アギーレ監督解任に思う

 2月3日、日本サッカー協会がアギーレ監督の解任を発表しました。
 大きなショックと感じるほど長い期間指揮を執っていたわけではないですし結果を残せたわけでもないわけですが、個人的にはもっと長く見たいチームでしたので残念なニュースです。


 何度か話していますが、個人的にはあまりザッケローニ監督がうまく行っていたようには感じていませんでした。
 W杯を結果を残せなかったからというのではなく、それ以前からチーム作りにおいて課題が多かったように思います。
 「最低限の約束事を与え、攻撃陣を自由にやらせていた」と見れば、代表監督としては悪い監督ではなかったのかもしれません。
 しかし、もともと攻撃陣に自由を与えるようなチーム作りを目指していた印象はなく、日本人を活かしたサッカーが作れなかったから、結果的に自由にやらせるしかなかったのではないかと。
 レベルは違うものの、ジェフで言えばドワイト監督がチームを作りきれず最終的に選手に任せるしかない状況になったのと、似たような現象が起きていたのではないかと思います。


 せめて守備だけでも作れればだいぶ違っていたと思うのですが、組織的な守備も構築できずW杯でも守備からやられてしまいました。
 選手から「自分たちのサッカー」という言葉が出ましたが、あれは本当に自分たちの…ようするに、選手個々が思うサッカーであって、ザッケローニ監督のサッカーではなかったのかもしれません。
 チームとして確固たるスタイルが作りきれていなかったからこそ、「自分たちのサッカー」という発言になったのかなとも思います。



 対してアギーレ監督は、確実に自分のスタイルはもっている監督なのでしょう。
 4-1-4-1には課題もあって安定感という意味では不安も感じましたが、決してそこまで特殊な戦術ではないはずで。
 日本ではまだ少ないものの欧州では珍しくない戦術ですから、それをやりきれば結果的にうまくいくにしろいかないにしろ、新たに得られたものはあったのではないかとも思います。


 単純にフォーメーションだけでなく、ウイングのポストプレーからインサイドハーフが落としてサイドへ…という組織的な狙いも見られましたし、就任から半年ということを考えれば十分約束事も作られていたと思います。
 守備においてもリトリート時は課題が残りましたが、攻撃から守備への切り替えの速さに関しては、特筆すべきものがあったと思います。
 それらは日本人選手にもフィットしやすいサッカーだったのではないかとも思います。


 加えて軸となる部分は変えずに、日本のサッカーに関して柔軟に対応していったように見えたことは、非常に重要なポイントだったのではないでしょうか。
 当初は長身CFを起用しようとしていましたが、うまくいかないと岡崎、武藤などスピードがあって動ける1トップを使い始めたこと。
 インサイドハーフの一角に遠藤や柴崎といった、司令塔タイプのMFを起用するようになったこと。
 「前線の流動性」と「司令塔の存在」といったものは、日本のサッカーにおいても重要な要素だと思いますから、そこをしっかり取り込もうとしたことは外国籍監督として見逃せない部分だと思います。


 以前オシム監督が浦和でフィンケ監督が失敗したことに対して、日本の状況を十分に把握しきれなかったのではないか…というような話をしていたように、外国籍監督が成功するためにはあちらで成功したサッカーを、そのまま持ち込むだけではダメなのでしょう。
 その点でアギーレ監督は可能性を感じる部分もあったと思いますし、今後の伸び代も期待できる部分だったのではないでしょうか。
 就任当初はテストで若手を起用したものの、アジア杯ではベテランが多かったことに関して「結局以前に戻った」という評価もされていましたが、アギーレ監督が日本のサッカーを学ぶ時間だったという意味では決して無駄ではなかったように思います。



 確かに当初の若手テストにおいては、突拍子もない印象もありました。
 ただ、日本を詳しく知らない外国籍監督に、いきなり選手選考をさせるとあのようになるのも仕方のないところがあるのでしょう。
 ザッケローニ監督の時は原監督代行を挟んだこともあって、明らかにJFAが好むユース代表経験選手ばかりが選ばれていました。


