"打たせて勝つ"北九州の戦術にはまる

 まずお詫びと訂正を。
 先日、天皇杯長崎戦に延長戦の末ジェフが勝利した試合で、長崎相手に公式戦初勝利と書いてしまいましたが、2012年天皇杯2回戦でもジェフは長崎に1-0で勝利していました。
 何事も自分でしっかりと調べないといけませんね…。
 今後も情報の扱いには気を付けていきたいと思います。
■中盤の穴を突かれて失点
 水曜日に開催された天皇杯長崎戦で、大幅にメンバーを変えて戦ったジェフ。
 リーグ戦では顔ぶれが戻りましたが、それでも多少京都戦からメンバーを変えてきました。
 まず山口智が負傷のためベンチからも外れ、キムと大岩のCBコンビに。
 そして、右SBには山口慶が入りました。
 竹内が負傷中ということで、田代のCB起用、田中、佐藤祥のSB起用なども考えられたと思うのですが、慶できましたね。
 田代は天皇杯2試合連続で足をつっているということでその点で不安が残りますし、SBの守備力を優先したということでしょうか。


 また、リーグ戦ここまで2試合で、スタメン出場していたオナイウがベンチスタート。
 代わりに幸野がトップ下でスタメン出場となりました。
 リーグ戦では3節前の岡山戦以来のスタメンですが、天皇杯を120分間戦った直後でしたし、そこまでうまく行っていた印象はなかったので正直意外でした。
 一方で120分出場したケンペスは、ベンチにも入っておらず。
 アジア大会出場のため山中も外れて、代わりに田代、勇人が入りました。
 町田はこの試合でもスタメンなりませんでしたね。
 スーパーサブとして期待しているんでしょうか…。



 前半5分、ジェフMF井出が右サイドからクロスを上げて攻め上がっていた大岩がファーで落とし、谷澤がシュートを放ちますが惜しくも枠外。
 しかし、それ以降は北九州が落ち着いていき、北九州ペースとなっていきます。
 北九州の強みは、4-4-2によるフラットな3ラインによるボックスディフェンス。
 ポジションオリエンテッドな守り方で、上下左右にコンパクトで綺麗なボックスを作ります。
 ピッチ上の全エリアを10人で見ようというのではなく、10人一塊で左右にスライドしたり、上下に動いたりと組織だった守備をしている。


 例えばMFラインの前に相手ボールホルダーがいたとしても、ポジショニングを大事にして無闇にボールを奪いに行ったりしない。
 簡単に前に釣られてしまえば後ろにスペースができ、そこからボックスの守備が壊れる恐れがある。
 ボックスを維持することを重視しながら、全体で動いてボールサイドを潰しに行く。
 チームで組織的に戦えている印象です。



 この日はジェフのボランチエリアに3ラインの1つ列目を置いて、そこから等間隔で3ラインを守る形でした。
 ようするに、ジェフの4-2-3-1の「2」に相手FWの「2」がつく形です。
 点が奪いたい時や、相手によっては前に出てくることもあるチームだと思います。
 しかし、ジェフは基本裏狙いが多いチームなので、ラインを比較的低めに守ってきたということになると思います。


 これにより、ジェフの単純な裏狙いは機能しなくなります。
 ボックスの中にもうまくボールを入れられず、サイドにボールを回す展開に。
 それでもなかなか良い形でクロスを上げられず、サイド攻撃も相手に読まれていて、チャンスを作れない状況になっていきます。



 すると前半24分。
 山口慶が後方から相手を腕で押して、北九州がPKを得て先制します。
 このシーン、慶が押してしまったことよりも、後追いになったことが問題です。


 北九州の左SH内藤が大外でボールを持つと、ボランチにバックパス。
 すると、右ボランチの兵働と左寄りの位置にいた幸野が相手ボランチへチェックに行きますが、完全に遅れていて捉えきれません。
 その間に内藤が兵働が空けたスペースに入って行って、左SB富士が前に出てきます。
 また、FW池元もボールを受けに左寄りに。


 そこから、ボランチ、富士、中央でフリーの内藤とつなぐと、簡単にボランチの裏を取られる形で内藤、池元対慶との2対1の状況に。
 しかも、大外では富士もフリーになっており、内藤には前へのパスコースが2つもあったことになります。
 内藤は前方の池元にスルーパス、対応に困った慶は一歩遅れてしまい、後追いで倒してしまったということになります。


 ここ数試合、ボランチのケアがハッキリとせず、そこから何度もやられているジェフ。
 幸野をトップ下に起用してそこをケアする意図だったのかもしれませんが、結局トップ下を置いても状況は変わっていないのが実際のところです。
 組織的な守備が出来ておらず、中盤でどう守るのか約束事が曖昧。
 状況が違うとはいえ、北九州は明確な組織守備を形成していただけに、その差が鮮明に出てしまいました。



