天皇杯山形戦で見えてきたもの
例年天皇杯準決勝はNHK地上波での放送があるのですが、アジア杯の影響もあり大会スケジュールが変更になって今年は準決勝が水曜開催となったためか、地上波放送はなし。
水曜開催な上に遠方での開催ということもあって、客足も厳しいものになりました。
もう一方のG大阪対清水戦が味スタで、こちらも観客が集まらなかったことを考えると、せめて開催場所を逆にできなかったんでしょうか。
場所は早期に抑えなければいけないという話が出ていますが、開催場所の交換くらいは出来てもおかしくないと思うのですが。
日程変更は仕方のない部分もあったと思うのですけど、運営方法などはもう少し工夫できるような気もするのですが…。
■序盤はベストメンバーの山形の流れ
ジェフは予想通りメンバーを変更。
レギュラーで残ったのは高木、キム、中村、健太郎、谷澤だけで、ほぼ半数のメンバーを変えてきました。
右SBには竹内、CBには大岩、ボランチには田代、左SHに井出が入り、前線はオナイウと戸島のコンビになりました。
こうなってくると、逆に出場していない選手が気になってしまいますね。
特に大塚は8月17日の熊本戦以来、公式戦の出場はなし。
怪我などもあったのかもしれませんが、ここ最近は練習試合に出場していますし…。
対する山形は、まさかのベストメンバー。
當間に代わってイ・ジュヨンが入っただけで、それ以外のメンバーは最終節東京Vと同じスタメンとなりました。
當間はこの試合出停止だったそうです。
試合は開始早々に動きます。
山形の左サイド、キム・ボムヨンからのクロスをファーサイドのヘディングで山田が落とし、最後はゴール前で山崎が合わせて先制ゴールをあげます。
このシーン、まずキム・ボムヨンへの対応が遅れてしまいました。
中に絞りがちな右SBの守備の外を取られて、フリーでクロスをあげられてしまった。
また、左サイド中村の対応もまずく、うまく落下点に入れていませんでした。
しかし、ここは失点シーン以外でも狙われていた印象で、ジェフは両CBが中央に絞りがちなので、SBがゴール前で競らなければいけない。
中村は身長こそあるものの空中戦での競り合いは苦手なため、スペースが空きがちなジェフの右サイドから逆サイドの中村を狙ってクロスを上げるという意図で攻撃の形を作ってきたのではないかと思います。
前半5分、山形の右サイドのCK。
石井がニアですらして、ディエゴがフリーでヘディングシュートもゴール右脇を逸れます。
前半12分、山形の攻撃。
山形ボランチがフリーになったところから左サイドへ展開。
キム・ボムヨンと井出がマッチアップすると、そこで縦に突破されクロス。
ディエゴがヘディングで合わせるも、GK高木がセーブします。
その直後には山形が左サイドでパスをつなぎ、1つ前のボランチがフリーになったところからミドルシュート。
高木がファンブルしかけますが、事なきを得ます。
先制後も試合は山形ペースで進んでいました。
山形はやはり3トップが掴みにくい。
ディエゴが下がったりサイドによってポイントを作ったりすることで、ジェフの守備をうまく避けながらタメを作る。
そこに連動して山崎と川西が動き、前に走り込んでいく。
これによって、ジェフの両SBがますます中央に釣られてしまい、ウイングバックにその外を使われてしまいました。
逆にジェフは前にボールを運んでも、なかなかそこに選手が絡んでいけず、単発の攻めばかりになっていたところがあります。
山形が押し込む展開が続いた前半序盤。
しかし、前半20分あたりから、試合が落ち着いていきます。
この時間帯から早くも山形の運動量が落ち、攻守の切り替えのスピードも下がっていった。
やはり中2日の試合で、体力的に厳しいものがあったのではないでしょうか。
そして、前半23分。
ジェフが右サイドからのCK。
大外で竹内が合わせて同点ゴール。
これがジェフのファーストシュートだったようです。
このゴールはGK山岸の脇を通ってのシュートで、多少ブラインドにはなっていたとはいえ、山岸の対応ミスだったと思います。
今季途中に浦和から移籍してきた山岸は精神的に重要な選手にはなっているようですが、山形に来てからも決してミスがないわけではないように感じます。
その後も両チーム、セットプレーからチャンスを狙います。
