富山戦における1ボランチの意図

1トップから(ケンペス選手を入れて)2トップにして、逆転してから(森本貴幸選手を代えて)1トップに戻した意図を教えてください。
関塚隆監督「相手の守りから攻撃に入った時に、やはり我々はサイドバックを高い位置に置いた時にダブルボランチがボールサイドに1枚いても、やはり対角のところに長いボールが入って来るので、1人アンカーを置いて3枚をその中心にというところを作りたかったと。そういう意味で点を取りたかったですし、アンカーを1人置いて戦いたかったというところが狙いでした。そして、リードした時には今度はワイドと、それから相手も左サイドの9番の白崎(凌兵)選手の飛び出しというのが1つあったので、そのへんをダブルボランチにしながら(山口)慶と(佐藤)健太郎でバイタルエリアを必ず空けないようにという指示を出しながら、元の4−2−3−1に戻しました」(J's GOAL

 なるほど、1ボランチにはそういった意図があったということですが。
 単純に兵働が運動量や守備面で厳しかったのと1点を取りたかったのもあって、ケンペスを投入してパワープレー気味に攻め込みたかったのかと思ったのですが、守備での期待もあったということになるわけですね。
 相手が3バックというのもあったのかもしれません。



 関塚監督は就任当初、相手が3バックの試合では1ボランチを試していたこともありました。
 3バックだとボールを持った際にシャドー、ウイングバック、CB、ボランチなどで、サイドで3人以上の選手が絡む攻撃を作りやすいというメリットがある。
 富山は1ボランチなので特にその形が得意なチームだと思います。
 それに対して関塚監督になってからの守備は、先日も話した通り基本的にラインがスライドせず、ボランチ2人もCB前に固定する形を望むので、そのままだとサイドで数的不利が作られてしまう。
 だから、中盤を3枚にしてそのうちの1人がサイドに流れ、もう2人でCB前を封じたいということですね。


 ただ、理論的にはうまく行っても、富山戦も含めて1ボランチが守備面でうまく機能したことはあまりないと思います。
 インサイドからサイドに出ていく守り方になるわけですが、前からのプレスがはまっていないし、全体のラインもかなり低い。
 その結果、SB大岩がサイドの対応に遅れがちなのと同じように、インサイドの選手がサイドに出ていく動きもどうしても後れを取ってしまう。
 インサイドの選手がサイドへの対応に遅れると、サイドでフリーになる選手が出来てしまうだけでなく、3枚のうち残り2枚の選手がCB前を埋めるポジショニングをする動きも間に合わなくなることが増えてしまう。
 そのため、1ボランチ脇のスペースを埋められないという、うまくいかない1ボランチシステムにありがちな状況が出来てしまうことになります。 



 サイドでならまだなんとかなっても、ボランチ付近でそういったことが起こると、一気に大きなピンチになってしまう。
 実際富山戦でも後半20分、相手が右サイドの低い位置でパスをつないでいる際に、町田、井出などが対応に行きましたが、そこでうまく止めきれなかったので健太郎までサイドに流れていき、中央が空いてしまってそこから前線にパスをつながれたシーンがありました。
 1ボランチを任されていた健太郎としては、我慢してアンカーポジションをキープしなければいけなかった場面だったようにも思いますが、どちらにせよ中央は薄い状況でサイドで相手を捕まえきれていなかったので、劣勢の状況になっていたことには変わらないと思います。


 その1ボランチシステムがうまく機能しなかったために、富山戦では森本に変えて大岩を投入せざるを得ない状況になったということになるのでしょう。
 これまでの流れなら町田あたりを変えて4-4-2にするのかなと思っていたのですが、この日はケンペスを投入して1ボランチにする以前から守備面で課題が出ていたために、中盤を厚くすることを考えて運動量のある町田を残したということではないでしょうか。
 特にCBが下げられてボランチも引かざるを得ない状況だったため、どうしてもジェフのボランチ前が空きがちになるので、そのエリアを町田に埋めてほしかったということなのかもしれません。
 しかし、2ボランチに戻した後もCB前に簡単に穴が出来る状態ではなくなったものの、攻撃に転じてきた富山にチャンスを作られることが多かったと思います。
 2ボランチの4-5-1に戻したのはあくまでも応急処置といった印象で、後方の相手を相手を捕まえきれない場面が目立った試合でした。



 これまでの試合でも1ボランチがうまく機能せず、2ボランチに戻したという試合が何度かありました。
 富山戦では2トップ+トップ下という形を作りたかったという意味の強い、1ボランチシステムだったのでしょう。
 その2トップで押し切り点もとれたのですから成功とも言えるのでしょうが、今後の試合での使用を考えると心配も残るシステムだと思います。


 これまでで唯一成功したのは、柏戦途中からの6-1-2-1ですね。
 あの時の1ボランチは他の試合とは意図が違って相手2ボランチを抑えきれなかったために、インサイドハーフ2人をそのまま相手2ボランチに当てて対応したということになります。
 サイドに関しては両SHが引いて守ることで対応していたので、インサイドハーフが対応にいくことはない試合でした。
 そういったシンプルな状況での1ボランチならいいのでしょうが、インサイドハーフの1人がサイドに出ていって、もう1人が絞って…といった連動性を問われる状況だと難しいのだと思います。


 関塚監督としてはCBとボランチ4枚でゴール前で凌ぐだけでなく、サイドや前にも出ていきたいという思いもあるのかもしれません。
 しかし、一般的に考えても前からの守備にいけない状況で、無理にそこへ出ていくのは危険だと思います。
 フレッシュな状態だった勇人や幸野を起用した東京V戦からの数試合は前からのプレスも機能していた印象だったのですが、現在はプレス面において苦しい状況になりつつあるのかなといった印象もあります。
 それでも残り数試合といった状況ですし、今は後方を固める形で乗り切る形が現実的なのかなと思います。