西部謙司氏「この期に及んでまだできていない」

 西部謙司氏が今シーズンのジェフにおけるこれまでの経緯と現在の課題に関して、スポナビでコラムを書かれていますので、取り上げさせていただきます。
 ジェフサポからすれば目新しい話はあまりなかったと思いますが、これまでのまとめとして非常に役立つ内容ではないかと思います。


 まずはシーズン序盤のハイプレスサッカーの課題に関して。

今季はDFからのロングボールを多用し、全体を押し上げることでボールを失っても高い位置からプレスをかけてリズムをつかむ戦法を柱とした。パウリーニョのボール奪取力がその戦法の中で生きていた。
いわゆる「縦に速い攻撃」は最近の流行のようだが、スタイルを変えれば問題が解決するわけではない。違うスタイルには違う問題が生じる。ターニングポイントになったのが初黒星を喫した第8節の愛媛FC戦(0-1)だ。愛媛は千葉の持つ2つのストロングポイントを封じた。パウリーニョのプレスを外すことと、左サイドバック中村太亮の攻撃力を削ぐことだ。特に前掛かりにプレスしてくるパウリーニョを回避されると、ロングボール+ハイプレスでリズムをつかめなくなったばかりか、中盤のスペースが広がってカウンターの危険が大きくなった。パウリーニョの奪取力は諸刃の剣であり、相手がそこに気づき始めたのがこの試合だった。

 愛媛戦ではっきりとした、シーズン序盤のスタイルの問題点。
 この試合の前にもボール奪取役のパウリーニョが交わされると、全体が前掛かりになっているため一気にピンチになる場面はあったと思います。
 また、パウリーニョはエリアを守らずフラフラと前方やサイドに出て行ってしまう傾向が強いので、相手チームにとっては釣り出しやすいという課題もありました。


 それが明確に表れたのが、今季初黒星となった愛媛戦だったと言えるのかもしれません。
 特に愛媛戦ではサイドへパウリーニョが釣り出されることが多く、この課題は翌戦の磐田戦でも見られて0-2で2連敗となりました。
 愛媛戦が行われたのは、第8節でまだ4月19日のことでした。
 開幕から1ヶ月しかたっていないこの時期にジェフのハイプレスサッカーは課題が浮き彫りになり、そこから修正によるスタイル継続も、新しいスタイルの確立も出来ずに、長らく迷走期に陥っていったことになります。



 そして、7月終盤にはついにパウリーニョを外して、昨年終盤のサッカーに近いリトリートする時間の長い戦い方に変わっていった印象です。
 このあたりの変化に関しては、西部さんのコラムには明確には書かれていません。
 しかし、現在の大きな課題は、そのリトリート時の守備にあるように感じます。

引いて守るときの奪いどころがはっきりしていない。ゾーンは埋めているが奪い切れない。縦方向にコンパクトにはなっているが、横方向の圧縮がないので圧力が足らない。僅差勝ちの勝負強いチームを作るなら、最初にやっておくべきことが、この期に及んでまだできていないと言える。

 西部氏も「最初にやっておくべきことが、この期に及んでまだできていない」と、厳しい論調で書かれています。


 横へのスライドが出来ていない問題は昨年から私も指摘していましたが、西部氏は縦方向にコンパクトになっているといった分析をされています。
 確かにSHやボランチはかなり低い位置まで来ていますが、最終ラインも低いのでその分その前のエリアが空いてしまっていて、個人的には縦方向の守り方にも疑問を感じます。
 そうなると前のエリアを使われて素早く左右に揺さぶられてやられてしまうことも多く、よりサイドへのスライドも間に合わなくなるしそこから縦へのパスも出しやすい状況になる。


