攻撃のバリエーションと切り替えの速さ

 アジア杯日本代表対ヨルダン代表戦が行われ、日本代表が0-2で勝利しグループリーグ突破を決めました。
 大会を進んでいく中で攻守にチームの意図が明確になっていき、安定感が出てきましたね。


 攻撃面ではボール運びのバリエーションが、増えているように思います。
 初戦のパレスチナ戦では、森重からの縦パスを乾や香川が受けて相手を食いつかせ、長友を裏に走らせる展開。
 2戦目のイラク戦では、相手守備ブロックの間で受けて、そこから裏を狙う展開が作れていました。


 そして、ヨルダン戦では最終ラインの中央でパスをまわして、大きく左サイドに展開というパターンを見せていました。
 ヨルダンは基本4-3-1-2のフォーメーションで、プレスをかける時は4-3-3のような形を取っていました。
 日本のSBがボールを持つとFWの片方がサイドに寄って、4-4-2のような守り方をする変則的なシステムといえると思います。
 しかし、4-3-3のスリーライン状態の時は、中盤が3枚になるので等間隔に守りきれない。
 3ボランチの脇が空きがちになるというわけで、日本はあえて最終ラインの中央でパスを回し相手を中央ひきつけて、大きくサイドに展開という狙いをもって戦ったのでしょう。



 イラク戦で相手の間を狙ったのも、イラクはボックス守備の間が空きやすいということで、相手の穴をついた結果でしょう。
 そう考えるとアギーレ監督は、相手を研究した上でしっかりと狙いを作っていく監督なのではないかと思います。
 テストマッチよりも実戦向きの監督といえるのかもしれません。


 しかし、相手に合わせるばかりで、自分のスタイルがないというタイプの監督というわけではない。
 相手に合わせ過ぎてチームのベースが揺らいでしまう監督も珍しくはないですが、しっかりと自分を持った監督だと思います。
 後方からのパス回しから、中央への縦パスを見せつつ、サイドへ展開する。
 ヨルダン戦でも中央からサイドへの大きな展開だけでなく、それまでにもあったポストプレーや相手の間を狙った縦パスなども出来ていましたし偏った攻撃ではなかったと思います
 様々なバリエーションがある中で、相手や状況に合わせてどれを選択してくのかという形が出来ているのではないかと思います。



 状況に応じて焦らずパスをつなぐチームとなっており、基本的にはパスで崩す意識の強いサッカーといえるでしょう。
 最近はむしろ日本人が嫌いなのでは?と感じるパスサッカーですね(笑)
 パスサッカーですので、個人技で勝てるところ、相手の弱いところでどんどん仕掛けていって、相手を圧倒するような試合にはなりづらい。


 そのため、アジア杯でもこれまで3戦全勝で危なげないサッカーをしているわけですが、圧勝したと感じる試合は少ないかもしれません
 しかし、自分たちのやりたいサッカーが出来るかどうかで試合が決まるため、チームとしての安定感はかなりのものだと思います。
 個人技主体のサッカーだとどうしてもそこで勝てるかどうか、相手の守備が強いかどうか、自チームのアタッカーの調子が良いかどうかなどに左右されがちですが、そうではないチーム状況が作れているということだと思います。



 守備に関しても、アギーレ監督のやりたい形が見えてきましたね。
 ともかく、驚くべきはボールを奪われた瞬間の切り替えからアプローチが極めて早いこと。
 テレビ画面で見ていても「もうチェックに行っているのか」と感じるほど、素早く守備に入れている印象です。
 切り替えの早さというのは多くの監督が目指すところではあるのでしょうが、リスクや体力面、集中力の問題もあってなかなか実際には実現しないことも多いのですが、今のところ非常にうまくいっている印象です。


 奪われた後のアプローチが早いからこそ、そこを交わされた後が怖いところがあります。
 それに対しては、まずアプローチによってビルドアップを阻害すること。
 そして、縦パスが出たらボールを受けた選手に守備陣がしっかりと付いて行って自由にさせず、攻撃を遅らせるという狙いなのだろうと感じます。
 そこでうまく遅らせて、周りの選手が戻って相手を挟み込んで潰すという狙いなのでしょう。
 ただ、アプローチに意識が高いために戻りが遅れるところがあるわけで、そこのバランスをうまく取れるかどうかが課題なのかもしれません。


 また、ヨルダン戦では得点を奪った前半30分あたりからは、リトリートしての守備の時間も見られました。
 岡崎が相手ボランチまで戻って対応する形で、少なくともこの試合では大きな問題はなくやれていたと思います。
 この形と前への意識が強い時間帯をうまく使い分けていくことが、今後はより重要になってくるかもしれませんね。



 今のところ順調すぎるくらいの印象で、ここからの伸び代が心配になるくらいですね。
 まだ長い4年間の中の半年ということで、ピークが早く着すぎるのも困りもの。
 まだアジア杯も途中ですが、今後このチームの可能性を広げられるかどうかが、今後気になってくるかもしれません。