山口智「一喜一憂してしまうのがこのチームの悪い癖」

 明日、ジェフはホームフクアリで磐田を迎え撃ちます。
 磐田は現在3位で勝点64、ジェフは5位で勝点61。
 得失点差は磐田が+14でジェフが+10なので、ジェフが大勝すれば順位が入れ替わる可能性があります。
 関塚監督としては古巣との対決ということになるわけですね。


 1年でのJ1昇格を目指す磐田ですが、22節に松本山雅に抜かれ3位に後退すると、それ以降の順位は不動。
 9月末にはシャムスカ監督を解任し、監督初経験となる名波監督が就任します。
 しかし、名波監督就任からここまで2勝1敗2分と成績面では大きな向上が見られず、現在も2試合連続で引き分けとなっています。



 守備面ではボランチやDFが積極的に人に食いついてボールを奪おうという意識を感じ、そこが名波監督の初戦となった愛媛戦ではうまくはまった印象を受けます。
 しかし、食いつき気味の守備なので、どうしてもそこを外されると大きな穴を作ってしまい、2戦目以降はそこを研究されてやられている部分もあるように思います。
 オシム監督時代のジェフに当時「攻撃は面白いけど守備戦術はマンマークで古い」と話していた名波監督ですが、自身が監督になると意外とマンマーク気味の守備になりましたね…(笑)
 もっとも指導歴はない名波監督ですから、特に守備戦術は鈴木秀人コーチの指導が大きいのかもしれませんが。
 加えて守備では、守備陣の高さに関する問題も出ているように思います。


 攻撃に関してはパスをつなぐ意識は強いのだけれど崩しきれず、現在とジェフと同じような印象を受けます。
 名波監督が就任したこともあってか、ボランチを使った速いサイドチェンジの意識は磐田の方が強いのかもしれません。
 しかし、サイドにボールが移ってもそこに反応する選手が少なく、連動した3人目、4人目の動きが出てこないため、パスワークから抜け出す選手が作れていない。
 相手守備組織の大外を回ってボールをつなぐしかなく、そこからクロスを上げざるを得なくなっている印象です。


 結局、松井の仕掛け、前田のヘディング、駒野などのセットプレーに頼っている印象が強く、そこもジェフに似ている部分ではないでしょうか。
 現役時代は天才的なファンタジスタだった名波監督ですが、監督としてはまだパスワークのノウハウを持ち合わせていないのかな…といった印象です。
 それでもそれぞれの個の能力に対しては、十分注意しなければいけないでしょう。



 対するジェフですが、このところは結果も出ているので、ここ数試合のスタメンは不動となっていました。
 しかし、磐田戦では健太郎が出場停止。
 メンバー変更を余儀なくされます。


 町田、幸野、勇人、健太郎、慶など、かなり守備的で自らバランスをとれる選手をスタメンに並べている現在のジェフ。
 これ以上ないと感じるほどに、手堅いメンバーになっています。
 それだけに1人抜けると、なかなか次に計算できる選手がいない状況にもなっていますね。



 代わりにスタメンとなるのは誰か。
 田代もボランチのできる守備的な選手ですが、関塚監督が就任してからリーグ戦では出場がないことを考えると、いきなりスタメンはないように思います。
 慶をボランチに回して大岩を右サイドに起用するケースも考えられますが、慶は大分戦のボランチ起用は上手くいかなかったし、右SBには広範囲を守れる選手を置きたいのではないかと思います。


 前節途中出場からボランチとして出場したことも考えると、やはり兵働が第一候補として考えられるのではないでしょうか。
 守備や運動量には難がありますが、今週話してきたとおり、スルーパスなどの特別な武器や現在不足がちな展開力を期待できる選手。
 こういった形ではありますが、新たな可能性を試せるチャンスになるのかもしれません。


 関塚監督というと、川崎では外国人FWを並べていた印象がありますが、現状だと穴のない選手を好んで起用しています。
 ケンペス、兵働なども就任当初は起用していたし、ジャイールなどをベンチにおいていたことなどを考えると、使いたい気持ちはあるけれどもうまく使えていないというところなのでしょうか。
 しかし、実際にはキムを除くと純日本人スタメンとなっており、キムも韓国人選手ということで日本人の特性に近い部分があると思います。


 そのあたりも含めて、やはり木山監督のやり方に似ている印象で、関塚監督の監督としての評価は木山監督をどう評価していたかに通ずるところがあるのではないでしょうか。
 2人とも戦術家というよりもセレクター型の監督ですから、守備などに課題のある選手を起用すると、そこからチーム全体における穴が出来てしまうというところがあるのかもしれませんね。



