2015シーズンを振り返る その4

 その1その2その3とやってきた振り返るシリーズですが、これがラストということになります。
 2105シーズンを振り返るというよりは、関塚監督のサッカーを振り返る内容となっておりますが、今回がそのまとめということになります。
 関塚監督継続が濃厚な状況ですから、ジェフでの関塚監督をしっかりと整理し理解することで、来年以降に繋げていこうという趣旨です。


 関塚監督には過去の実績もあるとはいえ、もう1年半もジェフでやっているわけですから、情報としては十分に蓄積されたものがあるはずです。
 他者の過去の評価や監督の実績などに囚われず、目の前にあるものをしっかりと自分の目で見つめ、自分の中で精査してから、次へと進んでいくべきではないでしょうか。
 補強や来季に向けての話をするためにも、まずはこれまでをしっかりと整理したいところだと思いますので、こちらのシリーズを先に終えてしまいたいと思います。
■変更しても積み重ねが作れず失速
 その1とその3で取り上げたグラフでもはっきりと表れていたように、昨年10月、今年3月、今年8月と成績が大幅に良くなっています。
 この3回はちょうどサッカーが大きく変化を迎えた時で、関塚監督になってから戦い方を変えると一時的に成績が向上していることになります。


 しかし、1ヶ月しか成績は伸びず、翌月からは成績が落ちるという傾向が毎回出ています。
 個人的には戦力で圧倒できないのであれば、11年の鳥栖や15年の福岡のようにシーズンを通じて徐々に強くなっていくパターンが理想的なのではないかと思いますが、今年のジェフは8月を除くとその逆を行っていたことになります。
 もしかしたらロンドン五輪本番も、ちょうどその良い時期に入っていたのかもしれません。


 これは戦い方を変えることで当初は相手チームも戸惑うところがあり成績が伸びるものの、翌月には対策を取られてしまうということ。
 そして、何よりもジェフが戦い方を変更しても新手法をそこから改善・向上することできないため、時間の経過につれて成績が落ちてしまうということが大きいのではないでしょうか。
 ようするに、関塚監督は1つのサッカーに対して積み重ねを作ることができないため、相手の研究を上回れずすぐに成績が落ちてしまうということではないかと思います。



 ならば、頻繁に戦い方を変えればいいかというと、そうともいかないでしょう。
 まず関塚監督が戦い方を変える際は、選手も大きく入れ替わっていると言えるわけですが、選手の人数や補強には限度がある。
 加えて様々なこと試したものの結局2年連続で辿り着いたサッカーは引いて守るスタイルだったことからしても、監督としての引き出しは多くなく3手目、4手目があるわけではないと思います。


 ですから、来季も監督継続ということになれば、最終的には引いて守るスタイルになる可能性を想定した上で、準備をしなければならないと思います。
 個人的には結局行きつく先が同じなのであれば、初めから引いて守るサッカーで考えるべきではないかと思います。
 今年もハイプレス期以降はいろいろなことを試しては失敗を繰り返していましたし、そういった回り道をしないためにも方向性は明確にすべきではないかと思います。


 引いて守ってカウンターというスタイルはこれまでの関塚監督が率いたチームでも見られら方向性であり、本来の関塚監督に合ったサッカーではないかと思います。
 ハイプレスに関しては背伸びをした結果失敗したのではないかと思いますし、監督個々に実施できるスタイルというのは限られているとも思います。
 その監督がやることのできるサッカーが関塚監督の場合は引いたサッカーであるのなら、それをやって失敗したとしてもそれはもう仕方がない。
 監督続投の判断の是非はともかくとして、"関塚ジェフ"としては引いて守ってカウンターで失敗したのであれば、「やりきった」ということになるのではないでしょうか。
■最新のトレンドへの適応
 しかし、引いて守ってカウンターでも、あのままではうまくいかないと思います。
 思うに戦術的に古い部分があるのではないでしょうか。
 もちろん古い戦術ならダメかというとそうとも言い切れませんが、少なくとも今のトレンドに適応していないところもあるのではないかなと感じます。


