2-2となった磐田戦で得られたものは

 J1昇格プレーオフ圏内で順位を争うジェフと磐田との対戦。
 かつてはJ1上位でライバル同士だった相手でもあり、因縁浅からぬ過去もあります。
 11月に入り気温も低くなり始めたこの時期にナイトゲームで、しかも雨。
 またチケットを配ったという噂も耳にしましたが、予想以上の観客がフクアリに訪れました。


 試合に関してはジェフからすると磐田の出来の悪さもあったとはいえ、ここ数試合の中では良い内容だったのではないでしょうか。
 それでも残念ながら、結果は引き分けに終わってしまった。
 過去2試合は内容が悪かったものの幸運もあって勝点3をものに出来ていたわけですから、ここ数試合をトータルで考えれば内容以上に勝点を稼げた印象もあると思います。
 毎回劇的な展開を期待する方が無理な話だと思いますし、勝点という意味ではあまり贅沢は言えないように思います。
■前節群馬戦に続きCKから失点
 健太郎が出場停止となったジェフは、スタメンやはり兵働を使ってきました。
 ベンチからはオナイウが外れて、ジャイール、田代が入りました。
 磐田は前節と同じスタメンになっています。


 試合序盤は両チームによる中盤でのせめぎ合いが続きます。
 フクアリの雰囲気やお互いのチームにおけるプライドなども感じ、ハイテンションな立ち上がりとなりました。
 基本的にはジェフは長めのボールを前に出し、磐田はSBやボランチ、DFを使ってパスを丁寧につないでこうという印象。
 ジェフの守備網の穴である、一度下げられた後の"1つ前"のスペースを使って、そこからビルドアップしていく意識を感じました。



 前半12分、ハーフウェイラインを少し越えたところから、勇人がDFラインの裏を狙ったパス。
 森本が抜け出してシュートまで持ち込みますが、シュートは枠をとらえきれません。
 前半16分には山口智からのロングボールに左サイドを飛び出しだ中村が、切替して右足でシュートを狙うも大きく枠を逸れます。


 このシーンは谷澤が中盤に降りてきた動きに磐田の右SBがつられ、サイドの裏のスペースを空けてしまったもの。
 前半10分にも磐田の右SBが大外に開いた町田に釣られて谷澤が完全にフリーになってボールを受けることができていましたし、この時間帯の磐田は右サイドはあまりにも簡単にジェフにスペースを与えすぎていました。
 そして、磐田の守備陣はサイドで相手をフリーにさせてしまうため、どうしても最終ラインが下がっていきました。



 この時間は若干ジェフペース。
 しかし、磐田もやられっぱなしというわけではなく、駒野、松井の左サイドから個人技で徐々に攻撃を作っていきます。
 後半19分には、磐田の右サイドからCKのチャンス。
 小林祐希が蹴ったボールを、フリーになった元ジェフの藤田がヘディングシュートを放ちます。
 GK高木の正面で事なきを得ますが、危ないシーンでした。


 その後はまた均衡状態が続き、両チーム有効な攻撃が作れずにいました。
 試合が動いたのは、前半30分。
 磐田左サイドからのCKを、伊野波が左足で決めて先制ゴールとなります。
 このシーンでもまず前で藤田が潰れて、こぼれたボールを伊野波が拾って決められてしまいました。


 藤田のマークは中村だったわけですが、前節群馬戦でも中村はCKで青木孝太に入れ替わられて失点しています。
 磐田はそれを見て、中村を狙ってきた可能性があるように思います。
 その前のCKでも藤田をフリーにしていましたので、やれるべくしてやられたゴールと言えるのではないでしょうか。
 ジェフとしては、2試合連続でCKから失点してしまったことになります。



 得点が動いてからは、ジェフがボールを持つ時間が長くなりました。
 磐田の守備の意識が高まっていった印象で、簡単にサイドなどでフリーになる選手が出来るような状況はなくなります。
 ジェフからするとボールを持てるものの裏を狙えるスペースなどがなくなり、押し込んでも相手を崩しきれず決定的なチャンスは作れない展開になっていきます。


