今季の監督交代による変化とそれぞれの監督の特徴

 今さらこういったテーマを話題にするのもためらいますが、先週山口智が「一喜一憂せず戦いの過程を重視すべき」と言った話を取り上げましたし、関塚監督のサッカーもようやく落ち着いてきたので、改めて分析してみたいと思います。
 一部では関塚監督になって、早い攻撃も出来るようになった、パスもつなげるようになった、守備も良くなった…と、何もかもが良くなったようにいうので、そこに対する疑問の投げかけでもあります。


 実際、サッカーに関して、そこまで劇的な変化は感じません。
 近年のジェフではドワイト監督から菅澤実質監督、ミラー監督から江尻監督、クゼ監督からミラー監督とシーズン途中の監督交代を経験してきました。
 それぞれ国籍も異なり考え方も大きく違う監督間での交代でしたから、当然のごとくサッカーも大きく変わっていきました。
 それだけフロントが「チームに変化を求める」という明確な意思を感じる監督交代でしたし、監督の選択はともかく交代のタイミングは理解できるものだったと思います。


 しかし、今回の監督交代は意図も未だに曖昧なままだと思っていますし、それらに比べるとピッチ上での大きな変化も感じない。
 監督の志向は多少違うもののやはり日本人監督同士の交代ですし、両者実績も十分あり複数のクラブに請われて指揮を執ってきたわけですから、それぞれ特徴もあるのでしょう。
 そういった状況ですから、変化があったとしても、当然メリットもあればデメリットもある。
 監督が変わってすべてが良くなったと言うのは、ずいぶんと偏った意見だと思います。



 関塚監督が就任してからの変化を改めて考えると、まず守備ではDFラインが比較的深く守り、SBは中央に絞って、ボランチも後方に構えるようになった。
 ようするに、ゴール前のスペースを作らないことを重視している印象です。
 これによりCBの裏を取られることが少なくなり、カウンターでピンチになる回数が減った印象があります。
 特にDFリーダーである智は裏へのスピードには課題も見られたので、その穴を埋められるようになったのは大きいと思いますし、智にとってはやりやすい守り方なのではないでしょうか。
 カウンター対策は長年苦手としてきた印象がありますのでそこはプラスと考えられるでしょうし、ゴール前での粘りは増したようにも思います。


 しかし、その分どうしても押し込まれることが増えるので、守備で主導権を握れず相手にボールを持たれる時間帯が出来てしまうこと。
 SBが絞ることにより、サイドの大外にスペースが出来がちなこと。
 一度深いところまでボールを持ち込まれると、その1つ前の選手がフリーになりがちで、遅攻時にそこから崩されることがあることなどが課題としてあげられます。


 全体のラインの問題に関しては町田、幸野、勇人、山口慶など運動量があって攻守の切り替えが早く守備で計算できる選手たちを並べることでプレスが機能するようになったこと、前への飛び出しに特徴のあるGK高木が入ってDFが押し上げられるようになったことで改善されつつありますが、運動量が落ちたり一度攻め込まれたりするとDFラインが一気に下がってしまう。
 その結果、「試合の立ち上りは高いラインを維持できるものの、前半途中の早い段階でラインが下がってしまう」という問題が見られるように思います。 
 また、運動量は豊富なものの高さのない選手たちが増えたことで、セットプレーでも課題が見えつつありますね。


 これらの傾向は似通ったサッカーをしていた木山監督時代にも見られた課題で、特にサイドに広大なスペースが出来てセンタリングを上げられてやられるパターンが多く見られました。
 しかし、木山監督の頃はセンタリングからの形を狙われていたのに対して、今のところそこまでやられていないのは対人に強く高さのあるキムの存在・成長が大きいのではないかと思います。



 一方、鈴木監督は湘南戦の大敗以降から4×4のボックスで戦ってきました。
 極端に引くこともなくバランス型の守備ブロックといった印象で、ピッチを等間隔に守るオーソドックスなディフェンスを目指していたように思います。
 例えばサイドでもSHとSBだけでなくボランチがフォーローするなど、組織的な守備を作ろうとしていたように思います。
 4×4でバランスがとれるようになったため、前からのプレスに関しても"ハイプレス"とまではいかないものの、ある程度維持できていたといえるのではないでしょうか。


 そのため、兵働のような選手でも周りの組織もあってボランチで起用することが出来ていた。
 しかし、一方でカウンターなどによって、一発で裏を取られることも多かった。
 これは攻撃時にSBなどのポジションが高く、全体的に前掛かりで攻撃的なサッカーを目指していたことも関係しているのでしょう。
 守備におけるリスク管理に関しては課題もあったようにも思いますが、押し込まれることは少なかった印象で。
 どちらの守り方にも一長一短があると言えるでしょう。