 現在のサッカーのトレンドは攻撃では相手の間を取ること、中盤の高いエリアで前を向いてそこから仕掛けることではないかと思います。
 これも前からある考え方ではありますが、バルセロナのパスサッカーが成功した頃からそれを狙うチームがますます増えていき、今では多くのクラブが当然のようにそのパターンを"持っている"印象です。
 Jリーグはもちろん、J2でも多くのチームが狙っていますね。



 これは引いた相手に有効な策であり、バルセロナは立場上引いた相手を崩さなければいけないため、その引いたDFラインの前でボールを受けてチャンスを作ろうという発想なのではないでしょうか。
 それに対して関塚監督の守り方は、最終ラインが引いて守ってボランチなどもCB前を固めるため、その前がどうしても空いてしまう。
 前が空いたところであわててボランチが前に出ていくので、結局バイタルエリアも相手やられてしまう…という形が多発していたと思います。
 ようするに現在のトレンドとは、相性の悪い守り方のように感じます。


 これが数年前だったら、成立していた部分もあったかもしれません。
 実際川崎時代には後方で跳ね返すサッカーでやれていたしそこに古さも感じませんでしたが、サッカーの戦術は変化していくもの。
 現状だと引いた守備だけでは無理があり、中盤を取られないことが重要になってくるはずです。
 だから、全体をバランスよく守るボックスディフェンスというものが流行しているのではないかと思うわけですが、関塚監督の守備は全体をバランスよく守るという発想とは異っている印象を受けます。



 また攻撃においても、関塚監督が就任してピタッと中央での縦パスとポストプレーからの展開がなくなったように、中盤の高い位置で前を向いて仕掛けるという展開がない。
 かといってサイドでのパスワークも鈴木監督の遺産だったところが強く今年になってからなくなってしまいましたし、結局アバウトなボールを蹴り込むかセットプレーからしかの攻撃しか感じなくなっていってしまいました。
 川崎時代にもセットプレーには強かった印象ですしそれが1つの武器になるのは良いのでしょうが、流れからの展開も作れないと来年も厳しいのではないかと思います。
 結果的に攻守において、トレンドから取り残されたサッカーになっている印象を受けます。


 あくまでも"引いて守ってカウンター"というサッカー自体は、今でもあるものです。
 しかし、細かな手法や約束事に関しては、時代に沿ったやり方に変化していかなければいけないはずで。
 その変化を成し遂げられるかどうかが、重要なのではないでしょうか。


 結局はハイプレスなど今までとは全く異なる新たな手法を試したとしても、監督としてもチームとしても無理が生じてしまう。
 最終的に求められるのは、監督自身がこなせるサッカーで細部を改善できるかどうかなのではないかと思います。
■攻守に自分で戦える選手が必要
 昨年も話しましたが、関塚監督は攻守において自分で仕事を見つけ、自分でこなすことができる選手を好む印象があり、実際にそういった選手の必要性が高いように感じます。
 細かな戦術作りが得意な監督ではない分どうしても選手が自身でタスクをこなして、選手がチームを成立させなければいけないところがあるということではないでしょうか。
 言い方を変えれば、攻守に最低限の部分をそつなくこなせる選手が求められる。
 その上でその選手が、プラスアルファを作り出せるかどうか…ということになると思います。


 そのため兵働や大塚といった選手は外されたし、ケンペスではなく森本を選んだという部分もあるのでしょう。
 組織的に戦えないので、パスワークが成立しなければ難しいパサータイプの選手や守備面を組織的にカバーしなければならない選手の起用は難しいと。
 今年パウリーニョが一時的に外されたのも、そのためだろうと思います。



 攻守に自分で仕事ができる選手の理想像の1つが、中村憲剛なのではないでしょうか。
 ビルドアップも1人で構築できて、ラストパスも出せて、プレースキックでも貢献できる。
 パサーとしての評価が高いですが、オシム監督などは守備面も高く評価し運動量も豊富で、代表時代のレギュラーボランチとして起用していた。
 その後の岡田監督も2列目で途中出場させて、何でも屋のように扱っていたところがあったと思います。


