大塚の北九州への完全移籍が発表に

大塚翔平選手 ギラヴァンツ北九州への移籍について(ジェフ公式サイト)


 年の瀬に、残念なニュースが発表になりました。
 2012年にG大阪からレンタル移籍し、その後完全移籍でジェフに加入した大塚が北九州に完全移籍することが発表となりました。
 移籍の可能性はあるだろうと思ってはいましたが、個人的にはジェフにとって非常に勿体のない移籍だと思います。


 2012年の3月末にジェフにレンタル移籍した大塚ですが、当初の木山監督は4-5-1でパスサッカーを目指していた印象でした。
 そのためトップ下の選手で、スルーパス能力に長けた大塚獲得に動いたのではないかと思います。
 4月27日の第10節富山戦、4月30日の第11節北九州線ではスタメン出場し、パスセンスの高さを見せてくれました。


 しかし、チームはその後パスサッカーが成立しなかったため、カウンターサッカーに移行。
 フォーメーションも4-4-2に変わり、大塚のポジションがなくなってしまいます。
 木山監督は夏頃になって再びパスサッカーを目指したためまた大塚のスタメン出場する試合もありましたが、その後もチーム状況が安定することはなく出場15試合にとどまります。



 昨年は23試合に出場と、前年から出場機会を伸ばしていました。
 シーズン序盤はなかなか出番がなかったものの、6月以降活躍し第20節徳島戦から第25節愛媛戦までの6連勝に大きく貢献しました。
 後方からパスをつないでいくサッカーにおいて、トップ下からスルーパスを出せる大塚の存在は見事にフィットしていたと言えるでしょう。
 特に3-0で勝利した古巣G大阪戦のプレー内容は、素晴らしいものだったと思います。
 米倉への先制点をアシストしたスルーパスは、後方からの縦パスを田中と大塚がバイタルエリアでつないでその間に米倉が裏へ飛び出すという形で、チームとしても狙い通りの展開でした。
 そして、大塚自身もミドルシュートで2点目のゴールを決めています。


 シーズン終盤には町田の活躍もあって、出番が少なくなっていきます。
 今季も町田がトップ下のレギュラーでスタートしましたが、シーズン終盤にも見られた通り、町田はどうしても決定的なラストパス、シュートの面で課題が見られました。
 湘南での大敗もあってチームを切り替えていった5月初旬から、大塚は再びスタメンの座を獲得します。
 昨年以上に左右への動きや前への引き出しも増えていった印象で、効果的に攻撃に絡めるようになっていたように思います。
 5月の6戦を負けなしで乗り切ったチームの、原動力の1つとなっていました。


 しかし、6月末に鈴木監督が解任。
 関塚監督就任後も当初は出場機会がありましたが、8月27日の第20節熊本戦に出場した以降はピタリと出場機会が途絶え、そのまま今シーズンを終えています。
 小さな怪我などもあったようですが、あれだけ多くの入れ替えを行った天皇杯でもベンチ入りはしたものの出場できず、干されているようにも見えました。
 それだけに移籍した方が本人のためだと思う部分もありましたが、完全移籍ですか…。



 大塚の特徴はともかく相手の危険なエリアを見つけることができて、決定的なパスを出せることだと思います。
 ジェフの選手というのは歴史的に運動量豊富で基本技術はあるのだけれど、ラストパスの精度やそこへの視野というのは大きな課題がある選手が多く、その結果攻撃にアクセントが作れないチームになってしまう場合が多い印象です。
 羽生などもそういったところがありましたし、工藤や伊藤、町田も同系統の系譜を持った選手と言えるでしょう。
 そういった選手が好まれる傾向もあり、その為に大塚が評価されにくい部分もあったように思わなくもありません。


 しかし、チームの攻撃に変化を与えるためには大塚のようなラストパサーも必要だと思いますし、実際今季終盤にはそういった選手不在で苦しんだところがあったように思います。
 むしろ走れる選手が好まれるチーム状況、伝統があるだけに、大塚のような存在は極めて貴重なピースだと思っていました。
 今後このようなセンスを持った選手をジェフが獲得できる機会も、そうないのではないかなと思う部分があります。



