います。
 ボランチに入った以上、やはり守備もケアしなければいけないですからね。
 逆サイドの選手がもう少し中に絞ることが出来ればいいのかもしれませんけど、この環境では厳しいでしょうしね。








 あとは、先ほど言った選手を変える策もあるでしょう。
 けれど、あの気候で、前からのチェイシングを90分通して行うのは、現実的ではないかもしれません。
 またDFを増やせば、「省エネサッカーをしつつ勝点を奪う」というのは難しくなるかもしれません。
 最終的には、理想と現実のバランスを取ったということなのかもしれませんね。








 攻撃面は予想以上に、機能していると思います。
 それを可能にしたのがUEA戦、ベトナム戦で見せた遠藤のFWに絡む動きですね。
 エキストラキッカーばかりで一番心配なのが前線が孤立することなのですが、遠藤は積極的にオフザボールの状況でも動き回っていました。


 けれど、守備面に関してはまだまだ。
 特にオーストラリア選に向けてのロングボール対策の守備に関しては、不安が残ります。
 いかに出所を押さえるか。そこをどのように調整するのか。オシム監督の腕に期待したいと思います。