イビチャサッカーとアマルサッカーの違い

 FC東京戦後、どこからともなく「これからも2バックでやるのかなぁ」という声が聞こえました。
 この試合で負けた、あるいは苦戦したのはフォーメーションのせいだということなんでしょうか?



 まず「アマル監督になって2バックがメインになった」という人がいますが、厳密には2バックではないと思います。イビチャ・オシム監督の行っていた2バックとは若干違います。
 FC東京戦では前半はDFが3枚で後半は相手が3トップになったので4バックで戦っていましたし、アマル監督になって純粋な2バックはやっていないと記憶しています。
 アマル監督になってからの最大の変化は、DFの数ではなくボランチの数です。


1.1ボランチと2ボランチ
 「2バック」と一括りにする方が多いようですが、アマル監督のやっているは3バック+1ボランチであり、先代のやっていた2バックとは違いがあるはずです。
 まずイビチャ監督の基本形である3バック+2ボランチと、アマル監督の3バック+1ボランチを比べて見ましょう。


(1)アマル監督の守備ブロック


     ● 

  ●  ○  ●

 基本的に●がマンマーク、○がカバーとなります。


 3バック+1ボランチで2ストッパーと1ボランチが、相手前3人のマークに尽きます。
 現在のJリーグでは2トップ+トップ下という形が多いため、この布陣でも理論上がっちりとかみ合うことになります。
 1ボランチになって、よりマンマークの意識が明確になったと言えるかもしれません。


 また、ボランチを1人減らしてトップ下を2枚に増やすことで、前線に人数が増えることになります。
 前線に人数が増えることによって、より高い位置で相手にプレッシャーをかけパスの出し手を押さえる。
 これがアマル監督の、最大の狙いでしょう。


 マンマーク主体の守備では、相手が攻め込んでくると一対一の場面が増えるため、どうしてもズルズルと各ラインが下がってしまいがちです。
 ならば「高い位置からプレスをかけ、攻め上がってくる前にボールを奪おう」という発想なのではないでしょうか。
 これは、1ボランチの4-1-4-1で成功したチェコ代表ブリュックナー監督の考えとも似た考えなのだと思います。



 それともう1つの狙いは、よりテクニックのある攻撃的な選手(クルプニ)を1人増やすで使うことで「パスミスを減らす」、「ラストパス、シュートの部分の質を上げる」ことなどが考えられます。
 最近の批判として良く聞かれる「1ボランチシステム」と「ラストプレーの精度向上」の2つの題材を、同時に並べようとするのは無理があり(アマル監督は1ボランチにする分ラストプレーを期待できる選手を増やそうとしているわけで)「両方を取れ」というのは難しい状況だと思います。


 しかし、現状だけを見ればアマル監督の狙っている「高い位置からのプレス」も、「ラストの部分の精度の向上」も上手くいっていないのは事実です。
 けれどそれが出来ていないのは監督のせいなのか、監督の要求を達成できない選手なのかは、なんとも言えない状況でしょう。


 アマル監督は選手を信じているからこそ、より高度な要求をしているのかもしれません。
 例えば、クルプニの精度がもっと高ければ、アマル監督の戦術はここまで批判を受けなかったかもしれません。
 でもそれはクルプニの問題。あるいは、ライバルである工藤の問題なんじゃないでしょうか。


(2)イビチャ・オシム監督の守備ブロック


  ●   ○

 ●  ○  ●

 イビチャ監督の3バック+2ボランチも、基本的にはアマル監督の3バックと一緒で、CB2人がFWにつきリベロがそのカバーにつきます。
 ボランチも1人がトップ下に付き、もう1人が攻めあがってくる相手ボランチを見る形です。


 1ボランチとの大きな違いは、ボランチの1人が中盤のバランスを取るべく自由に動き回れるところです。
 基本的には相手の攻撃的なボランチを見るわけですが、状況によってはサイドの守備に行ったりスペースを消す動きなどもします。



 中盤のバランサーがゾーン気味で守ることにより、攻撃時にも2列目からの飛び出しが行いやすくなります。
 バランサー自身もマークを持たないから攻撃参加しやすいし、マークを持っている守備的な選手が飛び出しても、バランサーがカバーすればいいわけですから。


 それと攻撃面では1ボランチと比べると、前線にスペースがある分ジェフの特徴である“後方からスペースに飛び出すサッカー”がやりやすいというメリットもあります。
 1ボランチだと前に人数が多い分「攻撃時にスペースがない」という問題が生じてしまいます。


