鈴木淳監督を振り返る 後篇

 鈴木淳監督を振り返る 前篇に続き、後篇です。
 これでひとまず鈴木監督のサッカーに関しての話は、ラストになるのかなと思います。
 明日、監督交代に関しての最後のまとめをして、新チームを迎えたいと思ってはいるのですが…。
■湘南ショック後バランスのとれた4-4-2に
 第7節湘南戦において0-6で敗れたジェフは、そのショックを引きずって翌戦富山戦でも1-1で引き分けてしまいます。
 富山戦は明らかに動きが悪く、選手たちが精神的なダメージを抱えているように見えました。
 そして、第9節讃岐戦でも1-1の引き分けと厳しい状況になってしまいます。


 しかし、讃岐戦で大きな変化が見られました。
 前線をケンペスと田中の2トップに変更。
 富山戦でも田中の1トップを試したように、裏への動きと前からのプレスを田中に期待しつつ、ケンペスの得点力に期待したのでしょう。
 そして、守備面においてもポジションバランスを意識した4×4に変更しました。
 この数戦後、ジェフは大塚をトップ下に置いた4-4-1-1にしてチームが攻守に安定していくわけですが、そのベースがこの試合にありました。



 昨年からジェフは4-2-3-1で両SHが中央寄り高めの位置でプレーし、守備時も比較的高い位置取りをし、攻撃時にも相手のバイタル付近を狙うことが多かったと思います。
 その両SHがこの試合からサイド寄りにポジショニングし、しっかりとSBの前を守ることを重視する4×4のボックスによる守備に変更。
 これによって、開幕から課題だった右サイドの守備も大きく改善されました。
 加えてSHがサイド寄りで守備をするようになったことで、ダブルボランチの守備範囲も狭まって負担が減り、ボランチの守備も埋まることになりました。


 また大岩とキムのポジションを変えて、キムをCBに大岩をSBに変更。
 前からのプレスと4×4でバランスのとれた守備組織に加えて、CBキムの裏へのスピードによるカバーも加わり、最終ラインが積極的に押し上げられるようになり、守備が安定していきます。
 キムのビルドアップの拙さは気になりましたが、その分ダブルボランチにはパスをつなげる兵働・健太郎を置いて、2人が近距離でプレーしパスワークを展開していけるようになりました。
 それぞれの課題を補い、結果的にプラス面の方が多く表れたことになったように思います。


 守備だけでなく攻撃においても中村の近くにタメを作れる谷澤を置くことで、より中村を活かす形が作れるようになり、それはケンペスを活かすことにもつながっていきます。
 谷澤にとっても中村を活かす役割は、良い効果を生み出した部分があったように思います。
 また右SHからは井出が飛び出し、中央では大塚が攻撃のアクセントを作りだしていきました。
 これによりチームは5月に無敗。
 序盤に比べて勝点を伸ばせるようになっていきました。

 この図だとわかりにくいですけど、大塚がうまくバランスを考えて左右をサポートしつつ前にも出ていき、必要ならばボランチの位置まで下がってゲームメイクをするなど、様々なエリアで効果的にボールに絡んでいきました。



 湘南戦に敗れ、富山、讃岐に引き分けた時は正直これまでか…と思っていましたし、あの時は監督交代も止む無しとすら思っていました。
 しかし、だからこそ、あそこからチームを立て直しただけでも驚きを感じます。
 あの時点で選手たちが精神的に折れ、選手たちの求心力が落ちてチームが崩壊してもおかしくなかったと思うのですけど、あそこから攻守のバランスを取り戻しむしろ以前よりも確実に強いチームを作り上げた印象です。


 けれども、6月21日第19節の北九州戦に0-1で敗れたところで、鈴木監督解任となります。
 チームとして最後まで問題となっていたのは、やはり得点面ではないでしょうか。
 細かなパスワークでアタッキングサードまでは良い形でボールを持ち運べるにも拘らず、そこからゴールが奪えない。
 仕掛けの形やGKとの1対1まで作れているにもかかわらず点が取れないというのは、個人能力にかかる部分が大きいのではないかと個人的には思っていたのですが、クラブは別の考えがあったのでしょうか。
 あれ以上、得点に関して手取り足取り教え混むのは、さすがに無理があるように私は思っていたのですが。
 そのためか、監督解任に関して選手たちは口々に自分たちの責任であることを述べています。



 シーズン序盤の戦い方が、もったいなかったとは言えると思います。
 後から考えれば、初めから湘南戦以降のような戦い方をしていれば…という見方もできるのかもしれません。
 ただ、昨年からの流れも考えると、序盤の失敗がなければ4-4-1-1のバランス重視型で戦うのは難しかったようにも思いますし、序盤の戦い方も決して無駄な時間というだけではなかったと思います。
 4-4-2にしてからも前からのプレッシングが機能していたのも、開幕時から積極的なプレスに挑戦していたからこそだと思いますし、ボランチ2枚にパサータイプの選手を置けたのも、アタッカーである井出などが使えたのも、シーズン序盤からのチャレンジがあったからこそではないでしょうか。