 前半38分には中盤でボールを奪ったところからパスをつなぎ、ワンツーで受け直した町田がミドルシュート
 しかし、これもDFライン前からの距離のあるシュートで、確実性は低いものでした。
 その後もジェフがボールを持ち込む時間が長かったですが、チャンスは作れず0-1で折り返します。
■打ち合いの末2-2で試合終了
 両チーム、チャンスらしいチャンスもほとんどなく、あまりゴール前での動きはなかった前半。
 ただ、前半得点が動いてからは、磐田は守備の時間が長くなっていました。
 残り45分を守りきるだけの守備力も感じなかったし、そもそも"守りきる"といったタイプのチームでもないでしょう。
 「あのままでは磐田は守り切れないだろうしチャンスはありそうだよね」という話を、ハーフタイムにしていました。


 後半開始直後、右サイドで幸野と森本がワンツーでつないで前方の勇人へパス。
 勇人のシュートはGKに阻まれ、もう一度勇人が拾ってシュートを放ちますが、これもGK正面。
 その後もジェフがボールを持ち込み、磐田がカウンターで攻め込む展開が続きます。


 磐田は攻撃に移っても加速する選手が少なく、守備でも一歩一歩の出足が遅く、局面の激しさを感じませんでした。
 しかし、後半6分には磐田がカウンターで前田が持ち込み、磐田が2対3の状況を作ります。
 前田のパスを前方で受けた小林が、反転してそのままシュート。
 ゴール右隅をかすめる鋭いシュートで、ジェフからすればヒヤッとする展開でした。



 同点ゴールが生まれたのは後半9分。
 ジェフの左サイドからの攻撃。
 左サイド大外から谷澤、町田、森本とつなぐと、森本への磐田のマークが甘く、森本が縦に抜き出ます。
 森本が中央につなぐと、今度は幸野が完全にフリー。
 そのままシュートを放って、同点弾となります。


 このシーンも磐田はどうも守備が甘かったですね。
 中盤から上がってきた森本へのマークが遅れただけでなく、マーカーが切ったコースはなぜか縦ではなく横。
 当然森本は縦に行きますし、そこに遅れて別の選手がカバーにいったために幸野が完全にフリーになった。
 磐田の守備は前半からマークの受け渡しがうまく出来ておらず、チェックに行った裏のカバーも出来ていませんでした。
 磐田は失点後、選手同士で言い合っていたように見えたのですけど、その気持ちもわかるような守備の動きでした。


 ジェフからすれば、素早くそのあたりを交わしたとも言えるのでしょう。
 細かなパスワークから得点が決まったのは、関塚監督になって初めてのことではないでしょうか。
 後半11分には勇人に変えて大岩を投入。
 大岩が右SBに入って、慶をボランチに変えてきました。


 押せ押せの状況が続いたまま、後半15分。
 左サイド若干中央よりのエリアから、前の空いた中村が思い切ってミドルシュート
 コースは決して良く無くGK八田の正面でしたが、これをファンブル
 谷澤が拾って最後は大岩が決め、ジェフがこの6分間で逆転します。
 雨でスリッピーな状況ではあったのでしょうが、あそこで前にボールをこぼしてしまっては厳しいですね。
 八田は1失点目もPA前方まで出てきたにもかかわらず、幸野を潰せもせず中途半端な対応で失点していますが、ここでも決定的なミスをしてしまいました。

 

 流れは完全にジェフだったわけですが、2-1としてからは磐田がボールを持つ時間帯が長くなっていきます。
 逆にジェフは守備意識が高まっていきカウンターを狙いますが、攻撃時にかける人数が確実に減っていきました。
 無理をする展開ではないのはもちろんでしょうが、磐田も個人技はあるだけに守りに偏り過ぎるのは心配な印象もありました。


 磐田がパスをつなぎ、ジェフが守る展開が長く続き、両者有効な攻撃が作れない時間に。
 しかし、後半27分。
 後方からボールを受けた慶が、相手のチェックを避ける形で長いバックパス。
 しかし、このバックパスが精度を欠き、大岩とキムの間に流れてしまいます。
 これを途中出場の山崎が奪ってシュート。
 一度は高木が止めますが、再び山崎が拾って同点ゴールを浴びます。


