山口慶、現役引退を表明

山口慶選手 現役引退のお知らせ(ジェフ公式サイト)


 昨日、山口慶が13年にわたる現役生活からの引退を表明しました。
 慶は2010年、ジェフがJ2に降格した年に名古屋から移籍。
 ちょうどその頃、正式にテクニカルダイレクターに就任した、元名古屋の神戸氏のルートでジェフ加入となったのではないかと思います。
 また当時江尻監督はプレッシングサッカーを目指していた印象もあり(実際に実現できたとは言い難いですが)、運動量豊富でアプローチが早くカバーリングに長けた慶のような選手を望んでいた部分もあるのではないでしょうか。


 慶のジェフ初年度となった2010年は27試合出場。
 開幕戦でスタメン出場しその後一時期は試合から遠ざかったこともありましたが、夏からはボランチのレギュラーとして確固たる地位を確立します。
 勇人、工藤、慶と走れる選手を並べた中盤の中でも、特に慶は良く走り守備面で大きく貢献していました。
 ただ、一方でサイズに関してはどうしても悩ましい部分がある構成でもあり、そこが1つの悩みとなっていました。
 慶も単純な守備能力は高いのですが、身体的には恵まれた選手とはいないため、アプローチは速くともボールを跳ね返す、ボールを奪いきるという点においては課題も感じられました。


 すると翌年にはドワイト監督が就任し、オーロイ、ゲッセル、竹内などといった大柄な選手を補強して、前年とは極端に異なる方向にシフトしていきます。
 センターラインは長身な選手が多く起用され、慶はボランチから外れることに。
 しかし、中央を固める分サイドにはスペースが出来る傾向もあって、カバーリング能力の高い慶は右SBでレギュラーとなります。
 リーグ戦36試合出場は、慶にとって最多出場の年となりました。
 ここでも主に守備面で貢献。
 前年から攻撃面においては物足りなさの感じるところがあった慶ですが、この年はロングボール主体のサッカーだったため、SBの攻撃力などはあまり重要視されない年だったと思います。


 2012年には木山監督が就任。
 この年は慶にとって苦しいシーズンで、出場試合数も前年の36試合から8試合に激減。
 そのうちスタメンは2試合のみとなってしまいます。
 この年は右SBだけでなく左SBとしてもプレーしていました。


 2013年も序盤は出場機会がなく、夏場に負傷してしまいます。
 しかし、10月に行われた天皇杯FC東京戦でスタメン出場。
 この試合で素早いアプローチとカバーリング能力を見せ、120分間フルにプレー。
 J2とはスピード感の違うJ1選手に対しても引けの取らない、素晴らしいパフォーマンスを魅せてくれました。
 この試合は慶にとって、ジェフでのベストゲームだったのではないかとも思います。
 この活躍が認められ、リーグ戦でもレギュラーを獲得。
 右SB米倉の後方をカバーするなど、重要な戦力となっていきました。



 今季も序盤はレギュラーとしてプレーしていましたが、怪我のため戦線離脱。
 その間に兵働、健太郎のコンビが安定していき、復帰後もすぐに試合出場とはいきませんでした。
 正直、その頃は兵藤、健太郎のコンビが安定していたこともあって、慶は今季限りで契約満了の可能性もあるかなと思っていました。
 後方でカバーリングが出来てボランチ、SBをこなせる選手が控えていれば、確かに便利な存在だし安心もできる。
 しかし、ジェフはベテラン選手が多い状況であり世代交代を考えれば、例え控えだとしても慶のような選手にクローザーのようなタスクを頼るようでは、チームとして先には進めないだろう…と。


 しかし、シーズン後半に入ってから、状況は大きく変わります。
 関塚監督になって中央を固める方向の守備になったため、サイドにスペースが出来がちな状況になっていった。
 そこで右SBにはカバーリングの出来る選手が必要となり、再び慶がレギュラーポジションに付くことになります。
 考え方としては、ドワイト監督の頃とも近いものがあるでしょう。
 大岩ではカバーリングの面で期待できず、慶は今季終盤欠かせない存在となっていきました。


 ただ、あえて厳しい話をすれば、やはり攻撃面では物足りなさが残った。
 プレーオフ決勝でも左サイドが警戒され、仕方なく右SBの慶に展開するも仕掛けやクロスにおいて期待できるタイプではなく、右サイドでチャンスを潰してしまうシーンが目立った試合だったと思います。
 もしかしたらこのあたりが、引退の理由の1つとなった可能性もあるのかもしれませんね。
 本人としてはパスの重要性などを話していたこともあったわけですが、なかなかそれが実際の試合では形として出来ていない印象もありましたし…。



 今回のコメントを読むと、本人もやりきった…あるいは燃え尽きたといった想いがあっての引退ということなのでしょうか。
 プレーオフで3度敗退というのは、やはり選手としても大きなものがあるのか。
 あるいは、このタイミングでの引退発表ということで、契約満了が通達され他から良いオファーがなかったために引退を決意したのか。
 もしそうなのであれば、ジェフのフロントは相当な決意を持って世代交代を進めようということなのかなとも思います。


 チームとしては、慶の引退によってSBから広範囲をカバーして、守備面でチームの穴を埋めてくれる選手がいなくなるということになります。
 カバーリング能力の高いSBを補強するのは簡単ではないと思いますし、チームにとっても大きな課題を突き付けられたことになるのではないでしょうか。
 シーズン終盤は守備の課題が出てしまっていましたし、チームとして慶などのカバーリングに頼らない守備を作ることが出来るのか。
 来季に向けて、非常に大きなテーマということになるのかもしれません。


 慶の守備能力を考えるとJ2でほしがるチームもあったのではないかと思いますし、そう考えると引退は残念な部分もあります。
 ただ、一方でJ2は以前ほどではないとはいえ、やはり後方に長身選手を並べて跳ね返す傾向のチームがまだ少なくないとも思います。
 ロングボールを積極的に使ってくるチームも少なくないですから、そういった意味で慶には合わない部分もあったのかなとも思わなくもありません。
 だからこそ、逆にJ1チームが相手となった昨年の天皇杯FC東京戦では、慶のアプローチの鋭さや速さ、危機管理能力の高さやカバーリング能力が存分に発揮でき、慶の良さが目立った試合になったのかなとも思います。



 改めて今回の文章を書いていて残念に思うのは、江尻監督、ドワイト監督、木山監督…と継続性の一切感じない監督交代を行い、結果的に選手の立場・起用方針をころころと変えてしまったこと。
 しかも、今に至るまでほぼ1年単位で頻繁に監督を変えることで、ますます選手たちにとって悩ませてしい状況にさせてしまったのではない可と思います。
 その結果、慶はせっかくポジションを勝ち取ってもまたアピールをし直さねばならず、ポジションもボランチ、SB、ボランチ、SBと何度も変えさせられてしまったことになります。


 もちろん短い期間で見れば選手側にも課題や責任もあるわけですが、長期的に見ればこれほどまでに不安定な状況で選手を戦わせてしまったことが非常に申し訳ない。
 選手がサッカーに集中できる環境をつくれなかったことは、ある意味で共にJ1に昇格できなかったこと以上に、悔いの残ることではないかと思います。
 


 突然の発表で驚きましたが、本人も十分に考えた上で決めたことでしょうから、慶を応援する者としてもその決断をしっかりと受け止めたいところだと思います。
 13年間お疲れ様でした。
 本人のコメントにもあるように、今後も陰ながら応援していきたいと思います。