 昨年もそうでしたが、前回の反省を踏まえ、長所は残し、短所は解決する努力をし、少しずつ成長していくのが鈴木監督の良さではないかと思います。
 もしかしたら、その歩みが遅いという指摘はできるのかもしれません。
 しかし、それが他の監督と比較して遅いのか、他の監督ならもっと早く改善できたのかという比較は非常に難しいところで。
 それこそ、今のジェフと言うクラブに不足している、我慢が必要なところだったのではないかと私は思うのですが…。
■ジェフでの鈴木淳監督の総括
 繰り返しになりますが、地道に一歩一歩着実にチームを成長させていく。
 それが鈴木監督の特徴だと思います。
 例えばチームの変化を辿って行く文章では取り上げにくいですが、パスワークの形成などに関してはこの1年半を通じて、コツコツと築きあげてきたものだと思います。
 選手がボールホルダーに近づいていって近い距離間でテンポよくショートパスを回し、そこから選手が前方や斜めに動き出していって相手守備陣を崩す展開や、中盤の選手が相手の間を取る動きをして、後方からズバッと縦パスを通し反転する動き…。
 そういった動きは長らくジェフには見られなかった連動した攻撃だったと思いますし、そういったものを少しずつ作り上げることこそが、鈴木監督の真骨頂ではないかと思います。


 守備に関しては昨年なかなか米倉の後方を埋められず、今季序盤はボランチの穴やサイドの守備を改善できず、当時は物足りなく感じる部分もありました。
 しかし、今季序盤でも森本を起用した第2節、第3節の守備的な戦い方では穴なく戦えていたし、湘南ショック以降は4×4で安定した守備組織を作り上げてきたことを考えると、決して守備が作れない監督ということでもなかったのではないかと思います。
 守備よりも攻撃の構築を優先した結果、守備における課題が目立ってしまったようにも思わなくもありません。



 タイプからすれば決してモチベーター的な監督ではなく、どちらかといえば戦術家というイメージを受けます。
 しかし、湘南戦での大敗以降も選手から監督を批判するような声は少なく、解任時も「自分たちの責任だった」「監督に申し訳ない」という声が大半であり、目立った不満の声は聞こえてきませんでした。
 もちろんもっと選手たちの気持ちを高ぶらせるような監督の方が良い、あるいは戦術的にもっと早い攻撃を重視したほうが良いという声もあるかもしれませんが、それはもはや好みの問題ではないでしょうか。
 W杯を見てもパスを崩す形とハーフカウンターの両面を持つチームが主流ですし(しかもビルドアップは鈴木監督の指揮したジェフなどよりも雑なチームが多い)、大きくトレンドから外れているようにも思えません。


 もっとファンサービスをという話や、監督のコメントがどうのという話まで出ていましたが、それは二の次三の次。
 そのような話をするのであれば、まずしっかりとサッカーを分析してからではないかと思いますし、一部は言いがかりのようにも感じられました。
 監督としてファンサービスの負担をなくし、選手を守るという考えも十分理解できることだと思いますし、監督・選手がファン・サポと近い距離にあればいいというものでもないと私は思います。
 どうも言葉だとか表面上に出てくることばかりで判断されて、サッカーの本質の部分があまり評価されなかった印象があるのが残念でした。



 確かにサッカー内容にせよ鈴木監督のキャラクターにせよ、地味な部分はあったのでしょう。
 それが一部サポーターに評価されにくいところだったのかもしれません。
(この辺りは広報にも問題があったようにも思わなくもない。)
 どうにも、今のジェフは派手さを好むところがある印象をうけます。
 いわゆる奇跡の残留劇からなのか、フクアリが出来たかなのか、クラブがジェフをブランド化してしまったからのか…。
 以前はコツコツと地道にチームを作り上げるのがウリなチームだったようにも思うのですが、時を経てジェフの文化が変わったということなのでしょうか。


 そう考えていくと今のジェフの文化には、あいづらい監督とも言えるのかもしれません。
 インパクトの強い監督で、サッカーも派手で、選手を厳しく指導するような、目に見えて派手な監督の方が良い…と。
 ただ、それらはあくまでも理想論。
 サッカーはミスの起こるスポーツでもあり、完璧な選手がいないのと同じように、完璧な指導者もいないわけで。
 ジェフというクラブは、どこかでそこを勘違いしているような印象があります。



 ジェフの文化には合わない部分などもあったかもしれませんが、それでもコツコツとチームを作り上げることのできる指導者だった。
 クラブが鈴木監督招聘時に目標として掲げていたはずの「土台作り」においては貢献した監督だったはずで、その点において考えれば鈴木監督は今のジェフに適した指導者だったのではなかったかと思います。
 戦術をしっかりと作り上げ、ベースとする考えは変えずに戦ったことで、細かな連係が出来てきあがっていった。
 そして、監督の方針がぶれないことによって、若手の育成にも貢献したはずだと思います。


 ころころとサッカーを変えるような監督では、土台作りは難しかったはずです。
 頻繁に狙いや方針が変われば、選手たちのやるべきことやポジションなども変わってしまうし、そうなれば育成面にも支障が生じる。
 そして、その土台作りこそ今のジェフにおいて極めて重要な要素であると長年思い続けていたのですが、残念ながらクラブは我慢できなかったということなのでしょうか。
 そもそも、優先順位においてどこを重視してチームを作り、チームを見守っていたのか…。



 残念ながら鈴木監督に感謝の気持ちを伝えることも、退団時の挨拶を聞くことも出来ず終わってしまいました。
 関塚監督に対して、火中の栗を拾ってくれたという思いは強いですが、それは鈴木監督にも同じことが言えるはずです。
 斉藤TDや島田社長の言葉を聞いても、今のジェフは世代交代なども含めて変わろうとしている印象でした。
 その中で結果も求められたわけですから、本当に大変な職務だったと思います。


 関塚監督と鈴木監督、実は同年代。
 同じ世代には風間監督、柳下監督、樋口監督、小林監督、柱谷幸一監督、大木監督、松田監督などなど、今でもJリーグで活躍する指導者が多数いらっしゃいます。
 ジェフでの挑戦は残念な最後となってしまいましたが、ぜひ新たな舞台に再び立ってそこで成功されることを祈りたいと思います。 
 1年半という中途半端な期間になってしまいましたが、ここまで本当にありがとうございました。