 その後一時期は北九州が攻めたてますが、それが落ち着くとまたジェフがボールを持つ時間が増えます。
 しかし、チャンスが作れないまま時間だけが進むと、前半45分。
 北九州右サイドからのCK、ゴール前中央でボールを跳ね返せず、大外で完全にフリーになった前田がフリーでシュート。
 これが決まって2-0に。
 大岩が前に出て行ったものの跳ね返しきれず、やられてしまいましたね。
■残り10分での反撃も…
 ジェフは後半開始と同時に、谷澤に変えて町田、兵働に変えてナムと2枚替え。
 しかし、前半も選手の動きが特別に悪かったとは思えなかったですし、状況は大きく変わりません。
 それよりもいかに得点を奪うのか、明確な意図が見えなかったことが問題なわけですが…。



 後半2分にはゴール目の前で得た近距離のFKを中村が直接狙いますが、GK大谷がセービングではじき出します。
 後半11分、北九州の攻撃。
 北九州が左サイドから右サイドへ大きく展開すると、ジェフの選手はボールサイドに一気に人数をかけて相手を潰そうとします。
 しかし、一度は町田と共に相手を囲った健太郎がボールを奪うも、すっと相手に奪われてそのまま中央までドリブルで持ち込まれると、最後は大岩の裏を抜けた池元へスルーパス
 池元と岡本が1対1となり失点し、これで早くも0-3となります。


 人に付く意識の高いジェフと、エリアを守る意識の強い北九州。
 守備の考え方が対極的で、どちらが良い悪いではありません。
 けれども、このシーンではジェフがサイドに選手が寄ってしまって、中央が薄くなっていました。
 そこでボールを奪われたので、そのまま一気にビックチャンスを作られてしまいました。
 1失点目の相手ボランチへの対応もそうですが潰しに行くのなら確実にやらなければいけないし、そうでないのならリスクをケアしてバランスを考えなければいけないはずですが、そのあたりが中途半端な印象があります。

 
 流れを変えるため、後半25分、慶に変えてオナイウを投入。
 大岩を右SBへ、健太郎をCBにさげて、ナムと井出をダブルボランチに。
 そして、森本とオナイウの2トップにします。
   

 すぐには状況が変わりませんでしたが、徐々に北九州にも疲れが見え始め、全体のラインが下がっていきます。
 ボランチもDFラインに吸収され、サイドへのスライドも遅くなり、ジェフのクロッサーに対しての対応が遅れてきます。
 すると後半37分。
 ジェフ右サイドからの展開で一度少し戻して、後方から上がってきたナムがアーリークロス
 これを胸で森本が落としてフリーになったオナイウがシュート。
 これが決まって1-3となりました。


 それまでの北九州はクロスを上げてもしっかりとボランチ、逆SBが等間隔で守り、CBと共にバランスよく対応していきます。
 ラインのコントロール、細かなポジションの修正が多く、それによってゴール前に穴を作らないだけでなく、セカンドボールを拾えていました。
 あるいは、セカンドボールを拾えなくても、ボックスの前で相手にもたせてミドルシュートを"打たせていた"と。
 けれども、この時間から疲れ始めてきて、ボックス全体の押し上げも弱くなっていきました。


 ジェフはパワープレー気味にサイドからクロスを上げ、拾ってミドルシュートという展開が続きます。
 しかし、北九州は押し込まれてミドルシュートを放たれても、シュートコースは制限していましたし、最後まで大崩れはしませんでした。
 ジェフは押し込むものの、右サイドからのクロス一辺倒となり、相手にとっては読みやすい状況だったのではないかと思います。
 そのまま1-3で北九州の勝利となりました。
■総シュート数はJ2で最下位、被シュート数はJ2で3番目に多い北九州
 最終的にシュート数はジェフが24本、北九州が8本と大差が付き、ジェフは久々に多くのシュートを放てたことになった試合でした。
 けれども、これは北九州の術中にはまったと言っていいでしょう。
 例えば8月3日の北九州対札幌戦でも札幌に20本シュートを打たれ、北九州はシュート5本でしたが
2-0で勝利しています。
 北九州はシーズン通じての総シュート数でもJ2で22位と最下位で、逆に被シュート数はJ2で3番目に多い。
 それでも現在4位と好位置につけているわけです。
 いかに打てばいいというわけではないことかが、わかると思います。