 現状の磐田とジェフにおける一番の違いは、何よりも勢いではないかと思います。
 ジェフとしてはその勢いを維持して、相手を押し切る展開が期待されるのかもしれません。


 しかし、ここまで勢い先行だと、なんとなく2008年の残留劇を思い出します。
 あの時も内容以上に、一時期の勢いで結果を残した印象が強かった。
 しかし、翌年にはそれによって勘違いを起こして、チームは一気に失速してJ2降格にまでいたってしまいました。


 現在の勢いも監督がもたらしたものという以上に、サポーターが後押しした部分が大きいのではないかと思います。
 ここ数年失点などをするとフクアリの雰囲気が一気に落ち込む印象が強かったのですが、先日の大分戦の同点弾を受けた後は、落ち込むどころか巻き返そうと盛り上がった印象で。
 あの場面、「今までのチームなら…」という人も多いようですが、個人的には「今までのサポーターなら…」という印象の方が強かった。
 むしろ変わったのは選手や監督ではなく、サポーターも含めた周りではないかとすら思いました。
 なぜ今までもそういった雰囲気が作り出せなかったのか…。
 チーム状況もあるとはいえ、あまりにも極端な印象で、少しでもそれに近いものが出来なかったものか…。



 残留争いで勝ち残った08年も、サポーターはブーイングを一切しないなど、それまでとは打って変わって前向きな姿勢での応援が行われていました。
 07年には試合前からアマル監督にブーイングが起こるなど、劣悪な雰囲気でした。
 今回もそれに近いものを感じるわけで、ジェフは過去の何かを踏み台にしなければ、反発して上がっていけないということなのでしょうか…。


 ジェフ公式サイトにある「ただの「楽しい」じゃ終わらない」というフレーズも、個人的には信じられないコピーだな…と感じました。
 鈴木監督が就任時にサッカーを「楽しむ」大事さを説き、2年目の今年「FUN」というスローガンを掲げたわけですが、関塚監督になってあえてのこのフレーズ。
 過去を否定するような内容で、フロントはそうやってどこかに責任を押し付けるようにしなければ、クラブを盛り上げていけないと考えているのか。
 果たして、そんなクラブが本当にJ1へ昇格出来るだけのふさわしい存在になれるのかどうか…。



 そんなことを思い悩んでいたころに、先日サッカーダイジェストWebに掲載された山口智のインタビューにちょうどこんな話が出ていました。

「1試合の勝利で喜びすぎたり、逆に負けて落ち込みすぎたりと、試合ごとに一喜一憂してしまうのがこのチームの悪い癖。勝てばうれしいですし、負けたら悔しいのは、当たり前ですが、勝った時にもっと悪い部分にスポットを当てなくちゃいけない。一喜一憂するのは1試合ごとではなく1年単位だとか、そのスパンを伸ばし、チームとして、戦いの過程をもっと重視しなくてはいけないです」

 「一喜一憂し過ぎる」、「戦いの過程をもっと重視しなくてはいけない」という部分は、自分も近いことを考えていたところでした。
 まぁ、智の場合、"一憂"の方が強すぎる気もしなくはありませんが…。
 今のチームは完全に"一喜"の方が来ているわけですが、勢いだけではチームは続かないわけで、長い目で見ればどこかで苦しい時期は出てくるでしょう。
 その時に実力を持って、乗り越えていけるかどうか。


 前後しますが、智はこのような話もしています。

「これまで何度も監督が代わり、選手も入れ替わってきたため、ジェフには苦しい時に立ち返る原点がない。だから結果が出ないと苦しんでしまう。今年も一生懸命やって、でも監督交代という結果になってしまい、責任を感じています」
―チームの軸をしっかり作り出せていない要因は?
「監督が代わるごとにその人の色が出るのはもちろんなんですが、選手の共通理解やこれまでの蓄積をどう生かしていくかが大事で、一回一回途切れていては意味がない。」

 しっかりとチームの「戦いの過程」を見つめて、チームの原点、チームの軸を作れるか。
 結局はそこが根本なのだろうと思いますし、"一喜"だけでは本当の意味での強さは身に付かないように思います。



 もしこのまま一時の勢いでプレーオフを勝ち抜けたとしても、J1で全く結果を残せず降格してくるクラブも毎年のように現れている。
 その現実もしっかりと受け止めなはがら、残り試合を見守っていきたいと思います。