前半30分にはジェフ、左サイドからのFK。
中村が蹴ったボールをゴール前で相手に競り勝ったキムがヘディングで合わせますが、GK山岸の正面でゴールならず。
その直後の山形のCK。
宮阪の蹴ったボールをキム・ボムヨンがヘディングで合わせ、山形が追加点をあげます。
ゴール前で両チームの選手が密集したエリアから、ニアに走り込んでフリーになった形。
宮阪のボールも良かったですけど、完全にキム・ボムヨンをフリーになっており、ジェフの守備陣のミスと言えるシーンだったと思います。
■カウンターから決勝ゴールを許す
後半はジェフペースでスタート
後半2分、谷澤が前でタメを作って中村に落とし、中村が上げたクロスを戸島がヘディングでゴールを狙います。
後半7分には中村のクロスをGK山岸がはじき、井出が拾ってシュートを放ちますがGK正面。
そして、後半9分。
オナイウが前でためて、谷澤が受け、中央にドリブルで持っていってシュートを放ち、同点ゴール。
谷澤らしい、カットインからのゴールでしたね。
後半立ち上がりから、山形は明らかに動きが重くなっていました。
前からの守備が一歩、二歩と遅い。
そこを抑えきれないから、ジェフが楽にボールを繋げ、押し込むことが出来る。
中盤でも寄せが遅く、ずるずると全体の守備が下がっていきました。
また、攻撃でもディエゴがうまくボールに触れず、前線でタメが作れない状況に。
全体的に押し込まれて運動量が下がり、守備から攻撃の切り替えが遅くなっているため、良い形で前にボールを供給できなくなっていきます。
逆にジェフは1点ビハイドの状況もあって、後半開始から積極的に出ていったのだと思います。
その後もジェフが攻め続けますが、後半19分に井出に変えて町田を投入。
この辺りから勢いが落ちていきます。
町田をトップ下に置き、オナイウを右サイドに回したわけですが、ターゲットの一人となっていたオナイウが前方にいなくなった上、右サイドではビルドアップに絡めず、攻撃がうまく機能しなくなった印象です。
一方の山形は、山崎に変えてロメロ・フランクを投入。
宮阪を1ボランチにして前にインサイドハーフを2枚置き、ジェフのボランチを封じてきました。
これによって中盤の守備ラインの高さが改善され、守備に安定感が出てきます。
そして、後半26分。
中盤で山形がボールを拾ったところから、川西がボールを受けそのまま中央に持ち込むと、フリーになった右サイドの山田を使われそのままシュート。
これが決まって、山形の3-2となりました。
まず、中盤でボールを奪われた後にボランチ2人が守備で粘って時間を作れなかったため、他選手が戻りきれずにカウンターのような状態になってしまいました。
また、前半序盤にキム・ボムヨンへの対応が何度も遅れたように、誰が山田を見るのかという課題も出ていた。
この前のシーンでディエゴが左サイドに流れたため、竹内が前に出ていたことにより、最終ラインは3人になっていました。
中央にはボランチの松岡なども飛び出していたため、3-3の数的不利な状態になっていた。
そこに右サイドの山田も走り込んできたことによって、3-4の状態になったわけですが、この時に谷澤が下りてくるのか、それとも他の選手が穴を埋めるのか。
結果的に完全に相手に崩されて、やられてしまったことになります。
後半28分にはジェフの攻撃。
左サイドで谷澤、町田がパスをつなぎ、中村が受けてクロスを上げたところをオナイウがヘディングシュート。
後半30分には、山形が右サイドからのクロスをディエゴが受けてミドルシュート。
後半34分にもディエゴが中盤左サイドの1-2から抜け出して、カウンター気味にそのままゴール前まで持ち込みシュート。
山形は全体のラインが上がってサポートが増えたことで、またディエゴが攻撃に絡めるようになっていきました。
山中、ジャイールなどを投入し反撃したいジェフですが、その後はなかなか攻撃の形が作れない状況に。
後半ロスタイムに山形ゴール前からのこぼれた球を、中村が拾ってシュートを放つも枠外。
3-2で山形が決勝進出となりました。
■メンバーを変えたジェフと変えなかった山形
例年と1カ月ほど異なる開催で、中2日での試合でジェフはメンバーを変更した上、相手がJ2の山形ということもあって、どこか天皇杯準決勝らしくない雰囲気の試合になったのではないかと思います。