 一方の攻撃においては、現状のチームにおいての課題はやはり遅攻で崩せないこと。
 町田やボランチなどがサイドに流れてサイドでボールを繋ぐということはできているものの、それは今までの遺産と町田個人の能力というのが大きいでしょう。
 先日の磐田戦でようやくパスワークから崩してのゴールを作ることが出来ましたが、それまでは崩すところすらも作れていなかった。
 町田が大塚などからスタメンを奪うまではサイドでもパスを繋げなかったですし、町田を降ろすと流動性も薄まりパスを繋げなくなることなどからしても、パスワークは町田頼りのところが大きいと思います。


 サイドにトップ下の選手が流れたり、ボランチが後方からフォローに行って押し上げる形は、鈴木監督が作り上げたもの。
 現在の問題はそこから相手の裏に選手が抜け出して、そこを使うというような3人目、4人目が効果的に絡んだパスワークによる崩しの部分であり、その形が監督が変わってからなかなか作れなくなってしまった。
 結局サイドでパスをつないでも相手の守備網の外である1つ下げたところからのアーリークロスやサイドの大外からのクロスというのが多く、ターゲットからは遠くなり有効なボールが上げられていないという問題があります。


 また中央からパスワークが作れていないことも大きい。
 例えば町田などは動き回ってボールを触りパスワークの潤滑になるだけでなく、相手の間を突いたバイタルエリアでのボールの受け方に特徴のある選手でしたが、関塚監督になってからバイタルエリアでボールを受ける形はほとんど見られていない印象です。
 遅攻時の中央でのポストプレーからの形も激減しており、どうしても相手にとって安全なサイドにボールを追いやられている印象が強い。
 相手からすれば中央からの攻撃やバイタルエリアというのは警戒しなければならないところであるわけですが、そこでパスワークを作れていない印象です。


 鈴木監督は、そのあたりのパスワークにおける崩しノウハウを持っていた監督だったと思います。
 サイドでトライアングルを作って素早くパスを回しそこから1人が飛び出して行ったり、CBが開き気味に受けて角度をつけてそこから斜め前方に縦パスを通すパターンもあった。
 ポストプレーからの展開も多く、サイドチェンジの形も作れていたと思います。



 一方で多く言われている通り、速攻からの攻撃に関しては関塚監督の方が作れています。
 ボールを持ったらまずFWを見るという意識付けがなされている印象で、相手の守備網が整う前に攻め込もうという狙いを感じます。
 ロングカウンター時のみならず、相手のゴール前に隙があればどんな状況でもそこを突こうと。
 この意識とパスワークで崩しきれない課題もあって、結果的に中長距離のラストパスというのが増えている印象です。
 そして、1対1や1対2の状況を作って、そこで選手に仕掛けさせて個人技で得点を狙うパターンがメインとなっています。
 このあたり攻守に川崎時代を思い出させるサッカーになっていると思います。


 率直な驚きとして言えるのは、早い攻撃を作ることによって決定力の課題が改善されたように見えること。
 考えてみれば当たり前とも言えるのかもしれませんが、遅攻時のパスワークによる崩しからの攻撃だと、完全に崩せても相手が引いている状況が多いので、スペースがなく角度が限定されていたり、シュートコースが限られていたり、選択肢も少なくなったりと、シュートの難易度が上がってしまう。
 一方で素早く攻め込んだ場合は個人技に頼る部分は大きくなるけれど、そこからの選択肢は多いので個人能力で相手DFに勝てさえすれば、決まる確率は高いのかなといった印象をうけます。
 結果的に関塚監督は個人での突破力のある選手を活かすのが得意な監督…といった印象を受けるという話は、以前にもしたと思います。



 ただ、基本的には相手の隙を狙うサッカーということになるわけで、1試合のうちにそこまで隙が出来るわけでもなく、確実なチャンスの数自体は以前よりも減っている。
 一方で鈴木監督の頃は遅攻で崩す形は作れていたので、確実に抜け出してのシュートは非常に多かったものの、シュートの難易度が高くそこで決めきれないことも多かった。
 相手の隙を狙ってのシュートの"確率"を狙うか、相手にかかわらず確実なチャンスを数多く作る"量"の狙うか…といった話になるのかもしれません。


 ちなみにFootball LABによると、今シーズン前半にシュートがゴールマウスに当たった回数はJ2ではジェフが1位で、2位が独走状態でチャンスも多かったであろう湘南でした。

【J2ゴールポスト・バーに当たったシュート数ランキング※前半戦終了時点】 1位 12本 千葉 2位 10本 湘南 福岡 4位 8本 北九州 5位 7本 山形 東京V 大分(twitter

 鈴木監督の頃はそれだけチャンスはあったものの、決めきれなかったということになるのでしょう。



 しかし、個人的に気になるのは、やはり相手のレベルが上がればより相手守備陣の隙も少なくなるのではないか…という問題。
 そして、最終的には個人技での勝負となるため、そこで勝てなくなった場合にどうなのかという点。
 似通ったサッカーをしていた木山監督時代にも、最後は限界を感じただけに、ここからどこまでチームを引き延ばせるのかという疑問はあります。
 だから、個人的には組織的な崩しを作れる監督の招聘を期待していましたし、斉藤TDも崩しの面の重要性は話していたはずです。
 実際、昨年のG大阪戦、神戸戦、天皇杯FC東京戦などでは正面から向かっていって相手を崩せていましたし、J1での戦いに関しては可能性を感じるものがあったと思います。