 また川崎時代には攻撃面で貢献していたジュニーニョチョン・テセが、守備もしっかりとやっていた記憶もあります。
 それは五輪時代の永井や大津にも言えるのでしょう。
 彼らは守備ができる上に、攻撃でも強みを出せる。
 しかし、そのレベルの選手を獲得するというのは、そうそう簡単なことではないと思います。
 今夏に加入した松田なども当初は攻撃に専念できたことにより良さが出せましたが、守備の仕事も増えて苦しんでいった印象がありますし。


 また基本的には選手を置いて後は任せるタイプの監督ですから、当然選手の色が出やすくなる。
 特にチームの軸となる選手が重要で、川崎時代は中村憲剛が中心で今年のジェフはパウリーニョが中心となっていた印象です。
 パウリーニョの大きな展開とパワーで競り勝つプレーが得意な一方で、バランス感覚には課題があり小技も効かなかった。
 結果的にパウリーニョが色濃く出たという意味では彼をキャプテンとしたのはある意味で正解と言えるのでしょうが、逆に課題の方も大きく出てしまったシーズンだったようにも思います。



 来季に関しては監督続投なら、最終的には幸野や山口慶、勇人のような守備で効くような選手を集めて、中盤から後方を走力で固めて、自らドリブルで仕掛けて得点を狙えるようなFWを獲得する方向で行くしかないのではないかと思っていました。
 ジュニーニョレベルは難しいにしても、永井のようなロングカウンターの効くFWを外国人選手でもいいので補強できれば…と。
 どちらにせよ守備の改善は必須だと思いますから、まずは守備のできる中盤の選手がまずは必要ではないかとも思いますが。


 しかし、実際のオフではここまでのところテクニカルで攻撃的な選手を集めている印象ですので、また今季のハイプレスのように新たなサッカーに挑戦するということなのでしょうか。
 兵働や大塚を使いこなせなかった監督ですし、パスサッカーなどに方針展開してそれで一時は可能性が見えたとしても、果たしてそこから積み重ねができるのかどうか。
 その方向性が関塚監督に合ったサッカーなのか、関塚監督が実行できるサッカーなのか正直不安があると思います。
 特にパスサッカーは、積み重ねや連携面が必要になってくるものだと思いますし。


 今のところ来年の鍵になりそうなのは、やはりアランダでしょうか。
 彼が守備でも貢献できて、攻撃でも自らゲームを作れてラストパスも出せるようなスペシャルな選手なのであれば、中盤は多少改善するかもしれない。
 しかし、その状況でも気になるのは、パスサッカーには合わないであろうパウリーニョではないかと思います。
 アランダとパウリーニョとどちらがチームの軸となりチームの主導権を握るのかが、重要になってくる可能性もあるのかもしれません。



 どちらにしても2015年の最終成績が悪かっただけでなく、成績が下降傾向な状況で監督を続投したのですから、厳しい戦いになると考えるのが普通ではないでしょうか。
 この状況でも監督を継続したのですから、しっかりと関塚監督の出来ることと出来ないことを理解した上で、最大限のチームを目指していかなければいけないはずだと思います。
 そうでなければ、監督継続のメリットなど全くないものになり、デメリットばかりになってしまうのではないでしょうか。


 そして、改めてクラブとしてジェフがどういった在り方であるべきかを、考えていかなければいけないと思います。
 単純に良い選手だから補強する、穴が開いたから埋める…というクラブ作りだけでは、クラブの根底は変わらないのではないでしょうか。
 クラブとして明確なビジョンを描いてチームを作っていかなければ、確固たる強みは作れないだろうし、不安定なクラブ状況が続いてしまうように思います。
 成績も内容も厳しかった年だからこそ、その点をもう一度考え直すチャンスだとも思いますし、強い信念と危機感を持ってチーム作りをしてほしいところではないでしょうか。