ただ、それはジェフなどのチーム側の問題ではなくて、アジアカップどの日程なども含めた日程や運営面の問題だと思います。
中2日でアウェイ連戦だったことを考えると、ジェフが大きくメンバーを変えたのも仕方のないところ。
山形がメンバーを変えなかったのは、石崎監督が組織や連携面を重視するタイプの監督だったからではないでしょうか。
例えばオシム監督などもカップ戦や代表によって過密日程になろうとも、怪我などがなければメンバーを固定することを基本としていたように。
関塚監督の場合はそれ以上に選手をどのように活かすかを重視する監督ですから、主力選手を休ませること、フレッシュな選手を使うことを選んだのでしょう。
どちらがいいかというのではなく、監督のタイプによる違いと言えるのかもしれません。
ただ、両チームにそれぞれ課題は出ていたように思います。
ジェフは単純にいつもと違うメンバーで、連携などに課題が見られたこと。
選手に関しても各々の課題が見られた部分があったと思うわけですが、そのあたりもチームとしては仕方のない部分もあったと思います。
もちろん選手個々には反省しなければいけないところですが。
一方で山形は中2日で同じメンバーだったため、かなり体力的にきつかったのではないでしょうか。
前半途中からすでに動きは落ちていたように見えましたし、後半開始直後はガクッと足が止まっていた印象でした。
それでも、何とか持ち直したといった展開だったと思います。
山形としてはこの後にプレーオフ初戦を迎えるわけですが、その試合でも体力面の不安は残ったということになるのではないかと思います。
ジェフとしては負けてしまったことはもちろん残念ですが、相手がベストメンバーで戦ってくれたために、プレーオフ決勝に進出する可能性がある相手の手の内が見られたという意味では良かったのではないかと思います。
ある程度は外から見てもわかる部分はあるものの、実際に試合をすることで見えてくる部分もあるのではないでしょうか。
攻撃に関しては、やはりディエゴを中心とした3トップの関係性とサイド攻撃。
山形を押し込みディエゴに良い形でボールを持たせなければ怖くはないものの、試合を通じて押し込むのは難しいでしょう。
特にディエゴへのマークの受け渡しと、3トップが中央で構えた時に両ウイングバックに誰がマッチアップするか。
サイドにスライドせず、SBが絞りがちな守備をするジェフなだけに、相手が3バックの時にウイングバックをどのように見るのかはやはりこのチームの課題だと思います。
また、山形はカウンターも鋭く、攻撃から守備への切替や中盤で相手を遅らせることなども重要になってきそうです。
ジェフは点を取りに行こうとすると、守備面で集中力を切らすところがありますから、一発勝負では特に気を付けなければいけないのではないでしょうか。
守備面では運動量が落ちると、ボランチエリアなどへのプレスが甘くなってくる印象です。
そこから相手を揺さぶって、サイドからクロスを上げる展開が狙いと言えるでしょうか。
山形はハードプレスがウリのチームではありますが、最終ラインの高さには課題があるように思いますし、押し込まれた時のバランスはあまり良くないようにも思えます。
また高さに関しては、セットプレーに関しても同様に高さの面で課題が見られるように感じます。
GK山岸も若干不安定な部分があるかもしれませんね。
ジェフのほうもメンバーを隠したとはいえ、SBが中に絞りすぎて外を取られてしまうことや中村の高さの問題。
1列前のボランチなどがフリーになりがちなことなど、戦術的な部分を狙われた印象があります。
それらは選手を変えても同様の問題が出ていましたし、個々の選手に関してはともかく、戦術面では手の内を隠し切れたとは言えないでしょう。
山形も中2日で疲労が感じられましたし、万全の状況ならあそこまで動きが落ちることはないかもしれない。
そのあたりはまだ見えてこないところもあると思いますし、しっかりとプレーオフ決勝の準備をしなければいけませんね。
ただ、磐田が勝ち上がってくる可能性もありますし、まずはプレーオフ初戦を待ちたいところですね。
天皇杯は残念でしたが、これまでもカードに恵まれて勝ち上がってきたところがありますし、まずはしっかりと昇格に向けて気持ちを切り替えたいところではないかと思います。