 そして、そのままザッケローニ監督は自分のカラーを出しきれず終わってしまった印象ですが、アギーレ監督は自分のカラーを打ち出したかった…あるいはJFAがそうして欲しかったということではないかと。
 南アフリカW杯で成功した岡田監督の後のチームは"継続"でも良かったのでしょうが、今回は世代交代も含めてかき回さなければいけなかったわけで。
 ただ、それにしてももう少しJFAと話し合って、若手選手を発掘してほしかった気もします。


 この辺りは原さんが専務理事に移り変わるタイミングということもあって、バックアップ体勢がうまく整わなかったのでしょうか。
 監督任命責任よりも、そちらのほうがJFAの問題は大きかったように思ってしまいますが…。
 アギーレ監督との交渉時に、八百長疑惑が把握できる術があったとは思えませんしね。


 
 とはいえ、アジア杯ではベスト8で敗退は、残念な結果であったのも事実。
 最後は決定力不足が大きく、監督に責任を追及するには厳しい状況だったようにも思います。
 しかし、まだ伸び代を感じる部分はあった一方で、確固たる手応えも感じないまま終わってしまったとも言えるでしょう。
 せめてアジア杯でオーストラリアや韓国などの強豪チームと当るところまで行ければ見えてくるものもあったかもしれませんが、消化不良のまま終わってしまいました。


 自分のスタイルを持っている柔軟性のある監督であることは事実でしょうが、守備などには脆さも感じましたし飛び抜けて優秀な監督だったかどうかというとまだそこはわからないところもあると思います。
 しかし、アギーレ監督解任の噂が出てから様々な監督候補の名前が挙がっていますけれども、どの監督も決して飛び抜けて優秀な監督とは思えないこと。
 前任の監督などと比べても決して劣っているようには思えないことなども考えると、このままアギーレ体制で行くべきではないか。
 1つのスタイルを継続することによって、見えてくるところもあるのではないかといった印象でした。


 それだけに今回のニュースは残念です。
 海外から新たな監督を招聘するとなれば、当然また準備期間も必要でしょうし。
 かといって日本人監督も含めて、今のJリーグにそこまで優秀な監督がいるか…という疑問もあります。



 監督解任理由としては、まだ告発段階であるものの起訴された場合のリスクを排除する必要があるため…という発表でした。
 その理由でまかり通るのか、そもそも起訴の可能性がどれほどのあるのかというのは、正直わからない部分です。
 しかし、これまでの経緯からして、マスコミが壮大に叩いたことによって、それによる影響から避けたかったのではないか…と思ってしまう部分もなくはありません。


 もしそうであれば、日本代表監督はマスコミ受けが大事な要素ということになってしまいます。
 実際日本のマスコミはこれまでも日本代表監督に対して、ずいぶんと偏った報道をしてきた印象があります。
 マスコミに厳しかったトルシエ監督やオシム監督にはひどく叩いて、マスコミには優しいジーコ監督屋ザッケローニ監督には甘かった。
 …まぁ、Jリーグの監督もサポや親会社受けが大事なようですから、どこも状況は変わらないのかもしれませんが。


 しかし、アギーレ監督も強面な方ではあると思いますが、コメントなどを読むと非常に紳士な方だったのではないかと思います。
 リップサービスだけではなかった分、よりコメントに信頼性があったような印象すら感じます。
 次期監督はクリーンで話題性もあって、マスコミ・スポンサー受けの良い方ということになるのでしょうか。
 しかし、W杯予選まで考えると時間がないという現実もあるので、決して簡単なタスクにはならないはずで。
 即効性があり実力も伴い、マスコミ・スポンサー受けの良い監督…となると、人選は相当難しいでしょうね。



 今は日本代表よりも、アギーレ監督の無実が明らかにになることをまずは期待したいところです。
 日本代表に関しては、ちょっと気持ちが萎えてしまいました。
 次期監督に特別優秀な監督が招聘できればいいのでしょうが、サラリーも世界的に見ればそこまでではない島国の代表監督に、どれほど優秀な監督が呼べるのかどうか…。
 国内の監督事情も含めてマスコミなどの評価を見ていると、そのあたりを勘違いしているところがあるのではないかと思ってしまいます。