 極端に言うと速攻の関塚監督か遅攻の鈴木監督かという話になってしまいますが、実際にはどちらの監督も遅攻と速攻の両方を作りたいという話はしていました。
 鈴木監督ももっと前への飛び出しを増やすこととそこを使うことを指示していましたし、関塚監督もパスワークで崩したいという話は何度もしています。
 けれども、理想はそうであっても、両方とも成立させるというのは、簡単ではないのでしょう。


 有名な話として、岡田監督が横浜FM時代に「中央ではなくサイドから攻めろと言ったら、大事な中央を見なくなりサイド攻撃ばかりになってしまった」という話をしています。 
 サイドか中央か、遅行か速攻かというのはあるのでしょうけど、どうしてもどちらかを指導していくと、一方に偏ってしまう部分はあるのでしょう。
 もちろん理想は両方なのでしょうけど、当時の横浜FMでも難しかったのですから、現実としては簡単ではないということ。
 これは守備でも同様のことが言えるのではないかと思いますし、どちらの監督が優れているのかというだけでなく、どちらのロジックが適しているのかという話にもなるのか知れない。


 ようするに、監督がいかに選手やチーム状況にあったサッカーが出来るのか。
 あるいは、クラブが必要とするタイプの監督を招聘できるのか。
 もちろん指導力があるかないかという点も大事なのは言うまでもなく。
 実際J2に降格してから数年のジェフは、経験の浅い監督を招聘して失敗してきたという事実もありますし。



 今だから1つ感じるのは鈴木監督は戦術家といった印象が強く、チームのベースを作ることにおいては優秀な監督ではありますが、チームを勝たせるという意味では若干課題もある監督だったのかなということ。
 実際に監督の経歴を見ても、新潟では十分成功している印象ですが、大宮でも鈴木監督交代以降に成功している。
 タイプは違うものの以前には石崎監督もチームのベースを作るのが得意な監督で、後にチームが成功するパターンが多いと言われていました。
 大宮もベルデニック監督の成功ばかり言われていますが、青木の育成など鈴木監督の貢献も決して少なくはなかったように思います。
 クラブとしてはベースづくりを期待していたところはあったのは確実なわけで、若手育成も含めその点においては十分効果はあったと私は思います。
 ただ、鈴木監督は生真面目な印象なので、イメージ戦略的な部分は苦手で、チームの外も含めて周りを盛り上げるのは得意ではなかったようにも感じます。



 一方の関塚監督は、逆にベースが出来たチームを引き受ける方が合っているのかもしれません。
 実際、川崎時代もJ1昇格に導いたわけですが、当時も前年に昇格あと一歩というところで監督を引き受けた経緯があります。
(ただ一方で当時は有名なシルバーコレクターで、大事な試合に勝てないというイメージも強いのですが…。)
 周りを盛り上げるのも得意な印象で、川崎時代には女性番記者にプレゼントを贈るなど、気遣いのできる方として有名だったそうです。
 ジェフの番記者も早々に落とされていた印象ですしね。


 しかし、川崎では成功したとはいえ、磐田では選手からの求心力の低下から失敗に終わったといわれています。
 その理由として戦術の軸が定まらなかったことが上げられているようで、ジェフでも細かな戦術を作り上げるのは得意ではない印象を受けます。
 実際、監督就任後には3ボランチ、3バック、6バックなど様々な戦術をころころと試してきましたが、どれも失敗に終わって現在は使われていません。
 アンカー脇を埋められないのに運用した3ボランチや中村をCBに起用した3バックなどを、もしチームが白紙の状態でそれをやられていたら…と考えるとゾッとする思いです。
 実際にはシーズン途中の就任ということもあって、鈴木監督の作ったベースもあったため一度そこに戻ったことで、大きく迷走することなく軌道修正できたように思います。
 磐田時代に関しては詳しくないですけど、世代交代のさなかで一からチームを作らなければいけなかったため、その役割には向いていなかったのでは…と思わなくもありません。



 冒頭の「戦いの過程」に戻ると、ここ数試合に関しては結果は出るようになったものの、大分戦、群馬戦と試合終了間際に勝ち越しゴールを決めての勝利。
 磐田戦でも2-2の引き分けで勝ちきれなかったことなどを考えても、成績ほど安定した試合内容ではないといった印象をうけます。
 それを支えているのが現在の勢いではあるわけですが、この勢いはどこまで続くかわからないし、勢いだけではいつかは止まってしまうでしょう。
 戦術家タイプではないだけに勢いが重要なのでしょうが、逆にその勢いが止まった時にどう立ち回れるかが問題なのかもしれません。


 プレーオフまで、この勢いが続くのか。
 あるいは今季残り試合はこの勢いで乗り切れたとしても、それ以降もこの勢いが続くとは限らないでしょう。
 チームの勢いも大事ではありますが、それ以上に冷静にチームの過程を見極める姿勢というのも必要なのではないかと思います。