 ただし、羽生が「アマル監督はよりレベルの高いものを求めている」と言っているように、前線に人が多くても「頭を使って賢く動けばスペースは出来るはずだ」という考えなのかもしれません。
 イビチャ監督も「日本人はスペースを作る動きが下手だ」と言っていましたし、「攻撃時の交通渋滞」は選手達の動きにも問題があるのかもしれません。


2.イビチャ監督の2バックシステム
 アマル監督の3バック+1ボランチイビチャ・オシム監督の2バック。MF登録の阿部がDFラインに入るから登録上は勘違いされやすいかもしれませんが、守備ブロックは大きく違います。
 2バックの最大の特徴は、3ボランチ気味(実際には片方のサイドの坂本・山岸あたりが下がる形)だということでしょう。

 
 ●   △   ●

   ●   ○


 2バックは主に相手が1トップか3トップの場合などで使われていました。
 相手のCFをストッパーが見て、ボランチの2人がウィングまたはMFを見る。
 そして、トップ下がいる場合が多いには、中央のボランチがその選手を見ることになります。
 しかし、相手がトップ下を置いていない場合、中央のボランチはゾーンで守ることもあります。


3.FC東京戦の後半
 さて、今まで説明したのは、あくまでも守備ブロックの基本形。
 実際には試合によって相手もあることだし、色々と状況は変わってきます。
 特にFC東京戦の後半は、フォーメーションの変化がありました。


 ●   ○   ●

   ●   ○ 

 相手が3-5-2から3-4-3にしてきたため、サイドの坂本が下がって相手左ウイングを見て、坂本の穴を埋めるためトップ下の羽生が右サイドに入って、相手左ウイングバックと対峙する形になりました。
 その時、FC東京はトップ下をはっきりとは置いていなかったため、アマル監督の特徴でもある1ボランチは基本的にゾーンに近い守り方をしていました。


 そう。実際は4バックにも近い形でしたが、理論的にはイビチャ監督のやっていた、ボランチが中盤のバランサーがゾーンで守る場合の2バック+1ボランチと同じ布陣です。
 ちなみに、チェコ代表も相手にトップ下がいない時は1ボランチがゾーン気味で守っていますね。


 イビチャ監督も3-4-3への対応は、以下の通りでした。


  ☆  ☆  ☆
 ハース    巻
           
☆   ☆ ☆    ☆  
山岸  羽生    水野
        
☆          ☆
阿部   勇人   坂本

     ☆      
    斉藤 ストヤノフ
   
☆=相手選手

 昨日試合の後半は、これから水野→羽生、羽生→クルプニ、斉藤→水本、(怪我の)勇人→中島と変えただけのものです。


 しかし、イビチャ監督と同じ戦術をとったにもかかわらず、ご存知のようにジェフはFC東京に負けてしまいました。
 フォーメーションなんて、結局はそんなものでしょう。
 特にジェフの行っているマンマーク主体のサッカーでは、一対一での勝負がダイレクトに試合内容に関わってきてしまいます。
 昨日はその肝心な1対1の場面で、やられてしまいました。


4.敗因と現状
 確かにメンバーの起用方法は若干違います。でも、それは監督の責任というより選手の問題でしょう。
 監督だって、負けたいはずがない。
 勝つ為に、真剣に悩んで、選んだ選手を送り出しているんですから。


 楽山が良くない?じゃあ、他に攻撃的な選手が、ベンチに誰がいるって言うんですか。
 林はもういません。工藤も最近は良くないし、青木だって実戦に使えるレベルではない。
 楽山を批判するのなら楽山を追い越せない選手達にも、それ以上の批判が必要なんじゃないでしょうか。
 事実サテライトでの楽山は、1つ飛び抜けた存在なんですから。


 スタメンに関してもそうです。
 1対1の局面で何度も相手にやられていました。
 でも、他に1対1に強い選手なんていません。
 結城いるけどスピードのあるFC東京の選手と勝負させたら、ますますやられていた可能性だってあります。



 残念ながら、これが今のジェフの現実です。
 この現実を受け止めなくてはいけません。


 しかし、私は諦めません。“諦めない形”は人それぞれでしょう。
 監督を批判する人もいるだろうし、選手を批判する人もいるでしょう。ただ応援するという形も、清いと思います。


 でも、不当な批判をしたって、チームにとって百害あって一利なし。
 少なくとも「2バックだから負けた」、「戦術で負けた」という言い訳は今回に限っては出来ないわけですから。