「迷いを捨てたジェフ」がプレーオフ決勝進出

 今年初めて実施されたJ1昇格プレーオフ
 しかし、舞台はJリーグ開幕から横浜フリューゲルス横浜マリノスが使用しており、Jリーグ開幕前にはジェフの前身である古河も使っていたニッパツ三ツ沢球技場ということもあって、どこか懐かしい雰囲気もあったというか不思議な感覚になりました。


 スタジアムの盛り上がりも、以前のJリーグ…というか、J1の頃を思い出すようなところもあったりして。
 三ツ沢にはアウェイに限らず多くのジェフサポが集まっており、チームにとって良い雰囲気を作れていたのではないかと思います。
 決勝でもかなりの集客が見込めると思うのですが、J1昇格へのステップとして、そういったサポやファンの雰囲気作りなども求められるのかなとも思いますね。
 まさにクラブの総力をかけて臨まなければいけないプレーオフ
 その準決勝が開催されました。
■藤田の飛び出しから先制点
 キックオフから両チーム、球際で激しい試合展開に。
 ピッチ上のいたるところでがつがつと選手たちがぶつかり合うシーンが見受けられ、スタートからこの試合にかける思いというのを強く感じました。
 しかし、前半5分過ぎには、早くも横浜FCのプレスが落ち着いていきました。
 徐々にジェフがボールを保持する時間が長くなっていきます。



 ただ、ジェフがボールを持っているといっても、そこからの攻撃の形というのはなかなか作れない展開でした。
 ここ数試合のジェフは『後方からグラウンダーの縦パス、FWがポストに受けて落としている間にウイングが縦に走りこんで、そこにパスを出す』という流れで攻撃を作っていきました。
 これができてきたからこそ、先日「木山監督のサッカーが少しずつ見えてきた」とブログに書いたのですが、やはりこれは相手の守備に課題があった分、うまくいったところもあったように思います。


 この試合での横浜FCの守備は、まず後方からの縦パス対して、パスコースを消すポジショニングに入る。
 次にポストプレーに対してはCBがかなり警戒して、FWにボールが入った瞬間に潰しにかかってきました。
 そして、サイドへの展開に対しても、横浜FCのSHとSBがスペースを消して、前を向かせない守備をしていました。
 前からのプレスはあまり来てはいませんでしたけど、そこから後の展開はやらせない、狙いを持った守り方だったと思います。



 しかし、前半の25分過ぎから徐々に横浜FCの選手たちの動きが落ちていき、パスコースを消す動きが遅れていきます。
 基本的にはスペースを消す守り方ですから、一歩でもボールホルダーへの守備が遅れると、他の選手がそこへのカバーなどへ行かなければならなくなるため、そこから全体のバランスがバタッと崩れてしまう。
 一方のジェフは非常にコンディションが良く、運動量も変わらないどころか、むしろこの時間から佐藤勇人や渡邊の攻撃参加の回数が増えていき、相手の守備を混乱させていきます。


 そして、前半の35分。
 後方の勇人から相手DFの裏を突く一発のロングボールに、藤田が抜け出して先制ゴール。
 向かい風の状況を利用して、勇人がうまくGKとDFの間に落ちるボールを入れましたね。
 さすが風の強い臨海育ちの佐藤勇人


 一方で相手GKのシュナイダーはそのボールに対して、中途半端に前に出てしまいました。
 試合序盤から横浜FCミドルシュートを積極的に打ってきましたけど、岡本は冷静に対応していたことを考えると、GKの差というのも出たのかな?と感じるところがありました。
 また、このシーンに限らず藤田が裏をどんどん取りに行っていたプレーも、効果的でしたね。
 徳島戦序盤では「ポストからの流ればかりで単調になりがちで裏を取れなかった」という話をしましたが、怪我明けの藤田もプレーオフに合わせて調子を整え、しっかりと裏も狙えるところにまで戻してきたのかなと思います。
■後半3ゴールを決めてジェフの大勝
 後半開始直後もジェフの流れで試合が続きます。
 前半の立ち上りからテンションの高い試合でしたから息切れが心配でしたが、今日のジェフにはそんな心配は無用だったようです。


 しかし、なかなか追加点とまではいかない展開で、少しずつ流れが横浜FCのほうに進むのかな?と思われ始めた後半8分。
 後方でボールを奪ったところから藤田にあてて、健太郎が受けたところで米倉が飛び出してゴール。
 カウンターからの展開ではありましたけど、木山監督の目指すパターンのような形ではあったと思います。


 健太郎のボールも良かったですけど、米倉の飛び出しからトラップ、シュートというのが、素晴らしく"きれい"でしたね。
 徳島戦でのゴールでもトラップで相手を抜き去りましたし、ここ来て成長してきているところかもしれませんね。
 米倉がこの大事な場面で活躍してくれているというのは、すごくうれしいですね。
 あとはフルシーズンを通して、このパフォーマンスが維持できるかどうかというところなのでしょうが。