 ただし、決していわゆる"ドン引き"での守備をしているわけではないと私は思います。
 確かにこの日は低めのラインではありましたが、4-4-2の3ラインを形成し組織的なディフェンスに強みのあるチームと言えると思います。
 W杯でも注目されたのが5バックの守備で、ジェフは6バックまでやりましたけど、ああいった守備の方が後方にスペースを与えないことになる。
 特に横に人数が増えるわけですが、4×4だとサイドには当然スペースが出来やすい。
 そのため、北九州戦のジェフは久しぶりにサイドから数多くクロスを上げることが出来たのだと思います。


 けれども、5バックだと人数が多くなり、統率がしにくくなる。
 等間隔に守りにくいし、ラインコントロールも難しい。
 そして、どうしても押し込まれ気味になるから、セカンドボールも拾いにくくなる。
 4-4-2だとその点で優位で、前に2トップもいるからカウンターも有効に作りやすい。
 そのカウンターから原や池元といったキレのあるFWが、素早く攻撃の形を作って効果的に得点を奪ってくるチームということになりますね。
 この決定力も北九州の大きな武器となっています。



 4×4のボックスというと松田監督時代の栃木なども有名で、ジェフも鈴木監督が解任前にやっていました。
 しかし、北九州は左右にもコンパクトな印象で、より4×4のボックスの中に入れないことを強く意識している印象があります。
 だから昨日の試合でもジェフがクロスを上げやすかった部分はあるし、ミドルシュートも狙いやすかった。
 けれども、ボランチ前からのミドルシュートが非常に多かったですが、そこから前に2人も3人も相手選手がいるのだから、当然ゴールは遠い。


 大勝した北九州ですが、動きは重いように見えたし、コンディションは良くなかったのではないでしょうか。
 北九州も水曜日に天皇杯甲府戦を戦ったのですが、ほぼベストメンバーでPK戦まで戦い抜きました。
 リーグ戦でも前節は3-5で福岡に負けていますし、状況は良くなかったのかもしれません。
 運動量も少なかったし、守備時の一歩目の遅さも感じました。
 それでも戦術的にやることがはっきりしているので、あそこまで戦えたという部分もあるのかもしれません。



 北九州は相手によってやり方を変えるようなチームではなく、4-4-2で来るのはわかっていたはずですが、ジェフからは北九州対策を感じませんでした。
 以前から話しているように、関塚監督が就任してからポストプレーからの展開が作れていない。
 中央で縦パスがなかなか入らず、入ったとしてもそれを受ける選手が誰なのか、どうサポートするのかといった連動性がみられず、そこでパスワークが終わってしまう。
 だから、ボックスの中を崩せなかった。
 この日も後方で味方選手がボールを持っても、ボックスの中で後ろ向きで棒立ちになって、ボールを待っている選手が非常に多かったですね。


 加えて、素早いサイドチェンジからの展開というのもなく、相手を揺さぶれなかった。
 コンパクトな4-4-2に対してサイドチェンジで揺さぶるというのは1つの王道だと思うのですが、逆サイドに素早く展開してクロスといった攻撃や、相手を広げてから中に入れるという展開はほとんどなかったと思います。
 その結果、中でも外でも有効な崩しというのはできなかったと思います。



 しかし、この辺りは予想の範囲内。
 相手を崩せないなら大外から叩けばいい。
 それはそれで1つの考え方だと思うのですが、この日のスタートは1トップだったため、キックオフからゴール前におけるクロスに対する迫力を感じられませんでした。
 相手の疲労などはあったのでしょうが、オナイウが入って2トップになってからようやくチャンスが作れるようになったのも、偶然ではなかったように思います。


 確かにオナイウにはまだまだ課題があります。
 また、ケンペス天皇杯で120分間使ってしまったために、この日は起用できなかったという部分も大きかったのかもしれません。
 そう考えると消耗戦の末勝利した天皇杯での代償は、決して少なくなかったようにも思ってしまいますが…。
 けれども、代わりに幸野をゴール前に飛び込ませるような動きも少なかったように思いますし、あまりにも1トップでどう点を取るのかが見えてこなかったですね。



 幸野、慶をスタメン出場し、オナイウ、町田を残しておいたことを考えると後半勝負だったのか。
 それも1つの案とも思うのですが、前半守備を固めて(あるいは様子を見て)後半勝負するには、あまりにもベースとなる守備が脆すぎる印象です。
 これでリーグ戦では2試合連続で3失点ですし、中盤の守備の穴からやられていることが多く、失点の形もあまり得ないように思います。


 ともかく、戦術的に完敗といっていい試合だったのではないかと思います。
 その課題を認めて、1つ1つ克服していってほしいところではないでしょうか。