 まず、慶のバックパスがずれたことが失点の大元だと思います。
 近くでは智も受けられるポジショニングを取っていましたし、アバウトなバックパス出した時点でピンチにつながる可能性はあると考えるべきでしょう。
 続いてキムと大岩が、お見合い状態になってしまった。
 スロー映像で見るとキムが手で自分が対応すると合図を送っていたのに大岩が来てしまったため、結果的にその間を抜かれて山崎に突破を許してしまいました。
 2つのミスが重なった失点と言えるのかもしれません。



 同点後、ジェフは町田に代えてケンペスを投入。
 今回の試合でも町田を降ろすと、中盤の流動性は薄れパスワークも機能しなくなっていきました。
 しかし、相手のDFラインに高さの課題があるため、そこを狙う意図があったのでしょう。


 後半35分には幸野に変えて、ジェフ復帰後リーグ戦初出場となるジャイールを投入。
 個人技での打開を期待したのでしょうが、ここでの投入は意外でした。
 これまでの流れなら、井出が出てくるところでしょう。
 しかし、ここ数試合の井出は出場機会が減って、一時期の勢いが落ちてしまった印象です。
 ただ、この日のジャイール天皇杯長崎戦よりは動けていましたが、相手を抜き切れない場面があるなど効果的な交代策とは言えませんでした。



 同点後、両チーム攻撃に賭ける人数が高まり、カウンターの打ち合いになっていきましたた。
 しかし、なかなか決定的なチャンスは生まれない。
 同点直後にはカウンターで駒野が切り込んでシュートも枠外。


 次のチャンスは後半40分までなく、ジェフが右サイドのセンタリングからケンペスが競り勝ってヘディングシュートを放つも決まらず。
 その直後には、磐田の決定機。
 ジェフの右サイド、ジャイールが守備に遅れたところから中盤でフリーの選手を作られ、そこから裏へのボールを出されて山崎が抜け出します。
 GKと一対一になったものの、高木が何とか反応して凌ぎます。
 これが試合終盤、一番のビックチャンスだったのではないでしょうか。


 後半45分には、磐田のCKから前田がヘディングシュートも枠外。
 ロスタイムにも磐田の山崎がジェフの大岩と谷澤をひきつけ、前方にパスを出すと前田がDFラインの裏に抜け出します。
 前田がキープして山崎につなぎシュートを放つも、GK高木がセーブしてCK。
 しかし、そこで得たCKは蹴らずに時間切れで試合終了となりました。
■この試合一番の収穫は
 試合終盤は殴り合いの様相も呈していましたが、終盤は若干磐田ペースだったように思います。
 ここ2試合、試合終盤に得点を奪ってきたジェフですけど、流石にそう毎試合は帳尻を合わせられないですね。


 「ラインが低い」といっても、自発的に後方に引いて守るチームと、下がらざるを得ずにズルズルと下がるチームとではかなり状況が異なると思います。
 この日の磐田のラインは前節対戦した群馬と同じかそれ以上に下がっていた印象でしたが、群馬はジェフの攻撃を受ける準備をした上で待ち構えて守っていた。
 磐田はまず右サイドの守備の穴があって、ズルズルとラインが下がって、そこから大きく状況は変えられなかった。
 かとって前からの厳しいプレスがあったわけでもないし、後方に背の高い選手などがいて跳ね返すような守備でもなかった。


 磐田はここ数試合、CBなどが人に食いついていってボールを奪う形をやっていた印象だったのですが、それもこの日は出来ていなかったですね。
 一歩目の出足も遅く、カウンター時も試合終盤まで反応する選手が少なかった。
 単純に運動量も足りていなかった印象で、コンディションが悪いという問題もあったのではないでしょうか。
 若干乗り切れていないというか、自信のなさのようなものも感じましたし、2試合勝ちなしで雰囲気も良くないのかもしれませんが。