 もちろんそのスライドにおいても、CBがどっしりとゴール前で構えてその周りを人数で固める守り方ということで、そもそもスライドの意識が薄い。
 それに対して昨年は全体が左サイド寄りになって中村をフォローしつつ、右サイドは幸野と山口慶の走力でなんとかカバーしていた。
 しかし、今季は2人のような広範囲を守れる選手が右サイドにいないので、現在は跳ね返すことのできる大岩と金井をSBにおいて何とか個人で守る…というやり方になっているのではないかと思います。
 中村が出場していた頃も、9月に入ってからはかなりポジションが低く中央に絞りがちで、守備的なSBになっていましたしね。

 
 
 攻撃でもそうですが、守備も人数をかければ良いというわけではなく。
 例えば先日行われた大宮戦の終盤にも、右サイドで3人が相手選手1人を囲んでいたものの、CKに持ち込まれてしまったシーンがありました。
 複数の選手が対応にっても、そこで誰が奪いに行って、誰がカバーするのかといったチェック&カバーの関係性が作れていない。
 むしろ後方に人数が密集する分、そこで誰がボールを奪いに行くのか、責任が不明瞭になってしまっているように思います。
 特に大宮はジェフのチェックが少しでも甘ければ、例えジェフが人数をかけて守っても狭いエリアでプレーできる技術を持っているので、スルスルとジェフの守備を避けて縦パスを簡単に繋がれてしまっていたのが印象的でした。


 加えて、マークの受け渡しにも課題を感じます。
 昨日も話した通りCBがどこまでもついて行ってしまって、誰とどこでマークをスイッチするのかはっきりしていない。
 それによってゴール前に選手が密集していてもポジションバランスが崩れてしまうし、バランスが崩れたところで裏へ飛び出されて密集を抜け出しやられたのが、大宮戦の2点目だったということになると思います。


 ある特定のエリアに人数をかけて守るということは、他のエリアが薄くなるということになる。
 例えば右サイドで大岩や水野がボールサイドに寄っても、その分ニアが空いてしまったり、相手ボランチエリアがフリーになってしまったり。
 だからこそ、守備ブロック全体のスライドが必要になるわけですが、それが出来ていないと。



 確かにサイドにスライドすると、逆サイドが空くなどの不安も出てくることになります。
 そのため関塚監督はスライドするよりもゴール前で待ち構えて跳ね返した方がリスクが少ないという発想なのかもしれませんが、その分ボールの取どころは後方になるし、他のエリアから崩されてしまう場面が目立っている。
 基本的なボックス守備の考え方としては、バランスよくポジショニングをしてサイドチェンジ等のパスコースを消したり、相手選手の動きを遅らせてスライドの時間を稼いだりといった細かなポジション修正などによる組織的な守備というのが必要になってくると思います。
 それによって相手にサイドチェンジをさせない、あるいはサイドチェンジを遅らせる、またはサイドに追い込んで奪う…といった発想などが一般的ではないかと思うわけですが、そういった守備の意図も見られない印象です。


 今のジェフは守備全体のバランスが悪く、松田などが追いかけてもそこに連動した動きも見られない状況で、相手のコースが消せておらず、ボールの取どころもはっきりしない状況。
 そして、簡単に高い位置まで持ち込まれ、人数を固めたゴール前で跳ね返せるかどうかの勝負といった状況になっていると思います。
 関塚監督は川崎時代にも川崎山脈といって、SBを含めDFラインに高さのある選手を並べて跳ね返していました。
 その当時はその戦い方でもよかったかもしれませんが、サッカーも時代によって変わりゆくものであって、現状だとそれだけでは厳しいということなのかもしれません。
 守り方が古いということになるのでしょうか。



 この後に西部氏は「そこさえキマれば本当に勝負強いチームになれる」と前向きに締めくくっていますが、1年以上そこが改善できなかったチームなだけに、ここからの修正を期待するのは現実的なのかどうか。
 個人的にはここからの戦術的な大きな変化というのはあまり期待せず、微調整とコンディション調整などで戦っていくしかないのではないかと思うのですが…。