町田とエウトンが同サイドに流れて失点
北九州戦の1失点目では町田が逆サイドまで追いかけて、エウトンと同じサイドに釣られるような形になってしまい、そこから展開されてやられてしまいました。
今回はトレンドとなっている4-4-2の守り方に関して図を使って話しながら、このシーンを振り返りたいと思います。
といっても、戦術的な正解というのは無数にあるでしょうし、トレンドといってもチームによって少しずつ異なるはずです。
あくまでも個人的に思う基礎的な部分を、お話していきたいと思います。
以前にもオナイウの話をした時に取り上げたように、現在はコンパクトに守る4-4-2が基本となっていると思います。
2トップから守備をすることで、相手の出所を抑える。
そこを抑えられなければ、後方の4×4もただの脆い箱になってしまうといった印象です。
数年前までは、ダブルボランチの4-5-1が流行っていました。
1トップが相手のDFラインを追い回して、トップ下は相手ボランチを見るようなことが多かった。
相手も4-4-2だと想定して、図にするとこんな感じ。
白が相手チームで、黒が味方チーム。
プレスの際は1トップがうまく相手ボールをサイドに追い込んだところで、SHやトップ下と連携して囲む。
そういった守備をするチームが多かったように思います。
しかし、これだと1トップが左右を広範囲に追いかけなければいけない。
加えて1トップとトップ下が縦に並ぶようなシステムとなるため、その横のコースを通される不安が残る。
そこでまず前線を2トップにして2人が相手ボランチの前に立って、CBからボランチへのパスコースを消す。
その上で前に出ていき、プレスをかける。
あるいはプレスバックをして、相手ボランチに対応する。
これによって、後方のパスの出所を抑える。
特にボランチを空けないことが、後方の4×4を守るためにも重要なのだと思います。
4-5-1だと相手CBを1トップが、相手ボランチをトップ下が見ることが多かったと思うのですが、4-4-2にすることで左右を分担するようになったとも言えるのではないでしょうか。
プレスのかけ方としてはこんな感じ。
この図だけだと若干わかりにくいかもしれませんが、まずFWが中から外方向にCBへプレスに行ってサイドに展開させて、次に相手SBをSHとFWがサイドで囲む…というのが1つの理想的なのかなと思います。
この際、同サイドの相手ボランチは、味方ボランチが前に出て行って対応する。
逆サイドのボランチはもう1人のFWがケアすることで、相手の両ボランチを空けないことが重要だと思います。
しかし、冒頭で話した通り、北九州戦での1失点目の場面では町田が逆サイドまで流れて行ってしまった。
確かに相手左CBの寺岡が開いて前に出て行き、エウトンがそこに寄っていったために左ボランチの新井がフリーになりかけていた。
もっと言えば全体的にラインが下がって押し込まれてしまったために、寺岡が前に出ていけたという問題もあるでしょう。
けれども、そこで町田が逆サイドに出ていった結果、ぽっかりと右ボランチの風間が空いき、そこに展開されてやられてしまった。
町田が逆サイドまで守備に行ってしまう傾向は、前節清水戦でも気になっていたところでした。
オナイウがプレスをかけきれないためサポートに行きたいという気持ちもわかるのですが、プレスがはまっていない状況で釣り出されれてしまっては逆に危険度は増すと思います。
先ほど話したように4-4-2だと2トップが左右を分担する形になるだけに、片方のFWが守備をできない…あるいはそのポジションからいなくなってしまうと、そこから攻められた場合4×4は無防備な状況で相手と対峙しなければいけなくなります。
4-5-1で1トップが守備をしない状況なら、まだ後方にトップ下がいるわけですが、2トップだとそうはいかない。
だから、4-4-2ではFWの守備力が重要になっているようにも思います。
町田は4-5-1のトップ下のような気持ちで追いにいってしまったのかもしれませんが、ただ闇雲に追えばいいというものではないと思います。
町田のああいった守備の仕方を見ていると、このプレスも監督がデザインしたものというよりは、個人能力で何とかやってきていたのかなと感じます。
だから、運動量が落ちたここ数試合では、プレスに行けなくなってしまったのか。
エウトンと町田のコンビが偶発的にうまくはまっての、プレスからのハーフカウンターだったということなのでしょうか。
今回のように、プレスがはまりきれない時にどう対処するのか。
北九州のように深く追うのは諦めて大事なところだけはやらせないという考えもあるでしょうし、相手CBは諦めて相手ボランチは自由にさせないといった策もあるはずです。
しかし、ジェフはそのあたりの守備の意識が中途半端で、プレスに行ける時は良いものの行けない時にどう守るのかが曖昧になっている印象です。
もちろん、その後に風間と対面した長澤の寄せも非常に甘く、GK佐藤もクロスボールを前に弾いてしまった。
2度、3度と良くない守備が続けば、失点するのも当然ではないかと思います。
ただ、まずは全体の守備バランスをどう改善するかが、チーム全体においては重要となってくるのではないかと思います。