 また、レギュラーだった田中などが負傷しても、こうやって好調な選手をどんどん出てきて穴を埋める以上の活躍を見せてくれるのも、選手層が厚いからこそだと思います。
 ここにきて選手層の厚さが、ようやく実になってきたのかなと思います。



 続いて、後半13分には藤田が受けて中盤に落としてから、サイドボールを受けて豪快にシュート。
 これで3-0としてほぼ試合を手中に収めました。
 元横浜FCの藤田が古巣相手に活躍する展開となりましたね…。


 その後、横浜FCは田原に続き、永井、カイオと次々にFWを起用。
 しかし、中盤の選手は前半から疲れが見えていたところもありましたし、フォーメーションを変えたことでバランスが崩れ、ビルドアップも難しい状況に。
 3点ビハインドとなって精神的な問題も出ていたのでしょうけど、結果的に采配は失敗となってしまったのかなと。
 もう少し早く動いていても良かったような気もしましたが…。


 後半41分にはCKから健太郎が決めてトドメを刺します。
 その前にファーでフリーになった途中出場の荒田のシュートを相手GKがはじき、それを拾った大岩が受けてシュート。
 それが相手DFにあたったところを、最後に健太郎が決めた展開でした。 
 ちょっと相手の守備ももう気持ちが切れていたのかもしれませんが、ここも好調な健太郎が結果を出せたということで、そういう意味でもよい追加点だったのかなと思います。
■今度はジェフが追われる立場に
 思った以上に、両者の力の差が出た試合だったと思います。
 城福監督は「噛み合ったジェフはとてつもなく強い」といっていましたけど、まさにそんな感じというか。


 ここ数年に限らず、長い歴史の中で考えてみても「迷いを捨てたジェフ」というのは、すごく強いのかもしれませんね。
 問題はそれを長期間、続けられるかどうかなのでしょうが。
 わからない人には申し訳ないですけど、ガンダムの冨野監督が「迷いのない時のシャア」はアムロを倒せると話していますが、そんな感じで。
 しかし、迷いを捨てられないからシャアは勝てないわけですが…。



 横浜FCに関しては、まずコンディションの差が大きかったかなと。
 横浜FCはリーグ戦のシーズン終盤で追い上げ、最後まで自動昇格の可能性のあったこともあって、リーグ戦の最後まで全力で戦うしかなかった。
 対してジェフは一足先にプレーオフを決めており、準備する時間があったことが追い風になったのかなと思います。


 また、横浜FCは引き分けで勝ち抜けるという意識が強すぎたせいか、攻撃に転じた時の勢いを感じませんでした。
 試合序盤、積極的に狙っていたミドルシュートも、前半横浜FCのほうが追い風で、ジェフの守備がゴール前に集まる分、中盤での守備が遅れがちになり、逆にゴール前は堅いということもあって理にはかなっているとは思います。
 しかし、一方でそれによって攻撃は淡白になりがちで。
 失点するまではあまりリスクを負わないように、ボールを失うにしてもシュートで終わることで、カウンターを受けないようにしていたのかなと思います。


 もちろん失点した場合は攻めようという考えだったとは思うのですけど、なかなか一度傾いた意識というのは取り除けないのか、前にボールを運んでもそこからの積極的な攻撃参加や思い切りの良い仕掛けというのは、なかなか見られなかったですね。
 もっと強いチームなら臨機応変にやれるのかもしれませんけど、なかなかこのレベルでは難しいのかなとも思います。
 奇しくも京都対大分戦も4-0という大きなスコアで大分が勝つという番狂わせになりましたけど、京都も守備に傾いた意識に囚われすぎてしまったのでしょうか。
 まぁ、大差がついたのはH&Aではない一発勝負ということもあって、2点、3点がついたところで精神的に落ちてしまうというところもあったのではないかと思いますが。
 そこに関しても、まだまだ未熟なJ2レベルのチームというところもあるのではないかと思ったりもします。



 ジェフは決勝で最終順位6位の大分で対戦することになりましたから、今度はジェフが引き分けでも昇格決定ということになります。
 しかし、引き分けなどなかなか狙って出来るものでもないですし、そこへの意識を強くしすぎると危険だと思いますから、引き分けなど考えず試合に臨んでほしいと思います。


 準決勝では高いテンションそのままに、良い試合ができたとは思いますが、決してこれで終わりではありません。
 次で負ければ何の意味もなくなってしまいますし、喜ぶのは決勝で勝ってから。
 今度は順位的にも前評判などでもジェフが追われる立場になるのではないかと思いますし、また違った難しさがあるかもしれません。
 プレッシャーのかかる条件下でも良い試合ができるように、しっかりと準備をして決勝に臨みたいですね。