 関塚監督になって出番がなくなったのは運動量が足りないという面もあるのかもしれませんが、チームとしてビルドアップが作れなかったところが大きかったのではないかと思います。
 そのため当初大塚が使われていた試合でも、カウンター時のラストパサーという点では機能していたところがありました。
 特徴的だったのが7月30日の第24節山形戦で、序盤セットプレーから点を取って1-0で試合が進み、相手が攻め込んできた裏を取る形で、後半ロスタイムに大塚がゴールを決めた試合でした。


 カウンター状態での攻撃なら、細かなビルドアップの必要はないため大塚の良さが活きてくる。
 けれども、遅攻状態ではそうはいかないために、大塚の良さが生かせない。
 大塚はアタッキングサードで仕上げの部分に貢献する形で良さの出せる選手であり、トップ下がビルドアップなどをしなければいけない状態では活きてこないと思います。
 関塚監督になってからのジェフは当初カウンターでチャンスを作っていましたが、徐々に相手に警戒されてカウンターが上手く作れなくなっていったため、ますます大塚の立ち位置がなくなっていったのではないでしょうか。


 それだけに前への仕掛けに特徴がありそうなプチュニクに関して、本当にトップ下で活かせるのかなといった疑問を感じたわけですが…。
 逆に考えればプチュニクを獲得したということはトップ下の町田に頼らないビルドアップつくりを目指そうという意図なのかなとも思えなくもないわけで、それならば来季の大塚にもチャンスが出てくる可能性があるのかなとも思っていたのですが、むしろプチュニクと被るので退団ということになったのでしょうか。
 まぁ、シーズン終盤の起用法からしても、単純に評価されていなかったのだろうなぁとは思いますが。



 どの監督にせよ、チームに合う合わないといった選手が出るのは仕方のないところだとは思います。
 しかし、ジェフの場合は短期間で頻繁に監督を変えるために、選手の起用法も何度も変わってしまい、落ち着いた選手育成が出来ていないという問題が出ています。
 今回もそのような形での退団ということで、何よりもそれが残念でなりません。


 例えば09年ミラー監督の下で右SHとしてブレイクしかけていた益山でしたが、シーズン途中に江尻監督に交代となり初陣の磐田戦で急遽右SBで起用され対面の村井にぼろぼろにやられて、その後出番がなかったり。
 益山は翌年の開幕戦で今度はCBとして起用されますが、その後出場機会はなくレンタル移籍となってしまいました。
 また、江尻監督の意向で獲得したと言われる倉田や鎌田といったレンタル組も、監督が変わらなければ残留していた可能性があるかもしれません。
 2011年末には神戸監督代行の下で久保がチャンスをつかんでいきますが、翌年には木山監督になってレンタル移籍してしまいます。
 その他にも伊藤や青木孝太などジェフで落ち着いた環境を与えてあげることが出来ず、才能を伸ばしきれなかった印象があります。
 注目すべきは、どの選手も他クラブに移籍して一定の成功を収めているということではないでしょうか。



 もちろん選手側の課題などもあると思いますし、移籍が刺激になったケースなどもあるでしょう。
 しかし、それにしても選手を安定して育てられないという問題はチームの根底に関わることですし、そこをしっかりと見直さない限りはなかなか選手もチームも育っていかないのではないでしょうか。
 しかも、振り返って考えれば、現在長い長いトンネルにはまっているジェフですが、その大元は07-08オフの大量流出が根底にあるものだと思います。
 そこから安定したクラブ運営が出来ずにチームのベースを作り直せずにいるわけですが、あの時も安易に監督を解任した結果、選手たちの信頼を失ったという部分が大きいと思います。
 そこからの反省を全く活かせず、今年も含めて頻繁に監督を変えては選手構成をやり直し、強化が出来ていないというのですから、そう考えるとジェフが再び飛躍できないのも当然と言っても仕方がないのかもしれません。


 大塚の退団が今年最後の発表ということになるのでしょうか。
 一番最後に現在のジェフを象徴するかのようなニュースが来てしまいましたね。
 水野の補強で明るいネタが来たかと思いましたが、やはり水野の代わりに出ていく選手もいるということになってしまいました。


 まだ大塚は若い選手ですし、十分にこれから成長し更なる活躍のできる選手だと思います。
 北九州は2017年までJ1昇格の可能性はないようですが、昨年は良いチームを作っていましたし、来年も面白いチームになりそうな気がします。
 残念な想いも残りますが、新天地での飛躍を祈っております。