特に守備に関してはまずはチームとしてどう守るかが重要で、その上で個の能力が求められるのが基本だと思います。
これから夏にかけては運動量も落ちるでしょうからその中で効率よく守るためにも、守備の約束事や組織的な守備の構築といったものがより一層必要となってくるのではないでしょうか。
多々良のクロスからエウトンがゴール
北九州戦での唯一のゴールは、82分に多々良のクロスをエウトンが決めたものでした。
エウトンは今季5ゴール目となり、これでチームトップタイに。
多々良のアシストはFootball LABによると、今季2つ目となるそうです。
先週も話した通り、多々良は綺麗なクロスを上げられる選手だと思います。
北九州戦でアシストを記録したシーンでも、しっかりとゴール前を見てから狙い澄ましてボールを上げている。
「アバウトにこのあたりで」と蹴るのではなく、ボールの軌道をイメージしてボールを出せる選手なのではないかと思います。
また、このシーンではダイレクトでクロスを上げたことで、相手の守備が整う前にクロスを供給することができた。
今季1つ目のアシストを決めた横浜FC戦でも、ダイレクトでクロスを上げて船山のゴールを演出しています。
ダイレクトでのクロスボールは決して簡単ではないはずで、基礎技術の高い選手なのではないでしょうか。
もちろん試合全体を通しての攻撃への関与に関しては、物足りなさも感じるとは思います。
前に飛び出すようなプレーも少なく、仕掛けもあまり出来ていない。
ただ、前への飛び出しなどはチームとして意図をもってやっていかなければ難しいところもあるだろうし、仕掛けにおいては本来CBの選手に期待する方が酷だと思います。
例えば北九州はFWにボールが出ると、必ずといっていいほど風間が思い切ってスプリントを仕掛けていった。
そのタイミングで出て行って守備は大丈夫なのかと思うほど積極的に飛び出していましたが、それもチームとしての約束事として許されているプレーなのでしょう。
2失点目も風間の飛び出しからやられてしまいました。
柱谷監督になってから北九州は選手1人1人がボールを持っても焦って仕掛けることなく、粘り強くキープしようという意思を感じます。
それによってボランチが飛び出しても、フィニッシュまで持ち込めるため問題ないという考えなのかなとも思います。
焦って仕掛けるばかりではなく状況に応じてキープするというような発想は、ジェフも参考になる部分があるのではないでしょうか。
北九州戦で苦しんだのは、右SBの多々良よりも左SBの阿部でしょう。
早いタイミングで疲労困憊状態になり、動けなくなっていった。
裏を狙われることが多く、スピードで相手に翻弄されていました。
攻撃においても後半からクロスが増えていきましたが、疲労のせいか高い位置まで出ていけない。
アーリークロスが多かったため確率が低いものになっていたし、工夫のないクロス展開が続いたため相手にとって予測がしやすかった。
それこそ多々良は深い位置でのワンタッチクロスだったために、相手が対応しにくい状況になっていた。
大事なのはクロスの鋭さや精度だけではないということが、はっきりとしたシーンだったと思います。
ゴールを決めたエウトンは前半終盤にもCKから惜しいシュートを放ち、反転してからのミドルシュートもありました。
特に反転してからのシュートは、パワーもあって枠も捉えていた。
あの体制からあれだけのシュートを放てるということで、腰の強さも感じました。
1点を失ってからのジェフは、守りを固める北九州に対して工夫もなく中央のFWにボールを供給し続けていました。
組織的に相手を崩す展開や、相手のマークをはがすようなプレーが少なかった。
左右への揺さぶりも少なかったため、個対個の勝負にしかならなかったということになると思います。
"正面衝突"のような状態で、相手に勝てたのがエウトンしかいなかったということでしょう。
井出も1人で相手を崩すほどのドリブルはないし、町田も接触プレーが増えると弱さが出てしまうため相手に引かれると弱い。
オナイウもそこまで圧倒的な強さがあるわけではない。
組織的に連動して崩せるような展開が狙えれば、井出や町田のような選手も活きてくるかもしれませんが、現時点だとそれは期待しにくい。
早い時間からエウトンとオナイウの2トップにして、早々に崩しは諦めたように見えました。
しかし、相手が守備を固める状況で、パワープレーのような展開だけでは安定した得点は難しいと思います。
残念なのは今回のような遅攻時において、「崩す形を狙うもののうまくいかない」のではなく、そもそも「崩しを狙う形すらない」ように感じること。
それではいくら時間が経っても、遅攻の形は進歩していかない。
J2も守備的なチームが多いとはいえ、それでも北九州のようにパスワークで崩す狙いを持っているところがほとんどだと思います。
しかし、ジェフはプレスからのハーフカウンターか、それがダメならパワープレーのような状況になってしまった。
それではなかなかJ2を勝ち進んでいくのは、難しいように思います。
今後はまずプレスからのハーフカウンターが復活するかどうか。
それが難しいとなった場合、次の手がなかなか見えてこないというのが、現状ではないかと思います。