 それでも攻撃に関しては小林祐希、松井、山崎、前田など、それぞれタレントはいると思います。
 セットプレーの精度も高かったですし、試合終盤の攻撃にはキレも感じました。
 しかし、エンジンがかかるまでに時間がかかり過ぎたこと。
 そして、なによりも守備の軽さが目立った試合だったように思います。
 磐田は昨年も守備の課題を抱えているように思いますし、今に始まった問題ではないのかもしれませんね。
 その昨年の監督が関塚監督だったわけですから、なんとも複雑な部分がありますが…(笑)



 ジェフはそのような相手の状況もあったとはいえ、冒頭で言ったようにここ数試合より内容は良かったと思います。
 選手たちの運動量では完全に相手を凌駕していましたし、コンディションもよさそうに思えます。
 勢いも確実にこちらの方が上だったでしょう。


 1点目に関してもようやくパスワークで崩せた展開。
 ただ、群馬戦でも同じようなことをやっていたけれど、全く崩せなかったことを考えると、磐田相手だったから崩せたというのが大きそうです。
 磐田が中途半端に人について前に出て来てくれるから、少しずつずれてフリーな選手を作れる。
 群馬はゾーンで簡単には潰しに来なかったから、その守備網をずらしきれなかった。
 その差は非常に大きいと思います。


 とはいえ、全体的にはここ数試合よりは、良い攻撃が出来ていたのではないでしょうか。
 ただ、少し気になるのは前節群馬戦もそうでしたが、押せ押せの状態ではゴールを決められるけれども、それ以外では得点が生まれていないこと。
 ジェフにはありがちなことですが、この試合でも2得点後は勢いが落ちてチャンスをなかなか作れなかった。
 関塚監督になって「早い攻撃が出来るようになった」といわれていますが、ロングカウンターではチャンスを作れていないので、守りに入ってしまうとそこから攻撃の形が作れない。
 結果、守備の時間ばかりが長くなってしまい、苦しい状況になってしまう部分があるように思います。



 守備に関しては2失点目が悔やまれますが(とはいえジェフの2得点目も相手GKのミス絡みでしたが)、ミスからの失点なだけに連携面も含めて個々が注意力を怠らないように集中していくしかないですね。
 大岩は途中投入で得点を決めていただけに、意気込みすぎてしまった部分があったのでしょうか。
 それよりも、今後の試合を考えるとセットプレーで2試合連続で中村を狙われて、やられてしまったことの方が気になります。
 町田、幸野、勇人、健太郎、慶と運動量があってカバーリングの得意な選手を入れていますが、その分高さのある選手は減ってしまっています。
 その結果、中村が高さのある相手と対面しなければいけない状況になっているわけで、セットプレーに関しては大きな課題となる可能性があるように思います。



 この試合で感じたのは、ともかく磐田の状況が良くないこと。
 ジェフとしては、意外とこれが一番の収穫だったかもしれません。
 このままいけばジェフは磐田とプレーオフで対戦する可能性があるわけですから、その磐田の状態が良くない、磐田に勝てる可能性があるということを、身を持って体感できたことは、非常に大きいのではないでしょうか。


 ただし、この試合で勝ちきれなかったこともまた事実。
 このままの状態でプレーオフまで突入すれば、磐田は順位が上になるわけで、引き分けではジェフの敗退となってしまいます。
 加えてこの試合はジェフのホームでもあり、上の順位を狙うのであればジェフは磐田に勝ちたかった試合だったと言えるはずです。
 逆に言えば磐田からすれば順位を保つことやアウェイであることを考えれば引き分けでもOKともいえる試合であり、2-2の引き分けという結果はどちらかといえば磐田の望む結果だったと言えるのではないでしょうか。


 言わばプレーオフ前哨戦とも考えられた、この試合での引き分け。
 試合結果から言えばジェフは満足できるものとは言えなかったわけで、プレーオフで対戦した時にリベンジできるかどうか。
 磐田とすれば終盤のサッカーを、より早い段階から出来るかどうかというとこでしょうか。
 プレーオフまでにしっかりとした準備をしなければいけませんし、この試合も両チームにとって大事なデータとなることでしょう。
 プレーオフ対決は、すでに始まっていると言えるのかもしれません。